寒い。
息をするだけで冷たい空気が身体を凍らせていく。
転んだ時に足をひねったみたい。
前に進むのも一苦労だ。
理性の化身リセイウチが、こうやって話しかけてくるおかげで前向きでいられる。
だけど誰にも踏み入られていない雪は、一歩一歩が重くて体力が削られていく。
そうやっていつも辛いときは乗り越えてきた。
お父さんとお母さんが事故で亡くなったときだって……。
スケベアーたちが口々に遊佐くんの
スケベポイントを叫んでる。
もう遊佐くんにしかスケベを
感じなくなった自分にくすりと笑う。
どれくらい歩いたのだろうか。
足先は冷え切っていて、ただの棒みたい。
やっと開けた場所に出ると、
真っ赤な夕日が雪山を照らしていた。
ゆっくりと木を背にして座りこむ。
弱音をひとつこぼしたら、とめどなく溢れ出てくる。
じわりと目に涙が溜まって視界がぼやけた。
まるで神様のイタズラのように雪が降り始め、風も次第に強くなる。
かじかんだ手に涙がぽとりとこぼれ落ちた。
強くなる風に、吐き出した言葉がさらわれた。
目を閉じると頭に浮かぶのは遊佐くんとの日々。
ふわふわと彼のことを思い出して、スケベな光景が目の前に広がる。
遊佐くんの長い足、引き締まった腹筋、そしてお尻。
ふわふわと思考が霞んでいって、遠くでリセイウチとスケベアーが叫んでる。
気がつくと私は真っ白な世界にいた。
そして2つの影がそっと私の肩に手を置いた。
私を抱きしめたお母さんは耳元でこっそりささやく。
そう言った瞬間、2人はすっと消えていく。
真っ白な世界に1人残された私は
遠くから聞こえる声に向かって足をすすめた。
彼が私を呼んでいる。
私の大好きな彼は目に涙をいっぱい溜めて
私をぎゅっと抱きしめた。
彼の頬からじわりと熱が伝わってくる。
彼の熱い涙が私の頬に落ちる。
そして凍った唇を彼が溶かしてくれた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。