仁恋叶実だ。
自分で自分の事が好きかなんて聞ける程の自身がある訳もなくてスルーしたのに……
引き釣り込まないで。
君への好きが
速度を増してしまう。
やめて。
そんな真っ直ぐに向けてくれた言葉だって、
可愛げの無い言葉でしか返す事が出来ないのに……
暫く体が硬直して
やっとの思いで動かした口は案の定、
素っ気無い返事しか出来なかった。
『かなは今、ゆひの事が好きだよ。』
なんてそんな言葉ですらつっかえて
またタイミングを失う許だった。
こんなに無意味な言葉を発しても何かが変わる事なんてないのに…
私は動く唇を止めようとは思わなかった。
止められなかった。
『内緒にしててね』
何時か私が言った言葉を
まるでそっくりそのまま返されている様で
さっさとゆひから離れたくなった。
速く……
速く……
家へ。
マンションへ。
ゆひの姿や声を見失うまで
早歩きで帰路を辿る。
マンションへ着くとそこには
1つ年下の男の子
『光流』が居た。
家の鍵を忘れて、
弟の
『明流』を待っていたらしい。
光流にさっきの出来事を話した。
自分だけでは処理しきれないから、
全部話した。
ごめんね。
15分で約束破ったよ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。