第3話

植 物 図 鑑 ep.02
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2018/05/10 03:35
植 物 図 鑑  - our story -  /  ep.02


____ chapter 2 入籍報告 ____




いつもより早めに出勤したさやかは、

荷物を置くと課長の席へと向かった。



さやかの直接の上司である課長は

誰よりも早く出勤し、

静かなオフィスでコーヒーを飲みながら

菓子パンを齧りながら

新聞を読むのが日課らしい。

おかげで捕まえるのが楽で助かる。



課長の前でうっかりヘクソカズラなんて

口を滑られせてしまったのも

もちろん、課長は覚えているだろう。



課長は近づいてきた足音にそっと

目線を上げると、また新聞へと目を移した。



s ”おはようございます

課長 ‘ああ、おはよう。今日は早いね



返事をしながらも視線は新聞の活字を

追い続ける。始業まであと少し。

それまでに読んでしまいたいのだろう



s “課長に個人的に報告したいことがあります

課長 ‘なんだね?

s “実は私、結婚しました



課長の手から新聞がばさりと落ちた。

そのまま、首をぐぎぎと回して

視線をサヤカへとむける。



課長 ‘今、君なんて?

s “ですから。結婚しました、と

課長 ‘結婚しますじゃなくて「しました」?

s “あ、はい。先日入籍済ませちゃったんで



当人は何てことのないように言うが、

そもそも彼女にそんな浮いた話が

あったとは初耳だ。



課長 ’そうか… いや、突然でびっくりした。

s “というわけですので、午前中は人事と総務の方へ各種手続きに行きたいんですが

課長 ‘あ、ああ。そうだね。うん、朝礼終わったらいってらっしゃい



課長はポケットからハンカチをだし、

額の汗をぬぐうとコーヒーを一口すすった。



課長 ’で、式はいつなのかね?新婚旅行は?

s “式は今のところ予定はないです。新婚旅行も省略なので、長期休暇もいりません



サヤカの答えに課長の頭の中に

ある事が浮かんだ。



急な結婚。

しかも入籍のみで新婚旅行もなし…

ということは、、、



課長 ‘あー、河野君。失礼なことを聞くようだが…君、体調のほうは?

s “はい?

課長 ’とりあえず、重いものを運んだりするのは他の者にやらせるようにして、無理のないように…

s “あの、今までどおりでかまいませんが?

課長 ‘そういう訳にもいかんだろう。万が一、何かあったらどうするんだ。うちもなあ、一人目が生まれた時は家内が…



そこまで言われて、ようやく気が付いた。

物凄く勘違いされてる。



s “課長。あの、誤解されているようですが。別に妊娠したとかじゃありませんから

課長 ’ … へ?そうなの?

s ‘はい

課長 ‘いや、ほら、急に結婚したなんて言って、その上、式も旅行も無しなんて言うから、僕はてっきり … 違うの?

s “はい …



課長は気まずそうに頭をかいた。



課長 ’あーー、とにかく結婚の件は朝礼の時にみんなに報告。それから手続き関係いってらっしゃい

s “ありがとうございます



ペコリと頭を下げ、

自席に戻る部下を見送りながら

課長は大きく溜息をついた。

もはや新聞の内容は

これっぽっちも頭に入らない。



課長 ‘最近の若い子はわからないねえ …



課長は首を大きく回すと、

コーヒーの残りをすすった。



サヤカは思わず大きな溜息をついた。

まあ、驚かれるだろうとは思っていたが...



朝礼で結婚の報告をしたサヤカを襲ったのは、

一瞬の沈黙と津波のようなどよめき。

そして中にはがっくり肩を落とす

男性社員までいる。



それもそのはず。

彼氏はいないと噂されていたさやかが、

いきなり結婚。驚かないはずがない。



ましてはダントツで

「 可愛い 」や「 美人 」の部類に入る容姿を

持ち合わせたさやかの事だ。

狙ってた男性社員が

何人かいてもおかしくはない。



さやか本人が全く知らず、自覚のないだけで。



朝会でてっきりさやかの

結婚の話題は終わったと思った。



が … しかし … 。



勤務中でさえさやかの話題で社内は持ちきり。



陰口ではない事は知っているが

自分に対して

ヒソヒソとやられるのは非常に気分が悪い。



’仕方ないわよー。あまりに急だもの



同期の女子社員がポンとサヤカの肩を叩いた。



‘社内であんたと仲の良かった子たちが誰一人知らなかったっていうのもねー。相談くらいしてくれても良かったんじゃない?



呆れたような声に、思わずサヤカは俯いた。



’ってーわけで、今日はあんたを徹底尋問ってことで呑み決定ね!

s “ちょ!

‘早めに火消ししないと変な噂流れるわよー?

s “変な噂って!?

‘もうすでに一部流れてるけどね。出来ちゃったとか、悪い男に騙されてるとか



サヤカは思わず目を瞠った。



s” … わかった

‘じゃ、場所はいつもの飲み屋でいいわよね?

s “言っておくけど二次会はパスだからね!

‘新婚さんにそこまで無理させないわよ。じゃ、時間は後で連絡するわー。



はぁぁぁ。

さやかは思わず大きなため息をついた。



まさかそんな噂まで流れるとは。

今日は帰りが遅くなりそう、

樹にメール打たないと、そう思い

さやかは携帯を開くとメールを送信した。



s “ごめん、呑み会入った。一次会で帰るようにします

i ‘わかった。帰り駅まで迎えにいくから店を出るときに電話して



すぐ返ってきた返事に思わず笑みがこぼれた。

相変わらず心配性なんだから!

でもそれが嬉しい。



いつの間にか先ほどまでの

モヤモヤした気分が吹き飛んでいた。



これからは、樹がいる。ずっと。

だから頑張ろう!

サヤカは晴れ晴れとした気分で

オフィスへと戻った。



そんなさやかが、

社員からの質問攻めにあうのは、

これから数時間先の話 — 。





next . ___________

✒︎ chloé

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