更衣室の端でコソコソと話す隣のクラスの女子たち。
こちらを馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。
さっちょんにせかされて私は急いで浴衣を羽織った。
パンツを履いてないせいで
なんだか下半身がスースーして心許ない。
私は小さな不安を胸に、さっちょんに引っ張られながらも脱衣所を後にした。
女子たちの企みにも気づかずに……。
さっちょんとの作戦はまず
清井先生の部屋の場所を把握すること。
教員の部屋は東西の階段から一番近い場所にある。
その中の一つが清井先生の部屋だ。
さっちゃんの指示のもと、私は忍者の如く偵察する。
こっそりと階段の影から様子を見ていると
トンと肩を叩かれて声なき悲鳴をあげた。
バクバクと跳ねる心臓を深呼吸でおさめようとしたけど、彼の姿に思わず息が止まった。
「水も滴るいい男」
とは遊佐くんのために作られた言葉かもしれない。
しっとりと濡れた髪、汗ばんだ首筋。
まだ乾いてない髪から水滴が流れ
浴衣から覗く胸元につつーと滑り落ちていく。
そんな心の中を見透かしてか、遊佐くんはふっと笑顔を浮かべた。
ドSに微笑む遊佐くんは浴衣効果も相まって
更に極上の色気を纏う。
鼻奥がいやと言うほど反応して、スケベアーたちは私の周りでビービーと久しぶりの鼻血警報を発令中だ。
ぐっと近づかれたせいで、
ふわりとお風呂上がりの彼の匂いに包まれた。
タラリ…
そう言いつつ、私の腰に手を回した遊佐くんはぐっと身体を引き寄せた。
またぐっと引き寄せられて目の前には彼の胸板。
スケベアーたちがドンドコと太鼓を叩きながら踊り狂っている。
腰元にあった遊佐くんの手が私のお尻を撫でる。
予想外の出来事に顔がボッと熱くなる。
恥ずかしすぎて、思わず彼を押して後ずさった。
女子に盗まれたなんて言えない。
証拠だってないし……。
ぐるぐると考えがまとまらない内に、私は遊佐くんから逃げ出してしまった。
私は相部屋に戻ってきたさっちょんに抱きついた。
そしてこれまでのパンツ盗まれ騒動と、遊佐くんから逃げてきたことを話す。
現実を突きつけられた気がして
ぼふっと枕に顔を埋める。
やっぱり私の親友はイケメン女子だ。
この男前な性格に何度助けられたことか……。
さっちょんは、ぱちんとウインクした。
修学旅行、2日目の朝。
生徒たちは大広間で朝食を楽しんでいる。
私はというと………
なぜか清井先生呼び出しを食らっていた。
騒がしい広間から離れた廊下で、清井先生は冷え切った目で私を睨む。
あまりに急な出来事に頭の中は大混乱。
冷や汗を流しつつ先生を見上げると
すっと透明なビニール袋を差し出された。
それはまぎれもなく、私の勝負パンツでーー
ひらりと掲げられたのは小さなメモ。
「プレゼントです♡ 助平心美」と書かれてある。
呆然と立ち尽くす私の横を
女子たちがくすくすと笑いながら通り過ぎて行った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!