たまり場について、壱馬くんがゆっくりバイクを止めた。
そう言って貸してもらったジャケットを渡す。
ジャケットのこともだけど、そもそもこんなことになったのは私が勝手に出ていったせいだもんね。
そう思ってうつむいていると。
そう言ってくりゃりと髪を撫でられた。
……え?
驚いている私をよそに、するすると髪をなでる壱馬くん。
ぼっ!!っと、顔が真っ赤になる。
す、すす、好きって……。
私の髪を、好きだって言ってくれた……。
『好き』といった壱馬くんの声がいつまでもエコーのように頭の中で響いて、なんだかぼーっとしてしまう。
けど、……ちょっと待って。
壱馬くんってこんな恥ずかしこと言う人だっけ?
しもこんなにサラッと……。
__じーっと壱馬くんを見てみると。
絶対風邪だー!!
無理もないよ!
雨の中、バイクでずっと体を濡らして冷えたはず……!
私はジャケットを貸してもらったし、今のところ大丈夫たけど……壱馬くんを助けなきゃ!
壱馬くんを支えようとすると、トンっと肩に重みがかかった。
か、壱馬くんの顔が間近にっ……!
かあああ……と真っ赤になっていると。
__ブオオオオオオン!
バイクの音がして、急ブレーキをかけて壱馬くんのバイクの横に止まった。
ヘルメットを取ったのは……。
北人くんは私と壱馬くんを見て大慌てでバイクから滑り降りると、私の肩から引き剥がすようにして壱馬くんを支える。
北人くんが声をかけても、ぐったりしている壱馬くん。
そうして北人くんも一緒に支えてくれながら、なんとか部屋にたどり着く。
ドアを開けると、夏喜くんも帰ってきていた。
颯太くんがそう言ってコントローラーを放り出す。
そうして北人と颯太くんが壱馬くんを運び、樹くんは壱馬くんの部屋のドアを開ける。
私と颯太くん、北人くん、樹くんの3人が入り、美紅ちゃんも入ろうとしたけど、夏喜くんに遮られた。
私を指さして言う美紅ちゃん。
ゆ、指さされた……。
美紅ちゃんは夏喜くんに引っ張られて、さっきの場所に戻って行った。
ほっと息をつく。
そうだったの?
北人くんたちが壱馬くんの服を着替えさせている間に、私はテキパキと指示を出していく。
お兄ちゃんも無理して頑張りがちな人で、よく風邪をひいてたから……看病には慣れてるんだ。
執事には内緒で世話をしたりもしていたし。
なんだか懐かしい。
みんなが頼んだものを持ってきてくれて、それを受け取る。
少しして、ピピピピッとなった体温計を取りだした。
北人くんが、持っている体温計を覗き込んで、絶句。
考えただけでしんどくなる……。
北人くんから氷枕を受け取り、壱馬くんの頭を持ち上げて氷枕を置く。
北人くんと颯太くん、樹くんの言葉に首を傾げる。
ど、どういう意味だろう?
そう言って微笑むと、北人くんと颯太くんの顔がみるみる赤くなった。
北人くんがそう答えたのと同時にガチャりとドアが開いて、夏喜くんが入ってきた。
そうして3人が部屋を出て、壱馬くんが寝ているベットのそばには私と樹くんが残った。
樹くんはなにも用事ないのかな?
それなら……。
イヤかもしれないけど……でも、もし美紅ちゃんが今外に出たら、私みたいに敵の暴走族に狙われちゃうかもしれない。
そうなったら、総長の壱馬くんは寝込んでいるし、不安すぎる。
……私が行ってちょっとでも話しかけたら、絶対イヤがられるし。
樹くんはそう言うと、しぶしぶ部屋を出ていった。
ふう。さてさて、壱馬くんの様子はどうかな……?
ピトッと額に触れると、すごく熱い。
氷枕はよく冷えてるから、少しでも楽になるといいんだけど……。
あ……目、覚ましちゃったかな?
うっすらと目を開けた壱馬くん。
わっ……すごいドキッとした……。
ううーと唸って額をおさえる壱馬くん。
薬を取り出して水を渡す。
壱馬くんはそう言って受け取って薬を飲んだ。
少し経つと薬が効いてきたのか、ちょっとずつ顔色が良くなってきた。
ぼーっと顔が火照る。
感謝されるだけで、ありがとうって言葉がかけられただけで、こんなに真っ赤になってしまうなんて。
なんとかそう答えて、手の甲を頬にあてながらさりげなく熱を冷ます。
そう言うと額を触った。
こんなフラフラな状態なのに起き上がったら、倒れちゃいそう……!
そう言って部屋を出てキッチンに向かい、引き出しを開ける。
あったあった……。
ちらっと部屋を見渡すと、美紅ちゃんと樹くんは離れたところでお互いスマホをいじっていた。
美紅ちゃんはかなり不貞腐れている様子だけど、樹くんが同じ部屋にいて見てくれてるから大丈夫だよね。
私はとにかく、壱馬くんの看病しなきゃ!
そう言ってから薬をわたし、壱馬くんの額にそっと手を当てる。
じーっと壱馬くんの顔を見ると、どんどん赤くなっていく。
少し焦った気持ちを落ち着けて、ほっと息をつく。
そうしているうちに、ふと美紅ちゃんの事を思い出した。
壱馬くんの言葉に顔がかあっと熱くなった。
壱馬くんも真っ赤……。
ドキン……ドキン……。
素直に嬉しくて、ついお礼を言ってしまった。
あ、怪しすぎるよね……!
心からほっとする。
ピピピピッとなって壱馬くんから渡させた体温計を見ると。
37.5度。まだ熱はあるけど、だいぶ下がった。
解熱剤のおかげかな?
なんにせよよかった……。
私がそう言うと、壱馬くんは静かに目を閉じた。
壱馬くんはそう言うと目をつむって、まもなく規則正しい寝息が聞こえてきた。
ふふっ。さっきも思ったけどなんだか寝顔かわいい。
あ、遅くなるかもしれないし、パパ達に連絡しとこ。
電話をかけて伝えると『壱馬くんは大丈夫か!?』とか『うちの者を誰か行かせた方がいいか!?』とかすごい勢いで言われたけど、私はひとこと『大丈夫』と返して電話を切った。
ふぅ……。
じゃあ壱馬くんが起きるまで、私は本でも読んでいよっと。
私はそう思って一度部屋を出てカバンの中から本を取り出した。
__少したって、壱馬くんが目覚めた。
本を閉じて壱馬くんを見る。
まあまあ……ど、どうなんだろ?
私は壱馬くんに微笑みかけて、氷枕を受け取ると氷を入れ替えに部屋を出た。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!