私がこうなってしまった日の経緯を話せば少し長くなることだろう。
その日あたりは大雨が続いていた。
4月という季節には割に合わないような雨の威力といい、風といい
そんな天気のまま始まった私の初出勤。
私はというと、高校時代のみんなには言えないような仕事先に就職したわけで。
就職試験の日に、面接で即落ちKOをかました私に友達は 大丈夫だ なんて言ってくれてたけれど、私は結局大丈夫じゃないところに入社したようなものだ。
私のいとこはマイキーこと、佐野万次郎。
私が就職先に困っていることを家族伝いで聞いたらしく、私は 梵天 へとストレート入社。反社の世界にようこそ というわけだ。
私の仕事というのはいたって普通な方。自分の手は汚さないし、ただ人数分のお茶とお茶菓子を用意すればいいだけの アシスタント みたいな仕事内容。
初出勤からこんな大雨だなんて気分が乗らない。折り畳み傘をバッと勢いよくあけると歩き出した私。
コツコツと路面とハイヒールがタッチする度にそんな音が鳴っている。
そう言えば最近、私は一人暮らしを初めて1週間経った。一人暮らしを初めてから少ししか経たないが、私にはひとつの悩みがある。
それは ストーカー行為 をされていること。
家に帰ってポストをみるとよく分からない封筒があったり、その中身をみれば ずっと見てる なんて文面が広がっていて、さすがにこれには引いた。
今日も帰宅すればそんなんがあるのだろうと思ってみると肩が落ちる。
ため息をついた先には 梵天のアジト 。
『失礼します』と言って入ればマイキーが私を出迎えてくれた。
マイキー「ごめんな、あなた」
いきなり謝られたものだから頭にハテナが浮かんだ。
『う、うん………?』
マイキー「お茶だけ用意すればいいとか言ってたくせに、今日お前にはもうひとつ頼みてぇことがあって」
そう言うと、私に茶色い封筒を渡した。
マイキー「これ、九井ってやつが今言ってるここに届けてくれ。」
渡されたメモには九井さんと言う人がいるらしい取引先の住所が書かれていた。
『わかった!』そう言って私はその場所へと歩き始めたのだが…………
しばらくして気づいた。私が歩いている歩幅とそんなに変わらないくらいの速さで常に後ろから響く足音。
つけられているんだ とその時知った。これはどうしようと思いながらもずるずるとその距離のまま歩く。
ようやくついた取引先では、控え室で待つようにと促された。九井さんは少し忙しいみたいで、後から向かうとのこと。
私はそのまま、さっき後ろでつけていた人はちゃんとまくことができたかな なんて考えていた。あわよくば、ここの建物に入ってくるまでに誰かに あなたはダメです と言われて門前払いされてたらいいな なんて。
でもその期待はあっさり破られ、ガチャと開いた扉からは知らない男性が私を見ながらズカズカと近づいてきた。
《初出勤おめでとう♡》なんて耳元で囁かれ、私の背筋はぞくぞくとなった。
それになぜこの人は私が初めての出勤だということを知っているのか。
その男性は息を荒らげて私にもっと近づいてくるもんだから
『いやッ……』
そう言って顔を背ける。
《俺を拒むな!!!》と、青筋を立てたその男性。あぁ、おわった
私の貞操観念はここできっと崩れるんだろうな、なんてどこかで諦めがついていた時だった。
「まさか、うちの新社員が 私情 もうまく済ますことのできねぇ奴だなんてな」
そんな声がこの控え室に響いた。九井さんが来たのかと思いその声の主をみる。
彼は私を射抜くと「助けて欲しいか?」そう言った。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!