第22話

ゲレンデの彼と巧妙な罠

おあずけをくらった翌日。
朝食もそっちのけでさっちょんと作戦を練る。

紗季
紗季
私は部屋に光くんを誘導して
心美は遊佐の部屋に忍び込む
それしかないわよ
心美
心美
でもそれってどっちかが失敗したら…
紗季
紗季
今夜が最後のチャンスよ
心美
心美
でも本当に成功するのかなぁ
清井先生
清井先生
何の話をしているのですか?
心美
心美
ひっ!!
気配なく現れた先生に、心臓が止まるかと思った。
心美
心美
な、なななんでも無いです!
清井先生
清井先生
昨夜から助平さん
あなたの処遇を考えていたのですが
心美
心美
(そうだった…先生の指導を免れたのってその場しのぎだっけ?!それに先生の秘密を知っちゃったし……)
清井先生
清井先生
この旅行が終わるまで
指導は見送ることにしました
心美
心美
え!それじゃ…!
清井先生
清井先生
その代わり
通常の学校生活に戻ったら
みっちり一ヶ月の生徒指導です
心美
心美
そんなぁ〜…
清井先生
清井先生
今日のスキーは楽しんでくださいね
どこからでも見張っていますから

冷えた微笑みにざっと青ざめる。

紗季
紗季
まったく、何したら
そんなに目をつけられるのよ
なかば呆れ気味のさっちょんに、先生に抱きついたと話したらドン引きされた。






そしてまたスキー体験が始まった。

どうせ一人ぼっちだろうと覚悟を決めたけど、
やっぱりちょっと寂しい。

それに今日は自由に滑っていいみたい。


女子1
やった!
ねぇ、こっそり
中級コース行っちゃわない?
女子2
それあり!
……そうだ、助平さんもいかない?
心美
心美
え?!
まさか誘われるとは思ってなかったので声が裏返る。
スケベアーもリセイウチも驚いた様子だ。
心美
心美
いいの?
女子1
ごめんね……
なんか私達、感じ悪かったよね

謝ってくれた……!
なんだか心がじーんとする。
心美
心美
私こそ……
迷惑じゃなかったら
一緒に滑ってもいいかな?
女子2
当たり前じゃん!!
いこいこ!

急な手のひら返しに少し戸惑いつつも
私達は中級コースのリフトへと乗った。

女子2人は遊佐派かヒカル派かで
私を挟んで熱い議論を繰り広げている。

私はもちろん遊佐くんだけど……。

ふと昨日のやりとりを思い出して頬が緩む。
遊佐
遊佐
(これ以上は……
我慢できないんだよ)
心美
心美
(あの切羽詰まった声、スケベだったぁあ!あの時もし二人きりだったら大人の階段を一気に駆け上がってたのかな…)
スケベアー
スケベアー
鼻血注意報!!
前方に遊佐がいるぞ!!

スケベアーの声ではっとする。

リフトの先にはスキーウェアを身にまとった遊佐くんが立っていた。


スノーボードに似合う高身長
そして真っ白な世界に映える黒い髪。

ゴーグルに太陽が反射してキラキラしている。
心美
心美
かっこいい…
女子1
助平さん、リフト降りるよ!
心美
心美
え?!

ぼーっと見惚れていたらすでにリフトを降りる間近。

思わず尻もちをついて前へとズサァッと、転んでしまった。
遊佐
遊佐
心美?!

こちらに気づいた遊佐くんが颯爽とスノーボードでこちらへ滑ってくる。

舞い上がる雪が彼の頬をかすめて……。
心美
心美
(あぁ、あの雪になりたい…それで遊佐くんの肌の上で溶けちゃいたい……)

おバカなスケベ妄想は彼の声で止められた。
遊佐
遊佐
心美?
心美
心美
わ、私は大丈夫だから!
遊佐
遊佐
全然大丈夫じゃねえだろ!

彼が強引に手を引いたせいで思わず胸に抱きとめられてしまう。

スケベアーたちが騒ぎ出し、
リセイウチはいつものことだと呆れている。
心美
心美
ありがとう遊佐くん
遊佐
遊佐
お前なんで中級コースにいんの?
初級だっただろ?
心美
心美
え?私が初級コースだって
知ってるの?
遊佐
遊佐
あっそれは……えっと
お前の友達から聞いたんだよ!

寒さからか、彼の耳が少しだけ赤くなっている。
心美
心美
寒く無い?
カイロあげよっか?
遊佐
遊佐
いーよ、お前が持ってろ

そんなやり取りをしていると
後ろからかすかに舌打ちが聞こえた。

振り返ると班の女子2人は笑顔を向けてくる。
心美
心美
(気のせい?)
遊佐
遊佐
お前あいつらといて大丈夫なわけ?
心美
心美
大丈夫だよ!
……そうだ、一緒に滑ろうって
誘ってくれたんだった!
じゃあ、またあとでね!!
遊佐
遊佐
おい!

遊佐くんに軽く手を振って2人のもとに戻ると
彼女たちは笑顔のまま私の両手を取った。
女子1
ついて来て!!
心美
心美
え?!

まだおぼつかない足元に不安を感じるけど、
2人はどんどん山の上へと器用にのぼっていく。
女子2
ほらここ!!
ここに立って!

そこは見晴らしのいい場所。
向こう側の真っ白な山並みが見えるほど。
女子1
この山一度来たことがあって
助平さんにもいい景色見せようと思って
心美
心美
そうだったんだ……綺麗!
でもちょっと怖いかも、あはは


美しい白銀の山並みとは反対に
少し脚を滑らせればコースから外れた崖の下に落ちそうだ。
女子2
やっぱ怖いよね
心美
心美
え?
女子1
だから連れてきたんだ

怪しい笑顔を向けられ、そして背中を押される。



どん!!!
心美
心美
わっ!!

そのままバランスを崩した私は
下へ下へとコースを外れ急な斜面を滑っていく。


リセイウチ
リセイウチ
嬢ちゃん!!ハの字や!
足をハの字にするんや!!

リセイウチが何かを叫んでる。
心美
心美
ぎゃあああ!!
嫌だっ!止まってぇええええ!!

キャハハと甲高い笑い声が後ろから聞こえてきて、騙されたことにやっと気づいた。

でももう遅い。
目の間には大きな木。


ゴッ!!


真正面から木にぶつかって転ぶ。
そのまま私は崖の下へと滑り落ちていった。