こちらを睨みつける遊佐くん。
私はと言うと、許嫁兼スケベ転校生に押し倒されて、
キスをされたところも見られてしまったーー。
浮気の証拠は揃ってる。
しばらく状況整理に時間がかかって…
はっとして、上に乗っている風助くんを思い切り突き飛ばした。
風助くんはソファから転げ落ちて尻もちをつく。
冷たい言葉を残し、遊佐くんはドアを閉めた。
待って、誤解なの……!
そうやって叫ぼうにも、かけられた言葉が苦しくて声がでない。
じわりと滲んだ涙をぐっと堪える。
あんな場面見たら、誰だって誤解する。
それに私、遊佐くんとの約束まで破ってどうしてこんな…。
私は鼻血をぐっと拭って立ち上がった。
飛び出してきたのは真っピンクのスケベアー。
この子は確か、風助くんの……?
風助くんは慌ててなにかをごまかそうと、私を保健室の外へと閉め出した。
人気の無い廊下。
足早に歩く遊佐くんは、待ってと言っても止まってくれない。
私はどうしていいかわからずに、彼の手首を掴んだ。
振り返ってくれない彼、そして何も言えない私の間に沈黙が流れた。
やけに静まり返った夕暮れ時が寂しさを助長する。
手が震える。
それに、今何を言ってもきっと彼は信じてくれない。
言葉が詰まって出てこなくなった。
すると遊佐くんはこちらを振り返って
苦しそうな顔で私を見下ろした。
彼のきつい言葉が胸に突き刺さる。
泣きたくないのに、また涙がこぼれそうになった。
言葉がない。
そうだよね、キスは防げたはず。
どうしてあの時……後悔ばかり押し寄せてきて
情けなくて、涙を堪えるのに必死だ。
遊佐くんがポケットから出したのは
シンプルなペアリングだった。
透明なケースの中で、シルバーリングが並んでいる。
顔を上げると、悲しそうに彼が笑った。
ゴトンーー…
彼は放り投げるようにして、ゴミ箱にペアリングを捨てた。
焦ってゴミ箱へ駆け寄ろうとした私を
彼がとっさに捕まえて抱きしめる。
え……?
突然のことに頭が回らず、
そのまま身体を預けることしかできなかった。
いつもならお祭り騒ぎのスケベアーたちも
今はすごく大人しい。
遊佐くんの声がかすかに震えていて……。
自分のしでかしたことが
どれほど彼を傷つけたか分かった。
息苦しいほど抱きしめられて、彼の気持ちが伝わってくる。
優しいキスがおでこに降ってきた。
彼の体温が離れていくと同時に、鼻血の代わりに涙がこぼれ落ちた。
そうか、私は大好きな人を傷つけたんだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。