第12話

鬼から隠れて✖✖に溺れる


遊佐くんの足の間にすっぽりと収まったままの私は、制服のポケットへ手を伸ばした。

少し膨らんだポケットの中身は
いつだったか遊佐くんがゴミ箱に捨てたペアリング。


私は大きめのリングをこっそりと彼の指にはめた。
遊佐
遊佐
え?……心美、これって
心美
心美
ごめん……
実はあの時、ゴミ箱から拾ったんだ
せっかく渡してくれようとしてたのに
すごくもったいなくて…
遊佐
遊佐
はぁあー……まじかよ

深く大きなため息を吐いて
彼はなんだか悔しそうに後ろから私を抱きしめた。

首筋に触れる彼の髪が少しくすぐったい。
遊佐
遊佐
かっこわりぃ
俺からちゃんと渡したかったのに…
もう片方のリング俺に返せ!

乱暴な口調とは裏腹に、遊佐くんはまるで壊れものに触れるように優しく私の右手薬指にはめた。


二人お揃いのペアリング……


なぜかツンと鼻の奥が熱くなって、今度は鼻血じゃなくて涙が滲んだ。

スケベアーたちもなんだか嬉しそう。
遊佐
遊佐
左は…まだとっておけよ
心美
心美
え、それって

まさか、結婚ーーーー?

でもその言葉は遊佐くんの手で塞がれてしまう。
心美
心美
むぐっ
遊佐
遊佐
しーっ!
誰か来た、こっち隠れるぞ

幸せをみしめる間もなく、コツリ、コツリと近づくのは悪魔の足音。

そして勢いよく屋上のドアが開いた。
清井先生
清井先生
そこに……誰かいるのですか?

ひどく温度の低い声色。

清井先生から息をひそめて、遊佐くんと私はこっそりと貯水ちょすいタンクの裏に身を隠した。
清井先生
清井先生
おかしいですね…
話し声が聞こえた気がしたのですが
心美
心美
ゆ、ゆさくん
遊佐
遊佐
しーっ、こらじっとしてろ
心美
心美
  だ、だって…
(遊佐くんが近過ぎるからっ!)

目の前には彼の首筋。

まるで私を守るように両手で壁ドン状態……。


すっと通った綺麗な首の筋が鎖骨に伸びていて
まるで私を誘ってるみたい。
スケベアー
スケベアー
絶景だぞ…世界スケベ百景に登録しよう
スケベアー
スケベアー
鎖骨のホクロなんてまるで一番星だ…!
心美
心美
(ほ、ほんとだ…触りたいっ!)
遊佐
遊佐
…っ! 
こら、こんな時にやめろスケベ!

気づけばスケベアーの興奮につられて、私の指先は彼のホクロに触れていた。
心美
心美
ご、ごめんつい…
遊佐
遊佐
……ふーん?
お前がその気なら
俺もやっていいんだろ?
心美
心美
へ?
 悪戯いたずらささやいた彼は、まるで 獲物えものをどこから食べようか見定める肉食獣みたいだ。

逃げようとすれば
腕を一つにまとめられて捕まってしまう。
遊佐
遊佐
声、出すなよ
心美
心美
…っ!

太ももに触れられたせいで身体がぴくっと跳ねた。
らすような彼の手はなんだか熱くてやけどしそう。


バクバクと心音だけが身体の中でこだまする。
遊佐
遊佐
お前の肌って、すべすべで柔らかいよな
心美
心美
……ゃ…やだ
遊佐
遊佐
しっ、声出すなって言っただろ?
バレたらお前のせいだから

そう言いつつも手を止めない彼はやっぱりドS。

そのまま熱い彼の手は
するりとスカートの中へとすべり込んだ。
心美
心美
きゃっ!

ひときわ大きな声が漏れて、思わずタンクの向こうの先生へ視線を向けた。

先生はなぜかうずくまって、こちらに見向きもしていない。
心美
心美
(よかった…バレてない)

ほっと息をついたのもつかの間、清井先生はブツブツと低くうめくように独り言を言い始めた。
遊佐
遊佐
あ?
なに言ってんだ、あの先生

遊佐くんは手を止めて、清井先生の方へと身を乗り出した。

清井先生
清井先生
はぁーーー……怖い……ムリだ…
清井先生
清井先生
怖い、女なんてムリだ……!
この私がどうして共学校なんかに!
見渡す限り、女、女、女、女だらけ!
清井先生
清井先生
はあぁ…口にするだけで寒気がする
できれば関わり合いたくないのに…!

徐々に大きくなっていく先生の独り言に
開いた口がふさがらない。

心美
心美
(女が怖い?)


まさか……
そんな素振りは全く見せていなかった。
心美
心美
(つけっぱなしの革の手袋は気になってたけど…今朝のホームルームの時だって寧ろ積極的に女子生徒を指導して……)
心美
心美
ひゃあ!!

突然動き始めた彼の手に驚いて声が漏れる。

こころなしか不機嫌そうな彼はぐっと顔を近づけた。
遊佐
遊佐
……こっちに集中しろよ
心美
心美
だ…だって向こうに先生がいるし
遊佐
遊佐
は?そんなの知らねえ
あ……そうだ俺のキスで
お前の口塞いでやろうか?
心美
心美
え、ちょっと待っ!
私の言葉は彼の唇に奪われた。
遊佐
遊佐
鼻で息しろ……
あ、もしかしてお前鼻血で息できねえ?
心美
心美
う…分かってるくせにっ
……ぷは!

息継ぎの合間、挑発的に笑う彼と目が合って顔が燃えるように熱い。

連続する溺れそうなキスに翻弄ほんろうされる。

ドコドコとスケベアーたちも太鼓を打ち鳴らして
スケベ音頭を踊っている。



と、その時―――

彼のすぐ後ろに人影が立っているのが見えて
思わず身体が固まった。
遊佐
遊佐
ん…どうした?
心美
心美
……っ!
清井先生
清井先生
君たち…
そこで何をしているのですか?


鬼はにっこりと笑った。