第33話

初めてのデート
4,654
2021/01/09 08:04
土曜日。



夜、お風呂上がりに電話がかかってきた。



相手は……え? 壱馬くん?



慌てて携帯を耳に当てる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
も、もしもし?
川村壱馬
川村壱馬
《あなた。急にかけて悪い》
白濱(なまえ)
白濱あなた
ううん、全然いいけどどうしたの?
少しの沈黙。な、なんだろう……?
白濱(なまえ)
白濱あなた
えーっと……
川村壱馬
川村壱馬
《明日出かけられるか?》
白濱(なまえ)
白濱あなた
へ?
思わず間抜けな声がでた。



出かけるって……出かけるって……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
で、デートですか?
川村壱馬
川村壱馬
《……まあそんなとこ》
わわぁぁあああ!



壱馬くんからデートのお誘い!!
川村壱馬
川村壱馬
《空いてるか?》
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うん!空いてるよ!
空いてなくても無理してでも空けるよ!!
川村壱馬
川村壱馬
《よかった。じゃあ10時に迎えに行くから》
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、えと、うん!わ、わかった!
川村壱馬
川村壱馬
《フッ……楽しみにしてるな》
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うん!私も!じゃ、じゃあね!
川村壱馬
川村壱馬
《ああ、おやすみ》
震える手で電話を切った。



デート……明日デートするんだ……。



どこ行くのかな?



……って、服!服決めなきゃ!



うーん……これがいいかな。



私が手に取ったのは、紺色のチュニック。



前にリボンがついていて、ふわっとしたシルエットがお気に入り。



うん、これに白のボトムスで決まりっ。



私は明日のことを考えながら、眠りについた。










翌日。



ま、まずい、まさかの寝坊!



もうやだ、なんでアラームならなかったんだろう!?



慌てて顔を洗って、30秒で着替え。



昨日用意しといてほんとよかった……。



バッグに必需品を入れ、キラキラと輝くビジューがついたバレッタでハーフアップにする。



あとは……あ、色つきのリップだけ塗っておこうかな。



そうして10分で支度完了。



ふう、なんとかなった……。



__ピーンポーン。
白濱(なまえ)
白濱あなた
今出まーす!
鏡の前でササッと身だしなみをチェックして、バッグを持った。



少しだけヒールのある歩きやすいベージュのショートブーツを履いて、家を出る。
白濱(なまえ)
白濱あなた
おはようっ!待たせてごめんね?
壱馬くんはポカーンとして私を見ている。
川村壱馬
川村壱馬
私服……すげぇかわいい……
そっぽを向きながら言う壱馬くん。



私まで、かあっと頬が赤くなった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、ありがとう……
とは言っても、壱馬くんのほうがカッコよすぎる。



シンプルな白いVネックのシャツに、カーディガンを羽織り、黒のジーンズを履いた壱馬くん。



私服姿は何回か見たことあるけど、久しぶりに見たからすごくドキドキする。
川村壱馬
川村壱馬
今日は海行こうと思ってさ
白濱(なまえ)
白濱あなた
海?
季節は秋……結構いいかもしれない!



人も少ないだろうしね。
川村壱馬
川村壱馬
そこでだ。選択肢が3つある。1つ目は電車、2つ目は車、3つ目はバイク。どうする?
うーん、そうだなぁ……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
バイクに……乗ってみたい
電車は混むと思うし車は忠さんもいるし……。



壱馬くんの運転はスピードが速いから少し怖いんだけど、せっかくだから2人きりで出かけたい……!
川村壱馬
川村壱馬
了解。バイク向こうにとめてるからちょっと待っててくれ
壱馬くんはそう言うと、足早に去っていった。



待ってると壱馬くんは爆音を響かせて私の前に来る。
川村壱馬
川村壱馬
乗れるか?
ううん、と首を横に振ると、優しく笑って軽々と乗せてくれた。
川村壱馬
川村壱馬
これもな
そう言ってヘルメットをかぶせ『これでよし』というように微笑む壱馬くん。



やだもう私……ドキドキしっぱなしだ……。
川村壱馬
川村壱馬
じゃあ行くけど……しっかり捕まれよ
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うんっ
ゆっくりと壱馬くんの腰に手を回す。



ただそれだけなのに、付き合う前にこうした時よりも胸が高鳴って、落ち着かない。



私の鼓動、壱馬くんにも伝わっちゃってるかな?



ドキドキと鳴り続ける心臓の音をかき消すように、大きな音を響かせてバイクが発進する。



でも私を気遣ってくれてるのか、そこまでスピード出さない。



そういう心遣い……凄く嬉しい。



信号が赤で止まると、密着しているのが恥ずかしくて、腰にまわした手があつくなった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
この季節だと人少ないかな?
照れ隠しもあって話しかけた。
川村壱馬
川村壱馬
ああ、たぶんな
信号が変わってまた走り出す。



気持ちいいな〜。



この風を切っていく感じ、やっぱりすごくいい……。
川村壱馬
川村壱馬
怖くないか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うんっ、全然!
川村壱馬
川村壱馬
よかった
その後も信号が止まる度にちょっとした話をして、1時間後に海に到着した。



ヘルメットを取ると、結った髪が風になびく。



バイクをおりて、壱馬くんと一緒に海岸へと向かった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
風が気持ちいいね
川村壱馬
川村壱馬
ああ、空いてるしな
並んでま歩きながら、どうしても壱馬くんの左手を意識してしまう。



恋人同士になったんだし、手とか、繋いでみたいけど……。



壱馬くんはどうだろう?



手を繋ぐなんて、いかにも恋人っぽいことをするのは好きじゃないかもしれないよね……。
川村壱馬
川村壱馬
……あなた
白濱(なまえ)
白濱あなた
は、はいっ
思わずかしこまった返事になってしまって、壱馬くんがそんな私に優しくフッと笑う。
川村壱馬
川村壱馬
この先、眺めのいいとこがあるけど行ってみるか?
眺めがいいところ……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
行きたいっ!
川村壱馬
川村壱馬
ん、じゃあ行くか
壱馬くんはそう言うと、そっと私の手を取った。
白濱(なまえ)
白濱あなた
っ……
途端に壱馬くんの熱が伝わってきて、かあっと顔が赤くなる。



私の熱も、壱馬くんに伝わってる。



……ドキン……ドキン……。



ただ手を繋いで歩いてるだけなのに、心臓が暴れだして。



好き、という感情が溢れ出てくる。



壱馬くんも、同じように思ってくれてるかな?



そっと壱馬くんを見ると、いつもと変わらない落ち着いた表情をしてるのに、耳だけが真っ赤になっていて、ついふふっと笑ってしまった。
川村壱馬
川村壱馬
どうかしたか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
ふふっ……ううん。幸せだな、と思って
川村壱馬
川村壱馬
……そう、か
少し照れたようにそう言った壱馬くんの手をぎゅっと握り返して、ふたりで堤防まで歩いていった。
川村壱馬
川村壱馬
ここ
私と壱馬くん以外誰もいない堤防にたどり着き、壱馬くんが地平線の彼方を見て微笑む。
白濱(なまえ)
白濱あなた
……すごく綺麗
太陽の光に反射して海面がキラキラと輝き、海の美しさにも思わず息を飲んだ。



都心から少し離れただけで、こんなに綺麗な海が見えるんだ。
川村壱馬
川村壱馬
夕方になるともっと綺麗なんだ。後で見に来ような
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん!
それから近くのカフェでお昼を食べたり、しゃべったり。



一日は瞬く間に過ぎていった。
川村壱馬
川村壱馬
そろそろ夕日が沈む頃だな……。行くか
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん!
ワクワクしながら壱馬くんに着いていく。



さっきより少し高い位置に立って、眺めると……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
綺麗……
夕日が海に浸かって、さっき見た時とはまた違う、美しい輝きを放っている。
川村壱馬
川村壱馬
ここさ……俺のお気に入りの場所なんだ。イライラした時とか、バイクで飛ばしてここで静めるって感じでな
白濱(なまえ)
白濱あなた
そうなんだ……。すごくいい場所だね
川村壱馬
川村壱馬
だろ?またいつでも連れてきてやるよ
白濱(なまえ)
白濱あなた
ほんと?ありがとうっ
私が微笑むと壱馬くんも微笑み返してくれた。
川村壱馬
川村壱馬
じゃ、そろそろ帰るか
白濱(なまえ)
白濱あなた
うんっ!
そう言って手を繋ぎ、嬉しさをかみ締めながら、でももう帰らなければ行けないことにどこか名残惜しさを感じながらバイクが置いてあるところまで戻る。



すると、前からガラの悪い男の人が4人歩いてくるのが見えた。




「あーまじうぜぇわ」


「ははっ、失恋とか笑える。ナンパでもすれば?」




げ、下品な人達だな……。




「お?なんかかわいー子いる〜」




早速ナンパしようとしてるし。



そう思っていると壱馬くんにぐいっと引っ張られた。



どうしたのかな?



壱馬くんを見ると、4人組を睨んでいる。



え……かわいい子って私の事だったの!?




「なになに彼氏?イッケメーン。でも俺らと遊ばねぇ?」




いやいやおかしいでしょ……。



なんで壱馬くんがいるってわかってるのに誘ってるんですか……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
……遠慮しときます
「そんなこと言わずにさぁ。こいつ慰めてやってよ」




なんで私が……!?
川村壱馬
川村壱馬
……こいつにナンパしてんじゃねぇよ。散れ
壱馬くんの低い声。




「うっわー何様?うぜぇ……ちょうどむしゃくしゃしてたし相手してよ」




なな、なんでそうなっちゃうの!?
川村壱馬
川村壱馬
チッ……雑魚が
こっちも!?



総長の壱馬くんが降臨しちゃったじゃない〜!




「っんだとてめぇ!」




そう言って、4人組が殴りかかってきた。



4対1!?何この不利なケンカ!!
川村壱馬
川村壱馬
目、つむっとけ
壱馬くんはそう言うと、さらっと4人の攻撃をかわした。



す、すごい。やっぱり桁違いに強い……!



目をつむっているように言われたのも忘れて思わず見惚れてしまっていると、後ろから誰かにトントンと肩を叩かれた。



振り返ると、金髪のリーダーっぽい人がニヤニヤして立っている。



な、なに……?



嫌な予感がして1歩下がると、顎をつかまれた。




「いいねぇ、もろ好み」




その途端、ぞおっと背筋が凍りつく。
白濱(なまえ)
白濱あなた
さっ、触らないでっ……!
そう言うと壱馬くんが私の声に気づき、振り返ったかと思うと、金髪の人の手に蹴りを入れた。




「なんだこいつ、強すぎだろ……!逃げるぞ」




そう言って4人組が呆気なく逃げていくと、壱馬くんは、はあっとため息をついた。
川村壱馬
川村壱馬
なんだったんだ。ったく……
そう言うと私の顔を覗き込む。
川村壱馬
川村壱馬
大丈夫か?
そんな彼にドキドキしながらも「う、うん……」と答える。



ケンカしてるとこ見るのは2回目だけど、さすが総長ってだけあって強いなぁ……。



それに、むやみに攻撃するんじゃなくて、私を守るために最大限の防御をしてくれてるんだよね。



大切にしてもらってる事が身に染みてわかるというか。



今までも何回か助けてもらったけど、守ってもらうたびにますます壱馬くんの事が好きにって行く。



そんなことを考えていると、壱馬くんにぐっと顎をつかまれた。
川村壱馬
川村壱馬
……うざ……
ガーン……。な、なんで?
川村壱馬
川村壱馬
あいつら、俺のあなたに触ったな……ったく、許せねぇ
あっ、私に対してじゃなくて、そっちだったの!?



ホッとすると同時に顔が赤くなるのを感じる。



なんかすっごくきゅーんときた……。



__次の瞬間、一瞬だけ壱馬くんと唇が重なった。



ふ、不意打ち……。
川村壱馬
川村壱馬
……帰るか
あ、照れてる……。



真っ赤な顔を見て、なんだか心がほっこりと暖かくなるのを感じた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
……うん。壱馬くん、今日は本当にありがとう
するとますます顔を赤くした壱馬くん。
川村壱馬
川村壱馬
……ああ
壱馬くんの照れ顔に微笑んで、私は幸せな気分で帰路についた。

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