第6話

6:親子の絆
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2021/09/19 05:00
次の日。

その日は休みだったけれど、昨日の手前、何となく病院には行きづらくて、俺はずっと家にいた。

陽葵は今、何をしているのだろうか。
俺に同情したのだろうか。

同情されるのが1番嫌いだ。

なんの事情も、俺の気持ちも知らない奴が勝手に辛そうな顔をして、"可哀想"なんて言う。

俺はそれが嫌いだった。
母親
蓮ー、今日は病院行かないの?
榛名 蓮《ハルナ レン》
今日は行かない。
母親
あら、残念。
最近の蓮、病院に行く時すごく楽しそうだったのに。

母親が頬に手を当ててそう言った。

楽しそう?

榛名 蓮《ハルナ レン》
楽しそう、だった?
母親
ええ、とてもね。
お母さんは、そんな蓮を見たのが久し振りで、すごく嬉しかったのに。
榛名 蓮《ハルナ レン》
……
母親
思えばあの頃以来だわ。
友達でも出来たの?

母親の言う"あの頃"は、説明してもらわなくても分かった。

霖がまだ生きていた頃だ。

陽葵の手によって、俺はあの頃の俺を取り戻した。
間違いなくそうだ。

でも、陽葵はただの友達なんかじゃないよな。
榛名 蓮《ハルナ レン》
友達…、よりも大切な存在が、出来たんだ。

母親は少しだけ目を見開き、その後嬉しそうに微笑んだ。
母親
そう。
ならその子に感謝しなくちゃね。
榛名 蓮《ハルナ レン》
そうだね。
…やっぱり、ちょっと病院行ってくるよ。
母親
行ってらっしゃい。
車には気を付けるのよ。

母親は、霖が死んでから、車には気を付けろと口酸っぱく言い続けてきた。

今まで、俺に霖の二の舞を踏ませたくないからだと思っていた。

霖の代わりになった俺に。

今分かった。
母さんは、俺を霖の代わりなんて思ってない。

1人の息子として、心配してくれていたのだと。
榛名 蓮《ハルナ レン》
母さん。
母親
うん?
なあに?
榛名 蓮《ハルナ レン》
ありがとう。

それだけ言って、俺は玄関を出て、陽葵の待っている病院に向かった。

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