【壱馬side】
ぽつりとつぶやいた北人に、俺はふいっとそっぽを向いた。
……あいつが、誰か他の男といるところを見たくない。
多分そう思ってるのは俺だけじゃなくて、北人と樹もだ。
にしても……。
さっき、あなたの肩に回されていた手を思い出す。
……誰だよ、あいつ。
あなたも『慎』って呼んでたな。
名前で呼ぶほど親しいってことか。
ついでに、触れられても振り払わないくらいに……。
けど、あなたの肩を抱いたあいつに『どういう関係?』なんて言われて、なぜだか悔しくなった。
知り合い、友達……。
あなたのことをそんな言葉では片付けたくなくて。
思わず口から出た『大切なヤツ』という言葉は、決して嘘じゃない。
考えないようにしていたことを北人に言われて、心臓がドクンドクンとイヤな音を立て始めた。
べつに、あなたに恋人がいたって何の不思議もない。
亜嵐さんにそっくりなあの容姿でモテないはずもないし。
けど……。
なんか、考えたくねぇ……。
樹の言葉に北人がうんうん、と頷く。
北人がそうおどけて、少しだけ空気が和らぐ。
あなたとあいつの関係がどういうものかは知らねぇけど、初めから恋人同士って決めつけんのもバカらしいしな。
……って、何必死になって考えてんだ、俺は。
俺は自分の気持ちに少し首をかしげながら、教室に戻った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!