【あなたside】
翌日、重い足取りで学校に向かった。
壱馬くん……大丈夫だったかな?
かなりの高熱だったし、まだ治ってなさそう。
心配……だなぁ……。
でも美紅ちゃんが看病してたし、治ってるかもね。
廊下に差し掛かるといつものように女の子たちの悲鳴。
これは……誰に対しての悲鳴かな?
私が近づくと「壱馬くーん!」という声。
壱馬くん、風邪治ったんだ……。よかった……。
美紅ちゃんのおかげだね……。
__壱馬くんが元気になって嬉しいはずなのに、胸がツキっと痛む。ついでに頭も。
壱馬くんの風邪うつっちゃったのかな……。
教室に入り、机に突っ伏していると美樹が来た。
移動……面倒だな……。
そのままホームルームがはじまって、その後、ノロノロと移動する。
向こうの方では壱馬くんに向けられた悲鳴。
頭がガンガンしてきた……。
う……気分悪い……。
ダメだ……頭も痛くて、もう立ってられない。
私はとうとう倒れて、美樹に寄りかかった。
美樹の声にみんながこっちに来る。
「あなた!?大丈夫!?」
「白濱さん!?」
樹くんと北人くんも駆けつけてきた。
樹くんがそう言って私の肩に触れる。
と、同時に誰かがその手を払った。
私は驚いて目を見開き、周りはシーンとする。
壱馬くんは美樹にそう言うと、軽々と私を抱きかかえた。
いわゆる……お姫様抱っこってやつ……。
「「「「きゃーーーー!!!!」」」」
う、うるさ……頭がガンガンする……。
壱馬くんの一言でその場は静まり返り、みんなの視線を感じながら教室を出た。
ドキドキする……。
熱のせいだけじゃなく頬が火照る。
どこか威圧感のある声でそう言われて思わず黙る。
そのまま保健室につき、先生が会議中で不在だとわかると、壱馬くんは私をベッドにそっと下ろした。
壱馬くんは横の椅子に腰掛ける。
あ……。きっと、美紅ちゃんのことだ。
どうしよう?
美紅ちゃんにも部屋の出入りを許可したって壱馬くんの口から聞いたら、泣いちゃうかもしれない。
思わずぎゅっと目をつむって壱馬くんの言葉を待っていると。
え……?
パッと目を開けて壱馬くんを見る。
そう……だったの……?
誤解……そっか、私の思い込みだったんだ……。
そこで壱馬くんの眉がピクっと上がった。
他にないよね?友達であってるよね?
当たり前じゃない。
すると、壱馬くんはぐっと唇を噛み諦めた。
え?あ、もしかして誤解させちゃったかな?
壱馬くんは顔を上げてホッとしたような表情。
恋愛面で……。ほ、本人に聞かれてしまった……。
絞り出したような声に、切なさを感じ取る。
それに、なんだか苦しそう……どうして?
『誰』だなんて、答えられないよ……。
だって目の前にいるんだから。
話を無理やりそらす。
心臓がドクンと嫌な音を立てる。
いた、んだ……好きな人……。
名前を呼ばれて顔を上げると、壱馬くんは真剣な表情でまっすぐ私を見つめた。
え?
やだ……そんな、嘘でしょう?
まっすぐ壱馬くんの綺麗な瞳を見つめる。
私の言葉に、壱馬くんは驚いたように見つめてくる。
私がそう言うと壱馬くんは髪をかきあげた。
え!?なにその大きなため息!
すると不機嫌そうに顔を上げる。
え!?見られてたの!?
うっ……。
顔を真っ赤にして言うと、壱馬くんも真っ赤だった。
その瞬間、壱馬くんは私を抱きしめた。
高鳴る胸を感じながら『どうして突然?』と壱馬くんに問いかけたくて目を向けると……。
そう言うと私を抱きしめる力を強めた。
それだけで胸が熱くなってなんだかほっとする。
そう言うと……不意打ちでキスをした。
かあっと赤くなる。
なんか壱馬くん、余裕の微笑みだ……。
壱馬くんがそう言ったけど、そんなの……。
私がそう答えると壱馬くんは微笑み、今度はゆっくりと顔を寄せる。
さっきは感じる余裕がなかった甘い予感に、私もそっと目を閉じる。
壱馬くんが優しい手つきで私の髪を撫で、唇が合わさった。
……好き。
壱馬くんが、好き。
この気持ちは他の何にもかえられない。
そっと唇が離されて、お互いに微笑み合う。
特別で、幸せな、そんな気持ち。
壱馬くんが教えてくれたこの気持ちを、一生大事にしよう。
私はそんな思いを抱きながら、幸福で胸がいっぱいになっているのを感じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。