あの後は家まで送ってもらい、壱馬くんは『月曜日にまた学校で』と言って帰っていった。
だけどふとしたときにいつでも壱馬くんのことを考えてしまって、なかなか寝れなかったりドキドキしたり。
いつもは『月曜日なんて来なければいい』なんて思ってたのに、壱馬くんに会えると思ったら待ち遠しくてたまらなかった。
__そして月曜日。
私が登校すると、壱馬くんは既に登校していたようで、女子のキャーキャー言う声が廊下まで聞こえていた。
それだけの事なのに……なんだか胸がチクッとする。
しかも、壱馬くんは1番端のクラスなのに、それでも取り巻きの声が聞こえる!!
「壱馬くーん!!!」
この言葉、何回聞いたことか……。
美樹もそう言って『うんざり!』というふうに首を横に振る。
げ!!そういえば話してなかった……。
親友だし……隠し事はダメだよね。
そう言うと「わかった」と言ってくれて、私たちは席に着いた。
昼休み。
美樹と屋上に行き、壱馬くんたちと仲良くなった経緯をすべて話した。
案の定、目を見開いてポカンとしている美樹。
美樹はへなへなと座り込んだ。
だよね……。
私が美樹だったら同じ反応すると思う。
そうだ、いつも美樹は私のことを心配してくれる。
古書店に行っちゃダメって言うのも、私を思っての事なんだって、その優しい目を見たらすぐわかる。
だから、なんでも相談できちゃうんだ。
自分の気持ちを初めて口に出すことができて、なんだか心がスッキリした。
そう言って微笑み会う。
なんか、よかった……。
もしかしたら、美樹に壱馬くんたちのことを否定されるんじゃないかとおもってたけど、いざ話してみたらちゃんと聞いてくれたし、壱馬くんへの恋心も応援してくれた。
好きな人のことを認めてもらえるのってこんなに嬉しいことなんだ。
私たちは笑顔で屋上をあとにした。
階段をおりていくと、廊下で壱馬くんを見かける。
壱馬くんのまわりには女子がいっぱい。
また胸がチクッと痛む。
これって嫉妬……だよね。
美樹がそう言ってくれたけど、心はどんよりとしたまま。
嫉妬深いのかな?私。
もう勘弁して欲しい……。
そういえば、あのいじめっ子の人、これからどうするつもりなのかな?
ちょっと心配っていうか不安なんだよね……。
悶々と考えていると、後ろから声がかかって慎が私のもとに来た。
私がそう言うと慎は「ありがとな」と言って去っていった。
なにげなく壱馬くんの方を見ると、壱馬くんは私の方を見ていた。
一瞬ドキッとしたけれど、ひとりの女子が壱馬くんにずいっと近づいていくのを見て、胸の奥がぎゅっと鷲掴みされたように痛くなる。
……いやだ。
壱馬くんが他の女の子に近づかれたり、仲よくしてるのは見たくない……。
壱馬くんの恋人でもなんでもない私が、こんな独占欲を抱いてもしょうがないのに。
私は鳴り続ける鼓動をなんとかおさめたくて、壱馬くんから顔を背けてしまった。
【壱馬side】
あいつに顔を背けられた。
なぜかすごくショックを感じて、唇を噛み締める。
さっき長谷川と喋っていたところを見て、なんだかモヤモヤして胸が締め付けられるような感覚に陥った。
あんなに他のやつに笑いかけないで欲しい、あんなに楽しそうにしないで欲しい……。
そんなことを思う自分が不思議でたまらない。
「ねえ壱馬くーん!」
うるさい……。
こんなヤツらの相手をしに、ここに来てるんじゃない。
あいつと……少しでも長く一緒にいたかったから。
なぜか分からないけど、あいつを見ると落ち着かない。
でも、その感覚はイヤじゃない。
あいつを見てると、ほっとしたり焦ったり、いつもの自分のペースが完全に崩されていく。
「ねえ、壱馬くんってばぁ〜」
ひとりの女が俺にベタベタ触ってくる。
うるさい、うるさすぎる。
あいつにこんなところを見られたくない。
……こう思っているのはたぶん俺だけじゃないと思う。
北人や……とくに颯太なんかは絶対イヤだろう。
颯太はたぶんあいつに惚れてる。
北人と……樹も。
女嫌いの樹が、あいつにだけは心を許してる感じがする。
あいつは……どうなんだろうか。
俺はあいつを見て、また目をそらした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。