デートの日から少したったある日の放課後。
壱馬くんといつものようにたまり場に向かうと、幹部部屋にはまだ誰もいなかった。
壱馬くんは急いで下に降りていった。
私はとくにすることもないから、本を手にとってページをめくる。
誰も居ないはずの部屋で名前を呼ばれ、思わずとび上がる。
顔を上げると、樹くんがトイレから出てくるところだった。
樹くんは私の隣にストンと腰を下ろした。
どうしたんだろう、突然隣に座るなんて……。
けど、詳しいことは聞いてない。
何があったのか、どうして女性恐怖症になってしまったのかは……。
どこか決意のようなものを含んだ声にゆっくり頷くと、樹くんは1度大きく気を吸ってから話し出した。
……え?
淡々と語りながら、それでもどこか顔色が悪い。
これ以上無理して話さなくていい、そう言おうとした私の声を遮るように、言葉を続けた。
その時のことを思い出したのか、少し体が震えている。
そうだったんだ……。すごく……怖かったよね。
しかも当時小学生でしょ?
きっと、想像できないほどの恐怖だと思う。
そういえば言ってたね、初めて会った時に……。
樹くんはそこでいったん言葉を区切った。
何を言われるんだろうと、次の言葉を待っていると。
え?
頭の中、少し混乱状態。
『好き』……。それって、恋の方の……?
そんな……そんなこと……。
私が戸惑っているとドアが開いた。
慌ててそう言って立ち上がる。
北人くんがわずかに頬を膨らませて言う。
続いて部屋に入ってきた壱馬くんが、眉を寄せた。
とはいったものの……心の中がざわざわして、落ち着かない。
壱馬くんの声に、思わず目を伏せてしまう。
でもそりゃそうだよ。
だって私樹くんに告白、されちゃったんだもん……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!