遊佐くんの足の間にすっぽりと収まったままの私は、制服のポケットへ手を伸ばした。
少し膨らんだポケットの中身は
いつだったか遊佐くんがゴミ箱に捨てたペアリング。
私は大きめのリングをこっそりと彼の指にはめた。
深く大きなため息を吐いて
彼はなんだか悔しそうに後ろから私を抱きしめた。
首筋に触れる彼の髪が少しくすぐったい。
乱暴な口調とは裏腹に、遊佐くんはまるで壊れものに触れるように優しく私の右手薬指にはめた。
二人お揃いのペアリング……
なぜかツンと鼻の奥が熱くなって、今度は鼻血じゃなくて涙が滲んだ。
スケベアーたちもなんだか嬉しそう。
まさか、結婚ーーーー?
でもその言葉は遊佐くんの手で塞がれてしまう。
幸せを噛みしめる間もなく、コツリ、コツリと近づくのは悪魔の足音。
そして勢いよく屋上のドアが開いた。
酷く温度の低い声色。
清井先生から息を 潜めて、遊佐くんと私はこっそりと貯水タンクの裏に身を隠した。
目の前には彼の首筋。
まるで私を守るように両手で壁ドン状態……。
すっと通った綺麗な首の筋が鎖骨に伸びていて
まるで私を誘ってるみたい。
気づけばスケベアーの興奮につられて、私の指先は彼のホクロに触れていた。
悪戯に囁いた彼は、まるで 獲物をどこから食べようか見定める肉食獣みたいだ。
逃げようとすれば
腕を一つに纏められて捕まってしまう。
太ももに触れられたせいで身体がぴくっと跳ねた。
焦らすような彼の手はなんだか熱くてやけどしそう。
バクバクと心音だけが身体の中でこだまする。
そう言いつつも手を止めない彼はやっぱりドS。
そのまま熱い彼の手は
するりとスカートの中へと滑り込んだ。
ひときわ大きな声が漏れて、思わずタンクの向こうの先生へ視線を向けた。
先生はなぜかうずくまって、こちらに見向きもしていない。
ほっと息をついたのもつかの間、清井先生はブツブツと低く呻くように独り言を言い始めた。
遊佐くんは手を止めて、清井先生の方へと身を乗り出した。
徐々に大きくなっていく先生の独り言に
開いた口が塞がらない。
まさか……
そんな素振りは全く見せていなかった。
突然動き始めた彼の手に驚いて声が漏れる。
こころなしか不機嫌そうな彼はぐっと顔を近づけた。
私の言葉は彼の唇に奪われた。
息継ぎの合間、挑発的に笑う彼と目が合って顔が燃えるように熱い。
連続する溺れそうなキスに翻弄される。
ドコドコとスケベアーたちも太鼓を打ち鳴らして
スケベ音頭を踊っている。
と、その時―――
彼のすぐ後ろに人影が立っているのが見えて
思わず身体が固まった。
鬼はにっこりと笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。