>>ウジンside
最近この家に来た人間の女、なんでみんなはあいつを信じられるのかが分からなかった。
今まで散々な目にあってきて、それはみんなだって同じなはずなのに。なんで人間なんて…
きっと食堂にもあの女は来てる。行くもんか。
人間のくせにのうのうとこの家を彷徨いてるんだ。それに余計イライラして、俺は部屋を飛び出した。
気持ちを落ち着かせてくれる場所は、あの庭しかない。滅多に誰も通らないし来ないし、一人で気分転換するにはもってこいの場所だ。
……そのはずなのに。
ベンチに座っていたのはあの女だった。
一人でぼーっとしながらそこに座っていた。そして何を思うのか、咲いてる花を見て綺麗…と呟いている。
その姿にも、また腹が立った。
俺がそう話しかけると、女はびっくりしたように俺を見上げた。
気分転換…。自分と同じ理由でここに来たって言うのもまた腹が立つ。
俺が黙っていると、女は口を開いた。
気安く俺の名前を呼んでくるな。
何をしてたかなんてお前には関係ない。
そう心の中でいいながら睨みつけた。すると、女は俺から視線を逸らしてごめんと謝ってきた。
またごめんねと言ったあとに女は立ち上がって部屋に戻ろうとした。
俺は咄嗟に女の手を掴んで引き止めた。
嫌味ったらしく聞いた。
そう問い続けると、女の顔はみるみる苦しいような悲しいような表情になっていった。
人間ならここで俺を殺しにかかってくるか、逃げ出すだろう。それか逆ギレするか?
どれにしろ、お前は人間なんだ。俺は絶対に認めない。
そう思ってた。
でも、女は逆ギレや逃げ出すどころか、反論してきた。
女の口から出てきた言葉は、悲しくてどこか重くて。俺は思わず黙り込む。
こいつも人間から……?なんで?
いや、嘘かもしれないんだ。人間なんて信じるものか。
突然意味もなく謝るから、俺も訳が分からなくなる。
目を見ながらそう泣きそうな顔で言われた。
なんなんだ、こいつ。
何故か俺も悲しくなってきて、申し訳なくなってきて。訳が分からなくなる。
人間だ。これは演技だ。でも、なんで………
俺はそれだけ言って、女の手を離してその場を離れた。
なんで俺が逃げてんだろ。
人間が悪いのに。なんで俺が。…もう一言文句言ってやろう。そう後ろを振り向くと、あいつは泣いてた。
……なんで。
俺は何度も人間に酷いことをされてきたのに。もう人間なんて信じないって決めてたのに。
なんでまた俺は、
手を差し伸べようとしてるんだ。
ごめんなんて言おうとしてるんだ。
……
…馬鹿な事考えるな。俺は人間なんて…。
もう、信じたくないんだ。傷つきたくない。
俺は側に行きたい衝動を抑えて、部屋に戻った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!