第3話

3:交際する上での約束事。
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2021/07/30 06:00
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
ねえ、死別を前提に交際しない?
シベツヲゼンテイ?

コウサイシナイ?


陽葵の言葉を理解するのに数十秒かかった。

いやいやいや
榛名 蓮《ハルナ レン》
何…言ってんの?

何を考えているのか分からずに、彼女に問いかける。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
だーかーらー、私と、死別するのを前提に、付き合おうって言ってんの!

わざわざ言葉変えなくても理解してるわ、馬鹿。

俺が言いたいのはそういうことじゃなくて
榛名 蓮《ハルナ レン》
なんで、俺?

予想外だったのか、陽葵ぱちりと目を瞬かせる。

きょとんとした顔は、無防備で、一瞬見惚れかける。

一瞬、だけど。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
私、今まで彼氏とか、いたことないの。 
まあ、こんな生活だから出会い自体無いんだけど。
そこで、君に頼みがある。
榛名 蓮《ハルナ レン》
……聞くだけ聞こうか。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
蓮くん、私に思い出を、ください。
榛名 蓮《ハルナ レン》
思い出?
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
そう、思い出。
私、恋のひとつも知らずに死ぬなんて絶対、嫌。
小説や、漫画で読むような恋愛、私だってしたいんだよ。
榛名 蓮《ハルナ レン》
そう、なんだ…?
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
てことで、蓮くん。
私と付き合お!
榛名 蓮《ハルナ レン》
急にそんなこと言われても…
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
私の事、好きにならなくてもいい。
形式だけでも彼氏になって欲しいの。
あ、もしかして、もう彼女さんいる?
榛名 蓮《ハルナ レン》
いないけど…
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
ならお願い!

鬼気迫る表情に圧倒された俺は、気がついた時には、つい頷いてしまっていた。
榛名 蓮《ハルナ レン》
う、うん…
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
やった!
言ったね?
取り消しとか無しだよ?

全く訳わかんないけど、陽葵が嬉しそうならそれでいいか。

俺はもうどうにでもなれと言う気持ちになっていた。
榛名 蓮《ハルナ レン》
分かったよ。

それから2人で話し合って決めた、陽葵いわく「交際する上での約束事」がこれだ。

1:二人の間に恋愛感情は生まないこと
2:陽葵が死ぬまでは俺は彼女を作らないこと
3:いつかは死別する事をよく理解すること

星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
これ、守ってね?
榛名 蓮《ハルナ レン》
ああ。
分かった。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
じゃあ、改めてよろしくね。
彼氏さん。
陽葵はおどけた表情でそう言った。

だから俺もおどけて返す。
榛名 蓮《ハルナ レン》
よろしくな。
彼女さん。
その瞬間から、俺達の別れる日までのカウントダウン──────つまり、陽葵の死へのカウントダウンが始まった。

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