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第1話

突然の出来事
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2019/09/15 16:01

其れは突然の出来事だった。
普段通りの路地裏。普段通りの鉢合わせからの喧嘩という名の殺し合い。
そう、普段通りの筈だった。
ふらりと目の前で倒れる。ゆっくり重力に逆らえずふわりと。
普段通りと違う光景に僕は叫び寄った。

「━━━━━━━━━━━━━━━芥川っっ!!!!」





長い長い夢を見た
一瞬のようで一生の様な長くて短い夢だった。
僕は何時から探偵社員だったか。
彼奴は何時からポートマフィアだったのか。
何故彼が生きて貴方が死んだのか。

目が覚めた。
見慣れぬ真っ白い清潔感溢れる部屋。
僕の腕には数本のチューブ。
ふと枕元に目をやった。そこに一冊の本があったが、触れようとしたら消えてしまった。
何故か涙が止まらないが、意味がわからなかった。




「え……?」
「は……?」
僕と太宰さんは思わず声を漏らしてしまった。中也さんは声に出なかったみたいだ。
芥川だけが平然としていた。
「もって一ヶ月無いよ。」
森の無機質な声だけが頭に響いた。



何日経ったのだろうか。
彼奴は段々弱って行った。最初は悪態やらついていたのに今では殆ど無口だ。
その様子は酷く脆い美しい華みたいだと思ってしまうほどに………。
中也さんはきっと最後まで見届ける積もりなのだろう。
何時も優しく優しく見守っている。
太宰さんはきっと受け止めきれていないのだろう。芥川が死んでしまう現実を。
常に目を逸らしていた。
僕は笑顔で見届けるつもりだった。でも段々弱っていく彼奴を見たら心臓がぎゅっと掴まれたように苦しくて苦しくて………。
気がついたら笑顔で彼奴を見守るのは出来なくなった。

僕はこうなる事が分かっていた。
だが気付いたのが遅すぎた様だ。既に僕の体は手遅れだった。
故に出来る事をなるべくした。
異能を活かして最前線で敵を屠った。部下をまとめた。
やれる事はしたと思っている。然し、いざ自分がベッドの上で弱っていくのを目の当たりにするとなるとな。
今まで沢山の命を狩ってきた。因果応報とはこの事だな。
不思議な事に死をすんなり受け入れる。然し矢張り何処か苦しい。
自嘲気味に笑みを零せばふと目から涙が零れた。
何故……?胸がこんなにも苦しい。
締め付けられて痛い。
目を拭い、ペンを取った。
僕は余り口が達者で無い。故に今不自由な僕が最後に出来る事。
其れは、誰が見舞いに来ても喋らず、素っ気ない態度をとり死期を決して悟られないようにする。そして、遺書として、手紙を書こう。今まで世話になった者、縁を繋いだ者に。
僕の正直な気持ちをのせて、遺書として残そう。











何日経ったのだろうか。

もうそろそろ潮時だろう。

此処から離れねば。

布団から抜け出して、どの位歩いたのか。

無意識に足は進んだ。

もう足は悲鳴を上げている。

僕は座り込んだ。もう立てぬ。

ふと辺りを見渡した。

見覚えがあるを通り越して泣きそうになった。

そこは僕が彼の方に拾われた場所。

視界がぼやける。

聴覚が遠のく。

走馬灯の様に過去が脳裏を駆け巡る。

嗚呼……きっと僕は幸せだったのだろうな。貧民街から黒に手を染めたが、彼等より長く生きた。故に幸せだ。

薄れ行く意識の中でそう浮かんだ。

ふと微笑んだ。

そして彼は眠った。

















中也さんから電話があった。
芥川を見ていないかと。
僕は太宰さんに聞いた。
太宰さんも僕も知らない。そうなると、誘拐…もしくは自分で出て行ったか。
そう考えていると太宰さんが走って出て行った。
僕は取り敢えず中也さんに太宰さんが出て行った事と、誰も芥川の事を知らないと伝えた。
中也さんも探すそうだ。太宰を追えと言われた。
きっと太宰さんは芥川が何処にいるか知っているのだろう。
太宰さんをようやく見つけた。
「太宰さ………っ!?」
声をかけようとしたが、声が出なかった。

もしかしてと思って私は此処に来た。
案の定、芥川くんはそこに居た。でも、眠っていた。
柔らかくて穏やかな顔で、眠っていた。
死んでいるとは思えない程、綺麗な顔で。

僕は直ぐに察した。
芥川は死んだのだと。
膝から崩れ落ちた。孤児院に居た時よりも子供らしく声をあげて泣いた。
何時から居たのだろう。
中也さんは僕より少し後ろで微笑んでいた。
「お疲れ様」と一言呟いて泣いていた。
太宰さんは微かだが肩が震えていた。
そして太宰さんは芥川に静かに寄って行った。
僕らは夢でも見ているのだろうか。
あの太宰さんが芥川を撫でていたのだ。泣きながら。
「ねぇ、いっぱい褒めてあげる。それに、認めてあげるから。早く目を開けてよ。ねぇ、早く目を開けて、ねぇ、私の命令が聞けないの? 君まで…私を置いて逝くの?」
苦しそうに息と同時に吐き出す太宰さんのか細い声が響いた。
僕はその様子を見るのが耐えれなかった。涙がさらに溢れてきた。
すると後ろから舌打ちが聞こえた。
そっと後ろを見ると中也さんは怒っているのか顔が怖い。
でも……泣いていた。

どの位経ったのか。
太宰さんは落ち着いたのか芥川を抱き抱えた。
そして何時もの笑顔で僕と中也さんに
「帰ろう。芥川くんを連れて…ね?」
僕は泣いている場合じゃない。頷かないと

━━━━━━そして僕は微笑を零した。


俺は太宰と人虎の笑みが怖かった。
背筋がぞっとする。
気持ち悪ィ。
俺を見ている。早く答えねェと。気味が悪い。
「嗚呼。」
一言だけ呟いた。




ふわり

ふわり

歩く度に芥川くんの外套が風を受け揺れる。
でも、ポケットの部分は重いのか動かない。
きっと何か入っているのだろう。
そう思いながら、芥川くんをベッドに寝かせた。
外套を脱がそうと手を掛けたが。矢張り着せておこうと思い手を引っ込めた。
そう云えばポケットには何が入っているのだろう。
そっとポケットに手を入れて束を出した。
其れは沢山の封筒だった。その封筒には芥川の繊細で綺麗な字で宛名が書かれていた。
その中には中也、敦くん…銀ちゃん達………そして、私の宛名。
全て芥川くんと親密に関わり縁を繋いでいた子。
そして私は嫌でも分かってしまった。
之は遺書だと。芥川くんは死んだのだと。
現実を突きつけられた。

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