植物図鑑 - our story - / ep.05
_____ chapter 3 小ちゃなヤキモチ _____
翌日、さやかは買い物袋を
片手に家路についた。
商店街は早い時間に閉まってしまうので
さやかの平日の買い物は駅前のスーパーだ。
普段は割高なスーパーだが、
この時間には閉店間際の安売りセールに
当たることがあるので結構お得だ。
玄関をあけ夕飯の準備を一通り終えると、
テーブルの上に放り投げたままの
郵便物を仕分けする。
ダイレクトメールの宛名部分を千切り捨て、
中身を確認せずにそのまま
紙ゴミの山に放り込む。
そんな中、一つの封筒に
さやかの目がとまった。
可愛いピンクの花柄の封筒に
女性特有の繊細な字で宛名が書かれていた。
「日下部 樹様」
慌てて裏を返し、
差出人の名前を見てさやかは固まった。
「杏奈」
苗字などもはや目に入らなかった。
どこからどう見ても女性の名前に
動揺を押さえられない。
書かれた住所は樹の実家の近所のものだ。
… 誰?
さやかの知らない樹がいる気がした。
離れている間の事を二人で報告しあったけど、
全てを知る事はできない。
頭がひどく混乱する。
さやかはそのまま動くことができなかった。
i ‘ただいまー
部屋の明かりに浮かれながら、
樹は玄関を開いた。
i ‘さやか?
いつもなら、直ぐに飛んでくるはずの
妻の返事がない。
i ‘もしかして、寝ちゃった?
と、リビングを覗くと椅子に座ったままの
さやかの肩がびくんと揺れ、
慌てたように立ち上がった。
s “お、おかえり
i ‘ただいま。何かあった?
s “ううん。何も。あ、郵便届いてたよ、樹宛て
動揺しているの丸判りなんだけどな。
樹は訝しがりつつも、
さやかから封筒を受け取った。
封筒を裏返し、差出人の名をみて
樹の目が輝いた。
i ‘杏奈ちゃんかー!
嬉しそうに丁寧に封をあける姿をみて、
さやかはまた落ち込んだ。
随分と仲がいいんだ。
i ‘前に話さなかったっけ?俺が実家に帰っていたときに公園で仲良くなった子だよ。この間、図鑑贈ったからそのお礼だって
そういえば、そんな話をしたような気もする。
s “そう
ここの住所教えたんだ。
i ‘あ、太一君と仲直りしたんだー!よかった!
ん?ちょっと待て、太一君って誰だ?
i ‘さやか。変な顔してる
樹がさやかの様子にとうとう吹き出した。
i ‘俺、言ってなかったっけ?太一君は杏奈ちゃんの幼馴染でクラスメート。ついでに言うと二人とも小学2年生です
しょ、小学生 … しかも低学年に
ヤキモチ妬いていたのかあたしは!
どんだけ心狭いのよ!!
心の中でガックリと膝をついたさやかの頭を
樹がヨシヨシと撫でた。
s “だって、その字。どうみても大人の字だし
i ‘うん。宛名が上手くかけなくてお母さんに書いて貰ったって
s “公園の話は聞いてたけど、サクラちゃんの飼い主の子としか聞いてないと思う
i ‘え?ホントに?
必死に記憶をたどる樹の姿に、
さやかの顔がほころんだ。
なんだ、話して見たらなんて単純な事だろう。
すると、背中が急に重くなった。
i ‘なんか言うことは?
樹がさやかに覆いかぶさるように抱きつく。
s “うー。結婚したって言うのにヤキモチ妬いてました。ごめんなさい
その言葉に樹の腕に力がこもる。
s “ちょっ!苦しいよ!樹
i ‘だって、さやかが可愛いから
s “なんで?ヤキモチ妬いてたんだよ。樹のことを信じてないみたいじゃない
i ‘うん。ヤキモチ妬いてくれるくらい俺の事が好きって事でしょ?
樹の言葉にさやかの顔が一気に火照る。
i ‘さて、奥さんの誤解も解けたことだし … 夕飯は … ?
s “ああああーーーー!!!下ごしらえだけで忘れてたーーー!!!
頭を抱えたさやかを樹は軽々と抱き上げた。
i ‘じゃ、先にさやかから
s “い、いつき?
i ‘あんな可愛いとこ見せられるとね。ちょっと抑えがきかない
s “ふ、風呂入ってないしっ!
i ‘あとで二人で入ろっか
s “夕飯は!?
i ‘あと仕上げだけでしょ。俺がやるよ
s “こ、今度は絶対に腕振るうんだからね
i ‘うん。楽しみにしてるよ
そんな話をしながら、
二人は寝室へ消えていった。
fin. __________
✒︎ chloé
◎ この話で出て来る 杏奈ちゃん ・ 太一君は、映画では出てきませんが小説で出てくるキャラクターです。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。