第31話

4,849
2021/01/07 11:32
【あなたside】




翌日、重い足取りで学校に向かった。



壱馬くん……大丈夫だったかな?



かなりの高熱だったし、まだ治ってなさそう。



心配……だなぁ……。



でも美紅ちゃんが看病してたし、治ってるかもね。



廊下に差し掛かるといつものように女の子たちの悲鳴。



これは……誰に対しての悲鳴かな?



私が近づくと「壱馬くーん!」という声。



壱馬くん、風邪治ったんだ……。よかった……。



美紅ちゃんのおかげだね……。



__壱馬くんが元気になって嬉しいはずなのに、胸がツキっと痛む。ついでに頭も。



壱馬くんの風邪うつっちゃったのかな……。



教室に入り、机に突っ伏していると美樹が来た。
佐藤美樹
佐藤美樹
おっはよ〜
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん……
佐藤美樹
佐藤美樹
あれ?元気ない。大丈夫?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん……
佐藤美樹
佐藤美樹
辛くなったら言ってよ?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん……
佐藤美樹
佐藤美樹
大丈夫じゃなさそうじゃん……。そういえば1時間目移動だって
移動……面倒だな……。



そのままホームルームがはじまって、その後、ノロノロと移動する。



向こうの方では壱馬くんに向けられた悲鳴。



頭がガンガンしてきた……。
佐藤美樹
佐藤美樹
ちょ、あなた!?真っ青だよ!
う……気分悪い……。



ダメだ……頭も痛くて、もう立ってられない。
佐藤美樹
佐藤美樹
あなた!?
私はとうとう倒れて、美樹に寄りかかった。
佐藤美樹
佐藤美樹
あなた!?やだっ……すごい熱じゃない……!
美樹の声にみんながこっちに来る。



「あなた!?大丈夫!?」

「白濱さん!?」



樹くんと北人くんも駆けつけてきた。
吉野北人
吉野北人
あなたちゃん!?
藤原樹
藤原樹
……あなた、保健室行こ
樹くんがそう言って私の肩に触れる。



と、同時に誰かがその手を払った。
川村壱馬
川村壱馬
触るな
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬……くん?
私は驚いて目を見開き、周りはシーンとする。
川村壱馬
川村壱馬
連れてくから、先生にだけ言っといてくれ
壱馬くんは美樹にそう言うと、軽々と私を抱きかかえた。



いわゆる……お姫様抱っこってやつ……。




「「「「きゃーーーー!!!!」」」」




う、うるさ……頭がガンガンする……。
川村壱馬
川村壱馬
静かにしろ
壱馬くんの一言でその場は静まり返り、みんなの視線を感じながら教室を出た。



ドキドキする……。



熱のせいだけじゃなく頬が火照る。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ……の……壱馬くん……
川村壱馬
川村壱馬
しゃべるな
どこか威圧感のある声でそう言われて思わず黙る。



そのまま保健室につき、先生が会議中で不在だとわかると、壱馬くんは私をベッドにそっと下ろした。



壱馬くんは横の椅子に腰掛ける。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あり……がと……
川村壱馬
川村壱馬
いや……俺がうつしたんだろ?たぶん。……あのさ
白濱(なまえ)
白濱あなた
は、はい……?
川村壱馬
川村壱馬
昨日のことだけど
あ……。きっと、美紅ちゃんのことだ。



どうしよう?



美紅ちゃんにも部屋の出入りを許可したって壱馬くんの口から聞いたら、泣いちゃうかもしれない。



思わずぎゅっと目をつむって壱馬くんの言葉を待っていると。
川村壱馬
川村壱馬
あいつ……勝手に入ってきただけだから
え……?



パッと目を開けて壱馬くんを見る。
川村壱馬
川村壱馬
俺が許可したわけじゃない。勝手に入ってきて、彼女ヅラしてただけだ
そう……だったの……?
川村壱馬
川村壱馬
だから、誤解しないで欲しい
誤解……そっか、私の思い込みだったんだ……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
わ、私の方こそごめんなさい。急に飛び出して行っちゃって……
そこで壱馬くんの眉がピクっと上がった。
川村壱馬
川村壱馬
あのさ、樹と……どういう関係?
白濱(なまえ)
白濱あなた
友達、だけど……?
他にないよね?友達であってるよね?
川村壱馬
川村壱馬
好き……か?
白濱(なまえ)
白濱あなた
好きだよ?
当たり前じゃない。



すると、壱馬くんはぐっと唇を噛み諦めた。



え?あ、もしかして誤解させちゃったかな?
白濱(なまえ)
白濱あなた
み、みんなの事も大好きだよ?
壱馬くんは顔を上げてホッとしたような表情。
川村壱馬
川村壱馬
そういう意味……。じゃあ好きなやついる?恋愛面で
恋愛面で……。ほ、本人に聞かれてしまった……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
い、いる、けど……
川村壱馬
川村壱馬
……誰
絞り出したような声に、切なさを感じ取る。



それに、なんだか苦しそう……どうして?



『誰』だなんて、答えられないよ……。



だって目の前にいるんだから。
白濱(なまえ)
白濱あなた
か、壱馬くんはいるの……?
話を無理やりそらす。
川村壱馬
川村壱馬
……いる
心臓がドクンと嫌な音を立てる。



いた、んだ……好きな人……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
そう……なんだ……
川村壱馬
川村壱馬
……あなた
名前を呼ばれて顔を上げると、壱馬くんは真剣な表情でまっすぐ私を見つめた。
川村壱馬
川村壱馬
俺……お前が好きだ
え?
川村壱馬
川村壱馬
好きだ……。お前は違うやつが好きかもしんねぇけど、俺はお前が好きだ。……気持ち伝えたかっただけだから。返事、遠慮なく言ってくれ
やだ……そんな、嘘でしょう?
白濱(なまえ)
白濱あなた
私も……
川村壱馬
川村壱馬
え?
まっすぐ壱馬くんの綺麗な瞳を見つめる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
私も、壱馬くんが好きです
私の言葉に、壱馬くんは驚いたように見つめてくる。
川村壱馬
川村壱馬
嘘……だろ?
白濱(なまえ)
白濱あなた
ほ、ほんと……
私がそう言うと壱馬くんは髪をかきあげた。
川村壱馬
川村壱馬
はああああぁぁぁぁ……
え!?なにその大きなため息!
川村壱馬
川村壱馬
……お前は樹が好きかと思ってた
白濱(なまえ)
白濱あなた
えぇぇ!?それはないよ……
すると不機嫌そうに顔を上げる。
川村壱馬
川村壱馬
……昨日抱きしめられてただろ
え!?見られてたの!?
川村壱馬
川村壱馬
不可抗力だったとはいえ、落ち込んだ
うっ……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ご、ごめんなさい!でも私が好きなのは壱馬くんだから……
顔を真っ赤にして言うと、壱馬くんも真っ赤だった。
川村壱馬
川村壱馬
じゃあ……姫になってくれるか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
……はい
その瞬間、壱馬くんは私を抱きしめた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
か、壱馬く……
高鳴る胸を感じながら『どうして突然?』と壱馬くんに問いかけたくて目を向けると……。
川村壱馬
川村壱馬
樹に抱きしめられたの、めちゃくちゃムカつく
そう言うと私を抱きしめる力を強めた。



それだけで胸が熱くなってなんだかほっとする。
川村壱馬
川村壱馬
つーか樹に先越された感じ……
そう言うと……不意打ちでキスをした。



かあっと赤くなる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ファ、ファーストキス……
川村壱馬
川村壱馬
よかった。これで誰にも奪われないな
なんか壱馬くん、余裕の微笑みだ……。
川村壱馬
川村壱馬
俺、独占欲強い嫉妬深いけど、それでもいいか?
壱馬くんがそう言ったけど、そんなの……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
全然いい!よろしくお願いします!
私がそう答えると壱馬くんは微笑み、今度はゆっくりと顔を寄せる。



さっきは感じる余裕がなかった甘い予感に、私もそっと目を閉じる。



壱馬くんが優しい手つきで私の髪を撫で、唇が合わさった。



……好き。



壱馬くんが、好き。



この気持ちは他の何にもかえられない。



そっと唇が離されて、お互いに微笑み合う。



特別で、幸せな、そんな気持ち。



壱馬くんが教えてくれたこの気持ちを、一生大事にしよう。



私はそんな思いを抱きながら、幸福で胸がいっぱいになっているのを感じた。

プリ小説オーディオドラマ