第5話

5:蓮と霖
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2021/09/04 05:00
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
霖さんは、もしかして…
榛名 蓮《ハルナ レン》
死んだ。

"死んだ"。
たった3文字の言葉が俺の喉を締め付ける。

話し続けなければ涙が零れて来そうで、俺は息継ぎも忘れて話し続ける。
榛名 蓮《ハルナ レン》
死んだんだ。
俺の、高校受験の日だった。
試験が終わって帰ろうとしたら、親が血相を変えて門の前で待っていた。
「霖が病院に運ばれた。」たった一文の報告だった。
母さんは泣くばかりで、父さんは、運転席で唇を噛み締めていたよ。
すぐに車でこの病院に向かったんだ。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
この…病院…?
榛名 蓮《ハルナ レン》
ああ。
兄は、運ばれてきた時点で、助かる見込みは0に等しかった。
集中治療室でたくさんの機器に囲まれた兄のことを、俺たちは外から見ていることしか出来なかった。
待っている間、両親から詳しい事情を聞いたよ。
兄は…霖は、受験を終えた俺を迎えに行こうとしたんだ。
両親が送っていくって言ったらしいんだけど、霖は「2人で帰ってきたい」と言って聞かなかったらしい。
本当…馬鹿だよな。
そんなこと言わなければ…俺の事なんて考えなければよかったんだ。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
馬鹿なんて言わないでよ…
お兄さん…霖さんのこと馬鹿なんて言わないで…!
蓮くんだって本当は悔しくて、悲しくてたまらないんでしょ…!?
自分のせいだって、自分のこと、何回も責めたでしょ?
ダメだよ、自分を守るためにそんな嘘ついたら…。
霖さんに失礼だよ。
霖さん、悲しむよ…
震える声で、放たれた陽葵の言葉に、俺は頭を殴られた感じがした。  

そうか。
俺は嘘をついていたのか。

他人事のように考えてしまう自分が憎い。

何より、霖と会ったことも話したこともない陽葵が霖のことをよく分かっているのが腹立たしかった。

八つ当たりだって分かっている。

霖が戻ってこないことも、陽葵が悪くないことも、
榛名 蓮《ハルナ レン》
全部分かってる…
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
え?
榛名 蓮《ハルナ レン》
悪い、帰る。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
ちょ、蓮くん?
戸惑ったような陽葵の声を背中で受けて、俺は病室を出る。

自分の醜い感情で、陽葵を汚さないように。

そのまま病院を出て、すぐ近くのベンチに座る。

榛名 蓮《ハルナ レン》
なぁ、霖…何でお前なんだよ…

俺が死ねばよかったのに。

俺1人、たかが俺1人だ。

たかが俺1人の為に霖が死んだ。

なんの価値もない俺のせいで。
榛名 蓮《ハルナ レン》
俺が死ねば…

聞き手のいない俺の独り言は、霖のいるはずの青空へ消えていった。















今回、ほぼ吹き出し&長文で読みにくかったら申し訳ないです!

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