あれから月日が経って、日差しもぽかぽかと暖かくなってきた頃。
学年も変わり、心機一転。
クラスは持ち上がり制だから、相変わらずのクラスメイトを見てると高校2年になった自覚は芽生えなかったりする。
そんなうららかな日にご機嫌で家に帰ると、なにやら不穏な雰囲気が漂っていた。
執事にそう聞くと。
応接間?だれかきてるのかな?
そう思って応接間にいくと、そこには、
どこか不満そうな顔をしたパパと、久しぶりに見る慎のお父さん。
どうしたんだろう?
長谷川さんにそう答えながら、パパを見る。
何かあったのは間違いないみたいだけど……。
どうって言われても……。
うん?
こんな報告はいつものことだけど、なんだか違和感がある。
そう思って眉を寄せていると。
なんだろう?と長谷川さんを見ると、
……。
……はい?
パパがそう口を挟んだけど、長谷川さんはいやいや、と手を振る。
にこにこしながらそう言う長谷川さんに、悪気は全くないみたいで。
それがわかったから、私もひきつった笑いを返す。
長谷川さんはそう言うとソファから腰を上げた。
パパは気のない返事をして、長谷川さんは肩をすくめて部屋を出ていった。
バタンとドアがしまってすぐ、パパがため息をついて私を見た。
でも長谷川さん、なんだか本気っぽかったよね。
それに、なんだかずっとそうなることを考えてたみたいな言い方だった。
なんだか、不安だな……。
私はそんな思いを胸に、窓から差し込む光を見ていた。
翌日。
教室で慎に声をかけられて振り向く。
あ、やっぱりその話……。
どこか複雑そうな表情で髪をかきあげる慎に私も少し微笑む。
あれ……?
慎、なんだか少し様子がおかしい?
声をかけようとすると、教室の入り口から声がかかった。
大好きな人の笑顔を見て「ちょっと待って」と身振りで伝える。
ふいっと顔をそらした慎。
なんだかやっぱり変な気がする……。
私はその返事を聞いて席をたち、壱馬くんの元に向かう。
そう言ってフッと微笑んだ壱馬くんに、胸がきゅーっと締めつけられる。
この笑顔、反則だよ……。
今なんて言ったんだろう?
そう言った私の頭を、壱馬くんがくしゃっとなでてくれる。
壱馬くんに笑顔でそう返した私を、慎が見つめているのには気づかなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!