第2話

2:告白と日々の始まり
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2021/07/21 10:00

しばらく祖母と星奈さんと3人で話していると、祖母に看護師から声がかかった。

看護師
榛名さん、検査の時間ですよ〜
あら、陽葵ちゃん、また来てたのね。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
あ、はい!
看護師
蓮くん、こんにちは。
榛名 蓮《ハルナ レン》
どうも。
お久しぶりです。
母親
じゃあ私はちょっと行ってくるね。
陽葵ちゃん、少し蓮とお話しておいてくれる?
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
任せてください!


祖母が出ていった後の静まり返った病室は居心地が悪くて、俺は早々に彼女に話しかけた。

榛名 蓮《ハルナ レン》
えっと、星奈さんは……
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
陽葵。
榛名 蓮《ハルナ レン》
え?
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
陽葵、でいいよ。
蓮くん。
榛名 蓮《ハルナ レン》
あ、じゃあ…陽葵さん
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
陽葵!
呼び捨てでいいよ。

いきなり呼び捨てがいいとか…

変なヤツ。
榛名 蓮《ハルナ レン》
じゃあ陽葵。
なんで入院なんかしてるんだ?

陽葵の、表情が、凍りついた。

かと思えば、一瞬後には笑顔に変わっている。

なんなんだ、一体。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
えっとね、へへ、どこから話せばいいのかな。
少し、長くなるかも。
最後まで、聞いてくれる?
榛名 蓮《ハルナ レン》
…ああ。
聞くよ
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
えっとね、私は……

何故か、耳を塞ぎたくなった。

ここから先は聞くべきではない。

そう本能が警告していた。

だが、俺は何も出来ずに、結局続きを聞くこととなる。

星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
余命宣告を、受けています。
榛名 蓮《ハルナ レン》
え……?

どうせ軽い病気だろうと思っていた。

だってこんなにも元気そうなのに…

星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
幼い頃からなの。
病気と、付き合ってきたのは。
最初は、手術すれば治るって言われていた。
ほんの少しの、息継ぎの後、陽葵は続きを口にした。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
だけどね、手術が逆にダメージを与えたの。
私の、身体に。
榛名 蓮《ハルナ レン》
え…
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
それからは点滴や薬で何とか元気でいられてる。
でもね、今年の、春に、余命宣告を受けました。
榛名 蓮《ハルナ レン》
余命は……?
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
長くて1年、って言われてる。
榛名 蓮《ハルナ レン》
1…年
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
短いでしょ?
もう笑うしかないよね。
榛名 蓮《ハルナ レン》
笑えない。
陽葵はなんで笑えるんだよ?

つい声を荒らげると、陽葵は悲痛な面持ちで叫ぶように声を出した。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
だって…、だって仕方ないじゃない!
笑わないと、笑っていないと…私はダメになっちゃうの!
不安に押し潰されそうなの…!
榛名 蓮《ハルナ レン》
ダメになっても、陽葵は陽葵だよ。

陽葵に同情したわけでも、可哀想に思ったからでもない。

ただ、俺は本心からそう言った。

陽葵は暫しぽかんとした後、小さく笑った。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
そう…だね。
そうだ。
何があっても私だけは私の事諦めちゃダメなんだよね。
榛名 蓮《ハルナ レン》
ああ。

そこから、沈黙が、続いた。

さっきのような気まずい沈黙ではなく、どこか、心地よい沈黙だった。

数分…いや、数秒だったかもしれない。

陽葵が急に声を発した。
星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
決めた。
榛名 蓮《ハルナ レン》
え?
予想外の言葉に戸惑っていると、陽葵はいたづらな笑みを浮かべてもっと驚く続きを口にした。

星奈 陽葵《ホシナ ヒマリ》
ねえ、死別を前提に交際しない?

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