第23話

4,963
2020/12/30 07:30
一週間後。
白濱(なまえ)
白濱あなた
っ!きゃーーー!!!
私はロッカーで悲鳴をあげた。
川村壱馬
川村壱馬
どうした!?
ちょうど同じタイミングで登校してきた壱馬くんと颯太くんが、私の悲鳴を聞いて駆けつける。
白濱(なまえ)
白濱あなた
こ、こ、こ、これ……
私が取り出そうとして落とした靴を見て、絶句する2人。



今日ロッカーに入っていたのは手紙ではなく、なんと虫の死骸……。



しかも大量の……。



見ているだけで、今にも気絶しそうになる。
川村壱馬
川村壱馬
大丈夫だ、大丈夫だから……
壱馬くんはそう言って私をグイッと引っ張って虫から遠ざけ、背中を優しくさすってくれる。
中島颯太
中島颯太
にしてもすごいな……
颯太くんがポツリとつぶやく。
中島颯太
中島颯太
許さへん……
颯太くんはそう言うと拳を握りしめた。



他の生徒たちも私たちを見て固まってる……。



そりゃそうよね……。



ロッカーの中には大量の虫の死骸。



私は壱馬くんに背中をさすられていて、颯太くんは怒りをあらわにしているし……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ふたりとも……ごめんね、取り乱しちゃって……もう大丈夫
川村壱馬
川村壱馬
無理すんな。今日は土曜だし、放課後すぐに教室まで迎えに行くから、待ってろ
壱馬くんのその言葉に、私はゆっくりと頷いた。











放課後。



美樹に事情を話して休み時間は一緒にいてもらったこともあり、あれからはなにもなく、普通に過ごせた。



あわすごくビクビクしてたけど……。



そんなことを思いながら廊下でカバンを持って壱馬くんを待っていると、グッと腕を引っ張られた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
な、なに!?
振り返るとやっぱりあのいじめっ子たち。
いじめっ子女子
ちょっと来なさいよ
そう言ってグイグイ引っ張られる。



何人もいるから逃げられないし、口はふさがれて声が出せない。



連れてこられたのはやっぱり空き教室で、乱暴に床に倒された。
いじめっ子女子
壱馬くんたちに言ったんでしょ?それで守ってなんかもらっちゃって……!
そう言って髪を引っ張られた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
い、痛い!!
思わず声を上げる。
いじめっ子女子
あーらごめんなさい?痛かった?
そう言うともっと強く引っ張る。
いじめっ子女子
あー足りないなぁ、もっといじめたい
ど、ドSみたいな発言しないでよ!!
いじめっ子女子
いいわよ、来て
その言葉とともに教室に入ってきた3人の男子生徒。
いじめっ子女子
この子。どう?
男子生徒
いい、いい!めっちゃかわいー
そう言って気持ち悪い目を向けてくる男子たち。



う、うそでしょ?



こんな軽いノリの人たち、うちの学校にいたの……?
いじめっ子女子
じゃ、好きにやってよ。私らは外で見張っとくからさ
え……。
男子生徒
サンキューお嬢さんっ!じゃ、この子好きにするぜ?
いじめっ子女子
ええ、どうぞ?
いじめっ子たちはニヤニヤしながら廊下に出た。



__ガチャ。
白濱(なまえ)
白濱あなた
嘘……
ドアがしまったのと同時に、体が震えだす。



どうしよ……鍵までかけられた……。



窓から降りて逃げようとおもっても、ここ5階だからたぶん死んじゃうし……。
男子生徒
じゃあ〜、楽しいこと、しよっか
声がかかって、ハッと振り返る。



い……いらない、いらない、いらない!!
白濱(なまえ)
白濱あなた
え、遠慮しときます
男子生徒
そんなこと言わずにさ〜ほら、来いよ
グッと腕を引っ張られてそれを振り払うと、バランスを崩して再び床に倒れ込んでしまった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
やめて、ください……!
男子生徒
お上品〜、さすがお嬢様
そう言ってまた近づいてくる。



やめて、やめて、やめて……!!



髪を触られてビクッとする。



触らないで!!



パシッと払おうとするとその手をつかまれる。



気持ち悪い……。
男子生徒
素直になれよぉ〜
そう言うと急にジャケットを脱がされる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
やっやだ!
ジャケットを放られ、リボンを取られる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
やめて!やめてよ!!
必死で抵抗するけど男の力に敵うはずもなく、ブラウスのボタンに手をかけられた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
や、やめてっ!!!!
私の声同時にバァンッ!!と扉が開いた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
か、壱馬くん……
そこにいたのは、鋭い眼光を放ちながら相手を睨みつける壱馬くんだった。
川村壱馬
川村壱馬
……てめぇら……なにやってる
いつもより数段低い壱馬くんの声に、男の人たちはビクッと反応した。



さあーっと顔が青ざめている。
男子生徒
お、俺はら外にいるヤツらに街中で声かけられて、連れてこられただけで……この学校とは何の関係も……
川村壱馬
川村壱馬
……なにやってんのかって聞いてんだよ!!
そう言うと、私のブラウスのボタンに手をかけていた男の人を思いっきり殴った。



ドカッ、バキッ……とすごい音。



思わずぎゅっと目をつむる。



壱馬くんは男子たちを殴りつけ、全員倒れ込んで気を失っているのを確認して私の方にゆっくりと歩み寄ってくれる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱……馬、くん……
ぶわっと涙が溢れた。



すかさず壱馬くんがスッと抱きしめる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
怖かったぁ……
そう言うと壱馬くんは抱きしめる力を強めた。
川村壱馬
川村壱馬
……もう大丈夫だからな。怖かったな……
壱馬くんがそう言って、私はしゃくりあげながら懸命に言葉を繋げた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
助けてくれ、て……あり、がとう……
川村壱馬
川村壱馬
いや……ごめん。先生に呼び止められて、来るの遅くなった。女子集団に連れていかれるところが見えたから、なんとか間に合ったけど……
そう言うと壱馬くんは私の頭をポンポンと優しくなでた。



さっきまで不安と恐怖でいっぱいだった心が、壱馬くんの腕に包まれているだけですごく安心感が生まれる。



トク、トク、と規則正しく刻まれる鼓動は壱馬くんに聞こえてしまっているのかな?



……もし聞こえてしまっていたとしても、今はそれでもいいと思ってしまう。



この鼓動と安心感が、私の涙を乾かしてくれるから。



そうして私が泣き止むと壱馬くんは私にジャケットをかぶせてまた目を鋭くした。
川村壱馬
川村壱馬
おい、出て来やがれ
低い声でそう言ってドアの方を見る。



そこには青ざめたいじめっ子たちがいた。
川村壱馬
川村壱馬
てめぇら……なにしたかわかってんだろうな?
そう言って睨みつける壱馬くん。



女の子たちは声もでない。
川村壱馬
川村壱馬
……なんとか言えよ、なにしたかわかってんのか!!それに、この男どもはどうやって学校に連れ込んだ!?
倒れ込んだままの男子たちを見下ろしながらそういう壱馬くんの声にみんなビクッと肩をすくめる。
いじめっ子女子
だって……そいつが、遠慮なく壱馬くんたちに近づくから……その……弟の制服のスペアを着せて……
いじめっ子のリーダーがそう言って体を縮こませる。



そこの言葉にもっと鋭くなった壱馬くんの目。
川村壱馬
川村壱馬
てめぇら何言ってんだ?こいつが近づいたんじゃねぇ。俺らが自分たちの意思で近づいてんだ!
いじめっ子女子
わ、わかってる!でも、やけに特別扱いされてるから……そいつが媚売ったんじゃないの……?
そう言って私を睨みつけるリーダー格。
川村壱馬
川村壱馬
頭おかしいんじゃねえか?媚売った?……ふざけんなよ、媚売ってんのはてめぇらだろうが!
壱馬くんがそう吐き捨てると、いじめっ子はもっと青ざめた。
川村壱馬
川村壱馬
……こいつは俺の大事なヤツだ。俺らの尊敬してる人の妹でもある。そんなこいつに手ェ出して……タダですむと思うなよ?
壱馬くんはそう言うといじめっ子たちを睨みつけ、私の手を引いて教室を出た。



私はこんなときなのに、また『大事なヤツ』と言ってもらえたことに胸がキュンとする。



大事、か……。



お兄ちゃんの妹っていう意味で言われたのかもしれないけど、それでも壱馬くんの口からその言葉が紡がれると素直に嬉しい。
川村壱馬
川村壱馬
……今日はやめとくか?
たまり場に行くか、ってことだよね……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ううん……行きたい。でも古書店に行くのはやめておく
壱馬くんは黙って頷いた。



こんな時だからこそ、行きたい。



みんなに会って安心したい……。



私と壱馬くんは忠さんの運転する車に乗ってたまり場に向かった。



たまり場に着くと、一瞬、みんなのことを怖く感じてしまった。



『男の人』というだけでさっきの人たちのことを思い出してしまって、髪を触られたときの感触だったり、ニヤニヤと浮かべた笑みを思い出してしまって、自然と体が震えてきてしまう。



思わず髪をぎゅっと握ると、それに気づいた壱馬くんがそっと私の髪に触れる。
川村壱馬
川村壱馬
髪……触られたのか?
私が唇を噛んで頷くと険しい顔をした壱馬くん。



そして私の髪をそっとなでる。
川村壱馬
川村壱馬
……髪以外は触られてないか?
私はこくっと頷く。



ジャケットを……脱がされたりしとかはしたけど、体に触れられる前に壱馬くん来てくれたから……。



壱馬くんはもう一度髪をなでると、私の手をぎゅっと握った。
川村壱馬
川村壱馬
もう大丈夫だからな
壱馬くんはさっきの険しい表情ではなく、優しい笑みを浮かべて私を見た。



その表情を見て鼓動が高鳴る。



ドキドキしすぎて息ができない。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あり……がとう……
私がそう言うと壱馬くんはまた微笑んで、私の手を握ったまま階段をのぼっていった。
吉野北人
吉野北人
おっそーい!!なにしてたの!?
部屋に入ると北人くんが壱馬くんを見て頬を膨らませながら言う。
川村壱馬
川村壱馬
あなたのこと……助けてた
壱馬くんのその一言に、その場の空気が一変した。
吉野北人
吉野北人
なに……されてたの?
北人くんが恐る恐る聞く。
川村壱馬
川村壱馬
……襲われてた
壱馬くんがそう言った瞬間、北人くんと夏喜くんは目を見開き、樹くんは本を落とし、颯太くんはコントローラーを落とした。
吉野北人
吉野北人
なん……だって……?
川村壱馬
川村壱馬
……あの女子どもが校外のヤツ呼んで……こいつを襲わせてた
壱馬くんの、静かな……でも怒りに満ちた声が、しんとした部屋に響いた。

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