無料ケータイ小説ならプリ小説 byGMO

第4話

植 物 図 鑑 ep.03
植物図鑑  - our story -  /  ep.03


____ chapter 2 入籍報告 ____




いつもの居酒屋に着き、

当然のようにビールを注文するさやかに

同僚達の視線が突き刺さった。



s “何?

‘河野さんアルコールとってもいいんですか?

‘そうだよー、お腹によくないって!



はあ。とさやかは溜息をついた。



この反応には今日一日で

随分と耐性もついたが、

一々反論しないといけないのが面倒だ。

しかし、勘違いされたままでは困る。



s “言っておくけど … できちゃったわけじゃないから!

‘ えええーーーー!!?そうなのーーー!!?



この反応も今日何度目だろう?



次に来る質問も予想通りのものだった。

そして、それに対しては

どう答えるのが正解か、いまだに分からない。



’ じゃあ、何でこんな急に?



って、言われても。

自分がしたいと思ったときに

するものじゃないの?

とは、思うが、

相手はそれでは納得してくれない。



答えに迷っていると、

横から今回の幹事を勤める同期が

救いの手を差し伸べてきた。



‘ まあまあ、飲み物も来た事だし。まずははじめようよ!



さやかはほっとしながら

自分のグラスに手を伸ばした。



s “さやかへの質問はそれから順番にってことで!



前言撤回。こいつも野次馬の一人だった。

さやかはこっそりと頭を抱えた。



’ それでは、サヤカの結婚にカンパーイ!



という幹事の音頭で始まった呑み会は、

次の瞬間尋問へと変わった。



‘ 旦那様の年齢は?

s “えーと、学年で一こ上



たいした答えをしたわけでもないのに、

集まった同僚が「おおおー」と沸いた。



’ で、職業は?

s “大学で植物の研究してる



へええー、と声が意外そうな色に変わった。



‘ 意外。あんたがそういうアカデミックな相手選ぶとはねえ

s “や、あの。研究っていっても殆どフィールドワークだから!

‘ じゃ、アウトドア系なんだ。ふーん



いや、そういうわけでも …

という言葉は口にする前に消えた。

なら、どういう系統かと聞かれても

一言では答えにくい。



‘ で …



いよいよ本題とばかりに、全員が詰め寄る



’ プロポーズの言葉は?



息を潜めて、サヤカの答えを待つ姿に

思わず腰が引けた。



s “その … ね。誕生日プレゼント何がいい?って聞いたら



うんうん、と一同が頷きながら続きを待つ。



s “金はかからないけど、すごく大それたものが欲しいって言われて …



それで? と皆は無言で続きを促した。



さやかは目の前のビールを煽ると、

一気に言った。



s “それでプロポーズされて、彼の誕生日に婚姻届出してきました!



ああー、恥ずかしい。

さやかの顔が一気に火照る。



が、予想していたようなどよめきは

何時まで待っても来ない。



見渡せば、同僚達が不満そうに

さやかのほうを眺めている。



s “へ … ?何で?

‘ 何でって、その、肝心のプロポーズの言葉は?

s “って、言ったも同然じゃない!

‘ いやー、とどめの一言がまだでっせ



怪しい関西弁で詰め寄る同期に

思わず逃げ出したくなったが、

周りを囲まれていてはそれもかなわない。



s “そこは、ほら、プライベートってことで!

‘ いやいやー、後学のためにも聞いておかないと。ね?

‘ そうそう、減るもんじゃなし



いや、減りそうな気がする。何かが!



そんなサヤカの心情は無視され、

ビールがなみなみと注がれたグラスが

横から差し出された。



‘ さー、言ってみよー!

‘ 言えないのなら、言うまで呑んで見よう!



同僚と酒の攻防戦を繰り返し、

何とかプロポーズの言葉は死守したものの、

それからも尋問の手は緩まない。



大体、何が悲しくて夜の事情まで

吐かなきゃならないのよ!



酔いの回る頭を必死に動かしながら

質問をかわし続けるサヤカに、

最後にとどめの一言が来た。



‘ ところで、最後にもう一回聞いておくけど。本当にできてない?

s “だーーーかーーーらーーー、違うって言ってるでしょーーーー!!!!!



さやかがガン!とテーブルにグラスを

置くのを合図に、呑み会はお開きとなった。



同僚達と別れ、いつもの駅に降りたつと、

改札前で樹が待っていた。



i ‘なんか疲れてるみたいだけど … 大丈夫?

s “うーん。ちょっと色々尋問された



さやかは樹にもたれるようにして応えた。



i ‘もしかして、迷惑だった?



急に結婚なんて。



その言葉にさやかは、

ゆっくりと首を横に振った。



s “ううん。すごく幸せで嬉しい



さやかの言葉に樹は安心したように

背中に手を回した。



s “ちょっと、勘違いされちゃっただけ

i ‘勘違い?

s “出来ちゃった婚じゃないかって



あああ。樹が納得したように笑った。



i ‘さすがに順番は返られないけど … リクエストには応えますが。頑張ってみる?



樹の言葉の意味に、

さやかの顔が真っ赤に染まった。



s “い、いつき?

i ‘冗談だよ。いつかは欲しいけど、俺も就職したばかりだし。もう少し落ち着いてからゆっくりでもいいかな



そっか … 欲しいのか。

さやかは思わず微笑んだ。



きっと子供が出来たら、

樹が小さい頃から近所をあちこち連れ回って、

ささやかな草花の名前を英才教育で

叩き込むだろう。



そんな日は来るかもしれない、

来ないかもしれない —



どちらにしてもきっと幸せに暮らしていける。



樹はサヤカの背中から手を外すと、

そっと手を握り締めた。



i ‘帰ろうか?

s “うん



二人の家へ。




fin. __________

✒︎ chloé