一週間後。
私はロッカーで悲鳴をあげた。
ちょうど同じタイミングで登校してきた壱馬くんと颯太くんが、私の悲鳴を聞いて駆けつける。
私が取り出そうとして落とした靴を見て、絶句する2人。
今日ロッカーに入っていたのは手紙ではなく、なんと虫の死骸……。
しかも大量の……。
見ているだけで、今にも気絶しそうになる。
壱馬くんはそう言って私をグイッと引っ張って虫から遠ざけ、背中を優しくさすってくれる。
颯太くんがポツリとつぶやく。
颯太くんはそう言うと拳を握りしめた。
他の生徒たちも私たちを見て固まってる……。
そりゃそうよね……。
ロッカーの中には大量の虫の死骸。
私は壱馬くんに背中をさすられていて、颯太くんは怒りをあらわにしているし……。
壱馬くんのその言葉に、私はゆっくりと頷いた。
放課後。
美樹に事情を話して休み時間は一緒にいてもらったこともあり、あれからはなにもなく、普通に過ごせた。
あわすごくビクビクしてたけど……。
そんなことを思いながら廊下でカバンを持って壱馬くんを待っていると、グッと腕を引っ張られた。
振り返るとやっぱりあのいじめっ子たち。
そう言ってグイグイ引っ張られる。
何人もいるから逃げられないし、口はふさがれて声が出せない。
連れてこられたのはやっぱり空き教室で、乱暴に床に倒された。
そう言って髪を引っ張られた。
思わず声を上げる。
そう言うともっと強く引っ張る。
ど、ドSみたいな発言しないでよ!!
その言葉とともに教室に入ってきた3人の男子生徒。
そう言って気持ち悪い目を向けてくる男子たち。
う、うそでしょ?
こんな軽いノリの人たち、うちの学校にいたの……?
え……。
いじめっ子たちはニヤニヤしながら廊下に出た。
__ガチャ。
ドアがしまったのと同時に、体が震えだす。
どうしよ……鍵までかけられた……。
窓から降りて逃げようとおもっても、ここ5階だからたぶん死んじゃうし……。
声がかかって、ハッと振り返る。
い……いらない、いらない、いらない!!
グッと腕を引っ張られてそれを振り払うと、バランスを崩して再び床に倒れ込んでしまった。
そう言ってまた近づいてくる。
やめて、やめて、やめて……!!
髪を触られてビクッとする。
触らないで!!
パシッと払おうとするとその手をつかまれる。
気持ち悪い……。
そう言うと急にジャケットを脱がされる。
ジャケットを放られ、リボンを取られる。
必死で抵抗するけど男の力に敵うはずもなく、ブラウスのボタンに手をかけられた。
私の声同時にバァンッ!!と扉が開いた。
そこにいたのは、鋭い眼光を放ちながら相手を睨みつける壱馬くんだった。
いつもより数段低い壱馬くんの声に、男の人たちはビクッと反応した。
さあーっと顔が青ざめている。
そう言うと、私のブラウスのボタンに手をかけていた男の人を思いっきり殴った。
ドカッ、バキッ……とすごい音。
思わずぎゅっと目をつむる。
壱馬くんは男子たちを殴りつけ、全員倒れ込んで気を失っているのを確認して私の方にゆっくりと歩み寄ってくれる。
ぶわっと涙が溢れた。
すかさず壱馬くんがスッと抱きしめる。
そう言うと壱馬くんは抱きしめる力を強めた。
壱馬くんがそう言って、私はしゃくりあげながら懸命に言葉を繋げた。
そう言うと壱馬くんは私の頭をポンポンと優しくなでた。
さっきまで不安と恐怖でいっぱいだった心が、壱馬くんの腕に包まれているだけですごく安心感が生まれる。
トク、トク、と規則正しく刻まれる鼓動は壱馬くんに聞こえてしまっているのかな?
……もし聞こえてしまっていたとしても、今はそれでもいいと思ってしまう。
この鼓動と安心感が、私の涙を乾かしてくれるから。
そうして私が泣き止むと壱馬くんは私にジャケットをかぶせてまた目を鋭くした。
低い声でそう言ってドアの方を見る。
そこには青ざめたいじめっ子たちがいた。
そう言って睨みつける壱馬くん。
女の子たちは声もでない。
倒れ込んだままの男子たちを見下ろしながらそういう壱馬くんの声にみんなビクッと肩をすくめる。
いじめっ子のリーダーがそう言って体を縮こませる。
そこの言葉にもっと鋭くなった壱馬くんの目。
そう言って私を睨みつけるリーダー格。
壱馬くんがそう吐き捨てると、いじめっ子はもっと青ざめた。
壱馬くんはそう言うといじめっ子たちを睨みつけ、私の手を引いて教室を出た。
私はこんなときなのに、また『大事なヤツ』と言ってもらえたことに胸がキュンとする。
大事、か……。
お兄ちゃんの妹っていう意味で言われたのかもしれないけど、それでも壱馬くんの口からその言葉が紡がれると素直に嬉しい。
たまり場に行くか、ってことだよね……。
壱馬くんは黙って頷いた。
こんな時だからこそ、行きたい。
みんなに会って安心したい……。
私と壱馬くんは忠さんの運転する車に乗ってたまり場に向かった。
たまり場に着くと、一瞬、みんなのことを怖く感じてしまった。
『男の人』というだけでさっきの人たちのことを思い出してしまって、髪を触られたときの感触だったり、ニヤニヤと浮かべた笑みを思い出してしまって、自然と体が震えてきてしまう。
思わず髪をぎゅっと握ると、それに気づいた壱馬くんがそっと私の髪に触れる。
私が唇を噛んで頷くと険しい顔をした壱馬くん。
そして私の髪をそっとなでる。
私はこくっと頷く。
ジャケットを……脱がされたりしとかはしたけど、体に触れられる前に壱馬くん来てくれたから……。
壱馬くんはもう一度髪をなでると、私の手をぎゅっと握った。
壱馬くんはさっきの険しい表情ではなく、優しい笑みを浮かべて私を見た。
その表情を見て鼓動が高鳴る。
ドキドキしすぎて息ができない。
私がそう言うと壱馬くんはまた微笑んで、私の手を握ったまま階段をのぼっていった。
部屋に入ると北人くんが壱馬くんを見て頬を膨らませながら言う。
壱馬くんのその一言に、その場の空気が一変した。
北人くんが恐る恐る聞く。
壱馬くんがそう言った瞬間、北人くんと夏喜くんは目を見開き、樹くんは本を落とし、颯太くんはコントローラーを落とした。
壱馬くんの、静かな……でも怒りに満ちた声が、しんとした部屋に響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。