レッスンの帰り道、後ろから腕を引っ張られて振り向くと、しげが笑ってた。
いつもとは帰る方向が逆でそう聞くと、「用事があるねん」って僕の隣に来る。
しげと話すのは何日ぶりか、最後に話したんってそういえばカウントダウン前や、って頭の中が気まずいで埋め尽くされる。
でも、しげの方は普段通り、鼻歌歌いながら歩いてる。
しばらく、何も話せず、ただしげの鼻歌だけが響いてたけど、俺の限界が来てしげの方を見た。
僕の言葉に、しげの鼻歌がピタッと止まって、歩くのをやめた。
しげは僕の顔を見ずに首を傾げて、唇を噛んでた。
そう言って僕を見たしげの目は、微かに潤んでた。
しげは強く言うと、「じゃあ、俺こっちやから」って手を振って去っていった。
目の奥が熱くなって、こんな歩道の真ん中で涙を流してる。
4人が選ばれた時、
ああ、俺はやっぱりあかんかったんやなって、落ち込んだ。
全然自慢なんかならへんけど、ジュニアは長いことやってきて、みんなに負けんように頑張って、俺にできることは全部やったつもりやった。
それでも、やっぱり俺はあかんかった。
どんなに努力したって、俺には才能がないんかもしれへん。
この仕事、向いてないんかもしれへん。
昨日なんて、求人情報調べたくらいだ。
こんな俺が、必要やって、言ってくれる。
別に、こんな俺がグループにいたっていなくなって、そんなに大して影響ないと思ったけど、
少なくとも俺は、しげに必要とされている。
そのちょっと後だった。
ドラマの仕事中だった流星からメールが来た。
ー
淳太君と照史君、めっちゃいろんな人に7人にしてほしいって話してるって今日スタッフさんに聞いた。
俺らも、頑張ろうや。
ー
前を向こうと思った。
見てしまえば、後戻りしそうなことや、つまずいてしまいそうなものは、もう見ないようにしよう。
諦めた、なんて簡単に口にするけれど、
本当はそんなの簡単にできひんし、
ずっと、
俺やって7人でおりたい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。