____放課後。
私は迎えの車に乗り込みながら、運転手さんにお願いしてみる。
すると案の定、顔をしかめる運転手さん。
古い本って、色あせた感じとか手触りも含めて素敵なんだから!
私がそう言うと、しぶしぶ頷いてくれた運転手さん。
ありがとうございます……!
心の中で感謝しながら、窓の外を眺めた。
私が行こうとしている古書店は、一言で言うと、ガラの悪いところにある。
ゲームセンターやパチンコはもちろん、怪しげな占いの館や、古くてボロボロの事務所なんかもあって、通りをひとつ外れると迷い込んでしまいそうな、不気味さも感じさせる。
そんな通りにひっそりと佇んでいる古書店は、周りにあるお店に比べるとかなり小綺麗な感じはするけど、それでも看板はところどころ剥げてしまっているし入口は手動だし、大通りにあるような本屋さんとは全然違う。
だからいつも反対される。
でも確かにちょっと怖いけど、読書好きの私からすればすごい穴場で……。
雑誌で見つけてから、ついつい行っちゃうんだ。
古書店のすぐ近くに駐車場がないので、少し離れた駐車場に着いて運転手さんに扉を開けてもらい、車をおりる。
だけど……。
そう言って車の鍵を閉めようとする運転手さん。
たしかに、決して治安がいいとは言えない場所。
でも、私だっていつかは社会に出るんだし、そんな子供扱いしなくたっていいじゃない。
ああ〜、もう!!
運転手さんの声を振り切って、古書店まで一目散に走っていく。
こんな、歩いて10分くらいの距離でなにか起きるとも思えないし、心配なんていらないのに。
そう考えているうちに到着。
ほら、やっぱり何も問題なかった。
少し得意な気分になりながら扉をひく。
「いらっしゃい」
店番らしき人にそう挨拶してから急いで小説のコーナーに行って本を数冊取り、中を確認してパパッと購入。
前から目、つけてたんだぁ。
本当はもっとゆっくり見たかったけど、パッと見でもイメージどおりの手触りや質感に満足。
軽い足取りで駐車場に戻ろうとすると、ドンっと誰かにぶつかった。
顔を上げると、サアッと顔から血の気が引くのを感じた。
そう言った人は金髪で、耳にはいくつものピアス。
ま、まさかの……不良!
げ、冗談じゃない!
ちょっと、ふざけないでよ……。
そう思って引き返すと、ぐいっと腕を引っ張られる。
そう言ってすごく強引に引っ張られる。
やだ、力が強くて振りほどけない……!
誰……?
振り返るとそこにいたのは、おそらく不良……だけど、なんだかかっこいい人……。
髪は染めてなくて綺麗な黒だし、目鼻立ちも整ってる。
不良っぽい所と言えば、鋭い目つきとピアスくらい。
ボーッと見とれていると、私の腕をつかんでいる不良が声を上げた。
そう言うやいなや、殴りかかってきて____。
え!?危ないっ!
思わず頭を抱えてぎゅっと目をつむると、聞こえてきたのはドカッ、バキッというすごい音。
え……殴……られた……?
おそるおそる目を開けると、絡んできた人が倒れてる。
実は弱かったんだ……。
それともイケメンさんが強かったのかな?
ハッと我に返ってお礼。
正直不良は怖いけど、助けてくれたんだし……。
そう言うと、クルッと後ろをむいて去っていってしまう。
彼は振り返らなかったけど、なんだか……私の心臓はドキドキなっていた。
なんだろう……この気持ち。
私はまたハッとして、駐車場に戻ろうと振り返ると、そこには息を切らした運転手さんがいた。
私の姿を見て心がホッとしたような運転手さんにちょっと罪悪感。
さっきのやり取りは見えてなかっただろうけど、彼の言う通りになっちゃったな……。
まだ疑わしげな彼にそう言って、車のドアを開けてもらう。
何とかごまかせた……。
車に乗り込んで、さっきの出来事を思い出す。
私の心臓は、なぜかまだドキドキと鳴っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!