【あなたside】
笑顔でそう返事をして、胸が満たされていくのを感じる。
今日は壱馬くんと一緒に式場巡り。
前々から目をつけていたところを実際に見に行くと本当にステキで、ついにやけてしまった私を見て壱馬くんがここに決めてくれた。
プラン表やなんならを見ていると、ついホッとため息をついてしまう。
とうとう私、壱馬くんと結婚するんだなぁ……。
数ヶ月前に無事大学を卒業して、壱馬くんはお父さんの会社に勤め始め、忙しい日々を送っている。
そんな時、いつもみたいにデートに出かけた。
場所は前にも連れてきてもらった海。
夕日が沈みかけて海の水面を照らし、夜空を待っている時だった。
優しい声で呼ばれて、海に向けていた顔を振り向かせる。
真っ赤な顔で何とかそう言うと、壱馬くんが私の前に立つ。
あ……やっぱり背が高いな……。
ぼーっとそんなことを考えてしまうけど、そうでもして気を紛らわせていないと、本当に心臓が爆発してしまいそう……。
__ドキン……ドキン……。
ゆっくりと膝をついて、澄んだ綺麗な目で私を見つめる。
その一言を聞いた瞬間、じんわりと温かいものが胸の中に広がっていく。
壱馬くんをいつまでも見つめていたいのに、涙で前が見えない。
優しく声をかけられて、涙はどんどん増していくばかり。
これじゃ返事どころじゃない。
そう言ってフッと目を細めた壱馬くんに、1度涙を拭う。
私も、ちゃんと返事をしないと……。
もう一度涙で見えなくなりそうになりながら、でも微笑みながら言った。
次の瞬間、そっと唇が重なる。
これ以上の幸せなんてきっとない。
__出会った時から今までの思い出が頭の中を駆け巡る。
ああ、本当に幸せ……。
はっ、ぼーっとしちゃってた!
キラキラと輝くサファイアがついた婚約指輪を見つめながらそう言うと、壱馬くんは少し顔を赤くする。
ふふっ……
ちょっと照れながら、でもやっぱりいつもの壱馬くん。
私はもう一度ふふっと笑って、式場を見上げた。
壱馬くんと結婚することを竜龍のみんなや美樹に言った時はみんなすごく祝福してくれて、結婚式にも来てくれるみたい。
そんな幸せ絶好調なある日。
お屋敷で花嫁修行としてママから料理を習っていて、少しだけママが席を外した時。
キッチンに飛び込んできた声にびっくりして小麦粉が辺り一面に……。
や、やってしまった……。
ガーンとショックを受けながら呼んだ人を見ると、
この人、坂下グループのひとり息子坂下聖(ひじり)さんだ。
何度か会ったことあるけど、なんだかちょっと苦手なんだよね……。
あ、そうだったんだ……。
あらためて言うとちょっと照れるな。
思わず間抜けな声が出て、慌てて口を押さえる。
け、けどなんで突然?
な、何言ってるんだろう、この人……?
断じて!断じてそれはない!
っていうかそれより『そう言ってた』って……。
はい?
え、そんなこと言ったっけ?
多分勘違いだと思うんだけどな。
それだけ言うと背を向けて去っていってしまった。
な、なんだったの……。
私は首を傾げてから、さっきぶちまけてしまった小麦粉を見てため息をついた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。