母さんは受付で説明を受けて来たのか、青ざめた表情で病室に入った。
俺も続こうとしたが、足が動いてくれなかった。
陽葵も同じなのか、膝を揃えて手を握りしめていた。
分かってる。
八つ当たりであること。
陽葵も苦しいのは同じなはずなのに、俺は考えてる余裕なんてなかった。
どのくらい経ったんだろう。
1時間にも感じられたし、ひょっとすると30秒だったかもしれない。
隣をちらりと見ると、陽葵は目を伏せたまま瞬き1つせずに床を見つめていた。
俺は、ただぼんやりとばあちゃんの事を思い返していた。
……音が聞こえた。
ピーという無機質な音。
ばあちゃんの命が消えた証拠の音。
その音を聞いた陽葵が我慢できないとばかりに大粒の涙を零す。
俺は不思議と涙は出てこなかった。
それくらい、現実を受け入れられなかった。
母さんが病室から顔を出す。
薄く微笑み、それでも瞬きをすれば今にも零れてしまいそうな涙を目に溜めた顔を。
母親は強い、と思う。
俺はそんな風に強くなれない。
今だって現実から目を背け、ばあちゃんがまた「蓮」と呼んでくれるのを待っている。
もっと沢山話せばよかった。
もっと沢山笑い合えばよかった。
気恥ずかしくて中々言えなかった「ありがとう」、それから「ごめんなさい」。
もっと沢山言えばよかった。
病気と闘ってるばあちゃんに、俺はどれだけ尽くすことが出来たのだろう。
ばあちゃんにとって、果たして俺は自慢の孫だったのだろうか。
霖が死んで、出来損ないの俺だけが残って。
ばあちゃんは残念に思わなかったのだろうか。
いや、きっと思うはずがない。
だってばあちゃんはいつも俺自身を見つめてくれていた。
俺を霖の代わりなんかじゃなく、蓮として見てくれていた。
陽葵がそれを教えてくれた。
今後悔してももう遅い。
ばあちゃん、ごめんなさい、それから、勇気を沢山、ありがとう。
先に俺だけ病室に入る。
陽葵は、「泣いてたら幸子さんに怒られちゃう。」と、後で来ると言った。
身近な人の死に立ち会うのは2回目。
1回目は俺の兄貴。
そして、2回目がばあちゃん。
知っていたはずだった。
後悔してもどうにもならないこと。
だから俺は、ばあちゃんの分まで。
陽葵の最期に後悔が残らないように。
陽葵と一緒に生きてくよ。
めちゃめちゃ長文!
読みにくかったらすみません💦
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!