第46話

婚約
4,125
2021/01/22 08:49
あれから月日が経って、日差しもぽかぽかと暖かくなってきた頃。



学年も変わり、心機一転。



クラスは持ち上がり制だから、相変わらずのクラスメイトを見てると高校2年になった自覚は芽生えなかったりする。



そんなうららかな日にご機嫌で家に帰ると、なにやら不穏な雰囲気が漂っていた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
何かあったの?
執事にそう聞くと。
執事
お嬢様……応接間においでくださいますか?
応接間?だれかきてるのかな?



そう思って応接間にいくと、そこには、
白濱(なまえ)
白濱あなた
パパ?……と、長谷川さん!
どこか不満そうな顔をしたパパと、久しぶりに見る慎のお父さん。



どうしたんだろう?
慎のお父さん
あなたちゃん、久しぶりだね。見るたびにますます綺麗になって
白濱(なまえ)
白濱あなた
いえいえ、そんな……
長谷川さんにそう答えながら、パパを見る。



何かあったのは間違いないみたいだけど……。
慎のお父さん
それよりどうだい、慎とは
白濱(なまえ)
白濱あなた
はい?
どうって言われても……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
相変わらず仲良くさせていただいています
慎のお父さん
そうかいそうかい。それはよかった
うん?



こんな報告はいつものことだけど、なんだか違和感がある。



そう思って眉を寄せていると。
慎のお父さん
あなたちゃん、ひとつ相談があるんだけどね
白濱(なまえ)
白濱あなた
は、はい
なんだろう?と長谷川さんを見ると、
慎のお父さん
慎と、結婚しないか?
……。



……はい?
パパ
長谷川、さっきも言ったがあなたには恋人がいるんだ
パパがそう口を挟んだけど、長谷川さんはいやいや、と手を振る。
慎のお父さん
これはあなたちゃんの将来を考えての提案でもあるんだ。高校生同士の恋なんて、どこまで続くんだい?慎と結婚した方がいいに決まっているだろう?
にこにこしながらそう言う長谷川さんに、悪気は全くないみたいで。



それがわかったから、私もひきつった笑いを返す。
慎のお父さん
まあいきなり言われても困るだろうし、一度考えてみてほしい。この話は慎にも伝えておくよ
長谷川さんはそう言うとソファから腰を上げた。
慎のお父さん
白濱も、よく考えてくれよ
パパ
……ああ
パパは気のない返事をして、長谷川さんは肩をすくめて部屋を出ていった。



バタンとドアがしまってすぐ、パパがため息をついて私を見た。
パパ
あなた、パパはお前の壱馬くんに対する気持ち、ちゃんと理解してるからな。この件は断っておくから
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うん……
でも長谷川さん、なんだか本気っぽかったよね。



それに、なんだかずっとそうなることを考えてたみたいな言い方だった。



なんだか、不安だな……。



私はそんな思いを胸に、窓から差し込む光を見ていた。









翌日。
長谷川慎
長谷川慎
……あなた
教室で慎に声をかけられて振り向く。
長谷川慎
長谷川慎
親父から……聞いたか?
あ、やっぱりその話……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
……うん
長谷川慎
長谷川慎
悪いな、なんかから回ってるみたいで
どこか複雑そうな表情で髪をかきあげる慎に私も少し微笑む。
白濱(なまえ)
白濱あなた
大丈夫だよ、パパが断ってくれるって言ってたし、慎も心配しないで?
長谷川慎
長谷川慎
……そっか。そうだよな
あれ……?



慎、なんだか少し様子がおかしい?
白濱(なまえ)
白濱あなた
慎……
川村壱馬
川村壱馬
あなた
声をかけようとすると、教室の入り口から声がかかった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、壱馬くんっ
大好きな人の笑顔を見て「ちょっと待って」と身振りで伝える。
白濱(なまえ)
白濱あなた
えと、慎、大丈夫?
長谷川慎
長谷川慎
……ああ。べつに
ふいっと顔をそらした慎。



なんだかやっぱり変な気がする……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
なんかあったらまた言ってね?
長谷川慎
長谷川慎
……ああ
私はその返事を聞いて席をたち、壱馬くんの元に向かう。
白濱(なまえ)
白濱あなた
どうかした?
川村壱馬
川村壱馬
いや、姿が見えたからな
そう言ってフッと微笑んだ壱馬くんに、胸がきゅーっと締めつけられる。



この笑顔、反則だよ……。
川村壱馬
川村壱馬
……まあ、正確には幼なじみのあいつと話してるお前を見たからだけど
白濱(なまえ)
白濱あなた
え?
今なんて言ったんだろう?
川村壱馬
川村壱馬
べつに。今日たまり場来るか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、行かせてもらうね
そう言った私の頭を、壱馬くんがくしゃっとなでてくれる。
川村壱馬
川村壱馬
じゃあ放課後、また迎えに来るから
白濱(なまえ)
白濱あなた
うんっ
壱馬くんに笑顔でそう返した私を、慎が見つめているのには気づかなかった。

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