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第21話

お風呂上がりのわずかな時間

見つかったら今度こそ生徒指導なのに……。
遊佐くんを隔てた向こうには清井先生がいる。

バクバクと心臓が脈打ち、汗が額を伝う。
清井先生
清井先生
時間はしっかりと守って下さい
平くん、君も風紀委員として
責任のある行動を心がけるように
風助
風助
風紀委員?!オレが?
清井先生
清井先生
はい?どうかしましたか?
風助
風助
え、いや、なんでもないです!
それより先生、あっちのサウナで
違反生徒についての相談があって
清井先生
清井先生
違反生徒?……いいでしょう
風助くん、ナイス!!

彼は私に軽くウインクした。


2人の足音が遠ざかっていき、
ほっと息をつくと目の前がぐるりと回転する。
心美
心美
へ?!
遊佐
遊佐
今のうちに出るぞ

気がつくと遊佐くんが私を抱き上げていて、
慌ててタオルで肌を隠す。

すたすたと彼は一直線に脱衣所へ向かった。
遊佐
遊佐
お前、まじで無防備すぎ
あんなやつに裸見せるとか
むかつくんだけど
心美
心美
それは不可抗力というか
私だって見せたくて見せたわけじゃ
遊佐
遊佐
どうかな

私は床に降ろされると、何枚ものバスタオルを強引に頭から巻きつけられて何も見えなくなった。
心美
心美
わ!!
するとそのまま彼が私を抱きしめた。
じんわりと暖かい熱がタオル越しに伝わってくる。
心美
心美
(そ、そういえば遊佐くん素っ裸じゃ)

スケベアーたちが反応する前に、彼の熱はすっと離れていった。
遊佐
遊佐
早く拭けよ
いつあの2人が出てくるか分かんねえし
また誰か入ってくるぞ
心美
心美
う、うん!
むすっとした声色。

私がタオルから頭を出せば、遊佐くんはもうすでに浴衣を着ていた。
遊佐
遊佐
先に出るから早く浴衣着ろ
彼は不機嫌な顔のまま脱衣所から出ていった。
心美
心美
(遊佐くん……なんか怒ってる?)

もやもやした気持ちのまま、身体を拭いて浴衣を着る。


そしてこっそりと男湯の暖簾のれんをくぐれば、そこにはまだ遊佐くんが立っていた。
遊佐
遊佐
おせーよ、ちょっと話しがある
久しぶりの低い声にぞくっとした。
心美
心美
もしかして別れ話?

口をついて出てしまった言葉に、彼が大きなため息をついた。
遊佐
遊佐
そんなわけねえだろ

私の手を優しく握った彼は一歩先を歩く。
彼の手のぬくもりで不思議と不安はしぼんでいく。
遊佐
遊佐
ほら、入って
連れてこられたのは遊佐くんと光くんの部屋だ。
心美
心美
でも怒られちゃう
遊佐
遊佐
消灯時間までまだ時間あるだろ
それに清井は今風呂入ってるから
誰も止めねえよ
遊佐
遊佐
安心しろ、光はもう寝てる

薄暗い畳の部屋には布団が離れた位置に敷いてあって奥の布団では光くんが寝息をたてている。
遊佐
遊佐
こっち
布団に座った遊佐くんがぽんぽんと隣をたたいた。
心美
心美
し、失礼します
遊佐
遊佐
なに緊張してんだよ
心美
心美
だって!!
遊佐
遊佐
しーー!

唇に長い人差し指を当てられ、私は口を閉じた。
遊佐
遊佐
お前もう俺しか見んなよ
心美
心美
え?私は遊佐くんしか見てないよ
遊佐
遊佐
あーー、いや違う
俺の前でしか無防備な姿
見せんなってこと
心美
心美
うん、それは気をつけるね
遊佐
遊佐
あと隠し事はなし
さっき風呂の前で俺のクラスの女子が
話しかけてきてさ、あいつらイタズラで
男湯と女湯の暖簾を取り替えたらしい
心美
心美
えっじゃあ……
遊佐
遊佐
俺が叱っておいたけど
また何かしでかしそうでさ
お前、嫌がらせされてんじゃねえの?
心美
心美
……そうかも
ぽんと彼の手が頭に乗る。
遊佐
遊佐
やっぱりな
そういうのは早く言えよ、
俺そんなに頼りない?
心美
心美
ううん、そうじゃなくて!
遊佐くんに心配かけたくなかったから
遊佐
遊佐
心配はかけていいんだよ
お前に何かあったらどうすんだよ
背に彼の腕が回ってぎゅっと抱きしめる。

遊佐
遊佐
お前だけのカラダじゃねえんだよ
心美
心美
そ、それって……
すごく色っぽい声で囁かれ鼓動が速まっていく。
心美
心美
(も、もももしかしてこのまま大人の階段のぼっちゃったりして……!)

私の周りではスケベアーたちが赤飯の準備をしようとするが、それをリセイウチが止めに入っている。
遊佐
遊佐
アイツらまじむかつく
心美をイジメていいのは俺だけなのに
心美
心美
ひゃっ
突然近づく彼の唇に、ぎゅっと目を閉じる。


・ ・ ・

遊佐
遊佐
……っぷ!
心美
心美
あれ?
遊佐
遊佐
キス、すると思った?

ドS な笑顔が目の前にあって、顔が熱くなる。

そして不意打ちで頬に熱い唇がかすめたと思うと、
彼は私を腕の中から解放した。
遊佐
遊佐
ほらもう消灯時間だろ
自分の部屋に帰れ
心美
心美
え!?


あれよあれよという間に私は廊下に閉め出された。
心美
心美
遊佐くん……
まだもうちょっと
一緒にいたい

部屋の中に語りかけると、引き戸越しに絞り出すような声が返ってきた。

遊佐
遊佐
これ以上は……
我慢できねえんだよっ
切羽詰まったその声に、鼻血がたらりと溢れ出した。
遊佐
遊佐
……光がいるし
俺は2人きりがいいんだよ
心美
心美
じゃあ明日は?!
遊佐
遊佐
このすけべ馬鹿が!

私はドSな彼にまたおあずけをくらった。