第23話

雪山で遭難しました


寒い。

息をするだけで冷たい空気が身体を凍らせていく。
心美
心美
いたっ!
転んだ時に足をひねったみたい。

前に進むのも一苦労だ。

心美
心美
(どうしよう……こんな場所 
 誰も助けに来てくれないし、
 自分の力で山を降りなきゃ)
リセイウチ
リセイウチ
大丈夫か?
無理せんとゆっくり進むんやで

理性の化身リセイウチが、こうやって話しかけてくるおかげで前向きでいられる。

だけど誰にも踏み入られていない雪は、一歩一歩が重くて体力が削られていく。
心美
心美
こういう時は
スケベなことを考えるのが一番!

そうやっていつも辛いときは乗り越えてきた。

お父さんとお母さんが事故で亡くなったときだって……。
スケベアー
スケベアー
遊佐のお尻を思い出せ!
スケベアー
スケベアー
いや、遊佐の腹筋だ!
スケベアー
スケベアー
違う違うホクロの位置を
思い出したほうがいい!
スケベアー
スケベアー
一番は鎖骨だろ!
心美
心美
どれも捨てがたいなぁ

スケベアーたちが口々に遊佐くんの
スケベポイントを叫んでる。

もう遊佐くんにしかスケベを
感じなくなった自分にくすりと笑う。




どれくらい歩いたのだろうか。
足先は冷え切っていて、ただの棒みたい。


やっと開けた場所に出ると、
真っ赤な夕日が雪山を照らしていた。
心美
心美
綺麗……!
リセイウチ
リセイウチ
嬢ちゃん
このまま日が暮れたら
もっと気温が低くなるで
心美
心美
そうだね、でも……
ちょっと疲れちゃった

ゆっくりと木を背にして座りこむ。

心美
心美
もう歩けないや
リセイウチ
リセイウチ
嬢ちゃん……

弱音をひとつこぼしたら、とめどなく溢れ出てくる。

心美
心美
だってこんな雪山だし
寒いし、遊佐くんもいないし
降りても降りてもずっと山だし

じわりと目に涙が溜まって視界がぼやけた。

まるで神様のイタズラのように雪が降り始め、風も次第に強くなる。


心美
心美
遊佐くんのところに帰りたい……

かじかんだ手に涙がぽとりとこぼれ落ちた。
スケベアー
スケベアー
希望を持つんだ、心美
スケベアー
スケベアー
お前がいないと遊佐が泣くぞ!
心美
心美
遊佐くん?
リセイウチ
リセイウチ
そうや嬢ちゃん、遊佐が悲しむで!
心美
心美
最後に遊佐くんと
スケベなことしたかったなぁ……

強くなる風に、吐き出した言葉がさらわれた。

目を閉じると頭に浮かぶのは遊佐くんとの日々。

心美
心美
(最初は遊佐くんのパンツを拾って
 出会ったんだっけ……
でも実は小学生の頃の初恋の相手
だって知って、それから……)
リセイウチ
リセイウチ
嬢ちゃん
こんな場所で寝たらあかん!
心美
心美
(やっと付き合えることになって、
 鼻血もいっぱいだしたっけな……)


ふわふわと彼のことを思い出して、スケベな光景が目の前に広がる。

遊佐くんの長い足、引き締まった腹筋、そしてお尻。
心美
心美
(走馬灯までスケベなんて)



ふわふわと思考が霞んでいって、遠くでリセイウチとスケベアーが叫んでる。






気がつくと私は真っ白な世界にいた。

そして2つの影がそっと私の肩に手を置いた。
心美
心美
お父さん、お母さん!
お父さん
おいおい
ちょっと来るのが早すぎないか?
心美
心美
そう……だよね
でもこれからはずっと一緒だね!
お母さん
そうね、でも私達は
いつもそばで見守っていたのよ

私を抱きしめたお母さんは耳元でこっそりささやく。


お母さん
ずっと一緒にいたでしょ?
身に覚えはない?
心美
心美
え?それって……!
お母さん
もう時間よ
彼が待ってるわ

そう言った瞬間、2人はすっと消えていく。

真っ白な世界に1人残された私は
遠くから聞こえる声に向かって足をすすめた。











遊佐
遊佐
……ここみ!心美!!

彼が私を呼んでいる。


心美
心美
ゆさくん

私の大好きな彼は目に涙をいっぱい溜めて
私をぎゅっと抱きしめた。

彼の頬からじわりと熱が伝わってくる。

心美
心美
あれ!!ゆ、遊佐くん?
夢じゃない?
遊佐
遊佐
こんな場所で寝るなバカ
死んでるかと思っただろ!
心美
心美
ごめんね


彼の熱い涙が私の頬に落ちる。

そして凍った唇を彼が溶かしてくれた。