第30話

たくさんの誤解
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2021/01/06 08:12
どれくらいそうしていたんだろう……。
吉野北人
吉野北人
ただーい…………………………てめぇなにしてやがる
ビクッとして振り返ると、いつもと雰囲気が全く違う北人くん。
藤原樹
藤原樹
……別に
吉野北人
吉野北人
ああ!?『別に』だとぉ!?ざけんなぁ!!
な、なんか別人みたいに口調が怖い……。
吉野北人
吉野北人
……あなたちゃん、どうしたの?壱馬は?
壱馬、という言葉を聞いてビクッと反応する。
白濱(なまえ)
白濱あなた
美紅ちゃんに、看病してもらってるんじゃないかな……
そう言うと北人くんの眉間のシワが濃くなった。
吉野北人
吉野北人
え、美紅?あいつ出入り許されてないよね?
白濱(なまえ)
白濱あなた
でも、普通に入ってたってことは許されたんじゃないかな……?……北人くん、私、今日は帰るね
吉野北人
吉野北人
え……?
白濱(なまえ)
白濱あなた
ごめんなさい。樹くんもごめんね、じゃあ……
私はそう言うと鞄を持ってひとり、階段をおりた。



あ、本、壱馬くんの部屋に忘れてきちゃった……。



まあ……いっか。



階下に下り、いつものように忠さんに車のドアを開けてもらう。
白濱(なまえ)
白濱あなた
こんにちは
……どうも。今日は誰もいないんですね
白濱(なまえ)
白濱あなた
……っ……え、ええ、まあ……
少し動揺したのが口調から伝わっただろうと思って焦ったけど、忠さんはチラッと私を見て「屋敷ですよね」と普通に接してくれた。



そんな忠さんに感謝しながら「はい……毎回毎回すみません」と言って少し頭を下げる。
いえ
私は家まで送ってもらい、部屋に入ってまた泣いた。



壱馬くん……。



こんなに思ってるのは、やっぱり私だけなのかな?



いつからこんなに好きになったのかな?



美紅ちゃんが……好きなの?



私は……壱馬くんにとってどういう存在?



友達?



お兄ちゃんの妹?



ただの……知り合い?



わからない、わからないよ……。



壱馬くん、私はあなたが好きです。



あなたの気持ちを……教えてください。




















【壱馬side】





どれくらい時間が経っただろうか。



ベッドに座って壁に寄りかかっていると北人がひょっこり顔を出した。
吉野北人
吉野北人
壱馬!?どうした!寝てなよ!
北人がすげぇ勢いで何か言ってきたけど、全く頭に入ってこない。
吉野北人
吉野北人
壱馬……?って!!熱上がってんじゃん!!来て!早く寝なきゃ!!
なんか、ぎゃーぎゃー言ってんな。



今はお前にかまう余裕ねぇんだよ……。



俺は北人に支えられながらベッドに寝かされた。



部屋の隅にはまだ美紅がいて、イライラを通り越してブチッと切れた。
川村壱馬
川村壱馬
て……めぇ……なんで……この部屋にいやがる
やべぇ、頭いてぇ……。
西条美紅
西条美紅
いいじゃ……
川村壱馬
川村壱馬
よくねぇ……出てけ
熱が上がったのはお前のせいでもあんだよ、この野郎。



あいつに誤解されちまったし……。



でも関係ねぇのか。



あいつには、樹がいるもんな……。



頭の痛みと同時に、胸にまでズキズキと何かが刺さったような感覚になる。
吉野北人
吉野北人
美紅……出てって。ここは壱馬の場所。勝手に入っていい場所じゃない
北人が睨みながら言う。
西条美紅
西条美紅
……やだ
はあ……うぜぇ……。
川村壱馬
川村壱馬
出てけよ……お前にこの部屋の出入りを許可した覚えはねぇ……
堀夏喜
堀夏喜
……美紅ちゃん、ダメって言ったよね?
珍しく夏喜が厳しい顔で言う。
吉野北人
吉野北人
ここは壱馬の部屋ってだけじゃなくて、竜龍の総長の部屋でもあるんだ。そこに許可されてないのに入るって言うのは非常識だよ。送ってくから、今日はもう帰りな
北人がそう言って促すと、しぶしぶ部屋を出ていった美紅。



すると、入れ替わりで夏喜が入ってきた。
堀夏喜
堀夏喜
……なあ
パタンとドアが閉まると夏喜が口を開いた。
堀夏喜
堀夏喜
……あなたになにした?
ドクンと心臓が嫌な音を立てる。
川村壱馬
川村壱馬
なに……がだよ……
夏喜が鋭い目を向ける。
堀夏喜
堀夏喜
しらばっくれるなよ、なんでここにいないんだよ。樹に聞いたら泣いて帰ったって言うし……
知ってる……樹に抱きしめられてたことも。
堀夏喜
堀夏喜
何があった?
夏喜に……話すか。



こんなふうに悩んでたら熱も下がんねぇよな。



そこで途切れ途切れに話すと、夏喜はなんだか複雑な表情。
堀夏喜
堀夏喜
ふうん……
ふうんって……。
堀夏喜
堀夏喜
美紅ちゃん、サイテーだね
夏喜はそう言うと、ため息をついて俺を見た。
堀夏喜
堀夏喜
っていうか壱馬はさ、なんであなたが泣いてたかわかってる?
なんで泣いてたか?
川村壱馬
川村壱馬
いや、わかんねぇ……
堀夏喜
堀夏喜
だろうな。案外壱馬って鈍感だもんな
なんだそれ。
堀夏喜
堀夏喜
……でもそれがあなたの答えなんじゃないのか?少なくとも、樹と付き合ってるっていうのはないと思う
どうだか……。
堀夏喜
堀夏喜
納得いってないな?じゃあ言うけど、好きなやつが一緒にいるのに、進んで他の男の看病するか?誤解させたくなんかないだろ、普通
まぁ……たしかにそうだけどさ。
堀夏喜
堀夏喜
告白もしないで失恋って虚しいだろ……。気持ちだけでも伝えろよ
……。
堀夏喜
堀夏喜
なにもかもお前次第だろ。まあ、とりあえず風邪治せよ。……俺の看病で申し訳ないけど
……。



夏喜の言うことが正しいのかは、わからない。



それでも、話を聞いてもらえて少し心が軽くなった。
川村壱馬
川村壱馬
夏喜……ありがとな
堀夏喜
堀夏喜
壱馬にお礼言われるとか……熱あるんじゃ?
……あるよ。
堀夏喜
堀夏喜
まあ寝たら治るよ。おやすみ
夏喜の声に俺はため息をついて目を閉じた。

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