第14話

彼女は……彼のなに?
4,776
2020/12/21 08:32
なんだか親しそうに話す壱馬くんと美紅ちゃんを見ていられなくて、ふたりに背を向ける形でゲームを始めたけど、やっぱり耳まではふさげず……。
西条美紅
西条美紅
壱馬ぁ〜
川村壱馬
川村壱馬
なんだよ
さっきからふたりの会話が聞こえてくる。
西条美紅
西条美紅
遊びに行こって
川村壱馬
川村壱馬
イヤだ。何回言ったら分かるんだよ。ってか、俺もゲームしてぇ
西条美紅
西条美紅
え〜
壱馬くんは私の隣に座って、コントローラーを取った。
川村壱馬
川村壱馬
俺も入れて
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うん!いい……
西条美紅
西条美紅
壱馬〜!私もいい?
美紅ちゃんは私と壱馬くんの間に割り込み、彼にピタッとくっついた。



またもやズキッと痛む胸をおさえて、コントローラーを美紅ちゃんにわたす。
白濱(なまえ)
白濱あなた
このボタンで……
西条美紅
西条美紅
壱馬〜!どうやるの?
……。



結局操作は壱馬くんが教えてるけど、美紅ちゃんは壱馬くんをポーっと見たままで、多分聞いてないと思う。



私はなんだかここにいたくなくて、コントローラーを置くと別のソファに移動した。



ふう……と息を吐き出す。



なんでこんなにモヤモヤするのかな?



美紅ちゃんが壱馬くんを好きってわかったから?



でもそれと私がこんな気持ちになるのって、なんの繋がりもない気がする……。
吉野北人
吉野北人
あなたちゃん、ほんとにごめん。あいつ壱馬のことになったら容赦なくて……
眉を下げて私を見る北人くんに「気にしないで」と言って小さく微笑む。



壱馬くんのことには容赦ない、か……。



でも、それほど好きってことだよね。



……壱馬くんはどうなんだろう?



美紅ちゃんのこと……好きなのかな?



ふたりを見て、心臓がドクンとイヤな音を立てる。



そんな私を見て北人くんが口を開いた。
吉野北人
吉野北人
……あなたちゃんってさ……壱馬が好きなの?
白濱(なまえ)
白濱あなた
え?
好き……?



私が、壱馬くんを……?
白濱(なまえ)
白濱あなた
どうだろう……
こう言うのが精一杯だった。



わからない……好きなのかな?



たしかに一緒にいると少しドキドキしたり、ずっと喋っていたいとか、笑顔を見ていたいって思う。



もっと知りたい、もっと、もっとって……。
中島颯太
中島颯太
なあ北人〜、あいつどうにかならへん?
颯太くんがこっちに来てハッと我に返る。
中島颯太
中島颯太
あなたにはツンケンするし、壱馬にベッタベタで気持ち悪いし
白濱(なまえ)
白濱あなた
ちょ、ちょっと颯太くん!『気持ち悪い』って言うのは言い過ぎ……
中島颯太
中島颯太
だって気持ち悪いやろ!
ははは……颯太くん、言うね……。
吉野北人
吉野北人
まぁたしかに、あなたちゃんにツンケンしてるね。嫉妬かな?
中島颯太
中島颯太
それしかないけど、あんな態度ないやろ
まあ……ちょっと傷ついたけど……。
中島颯太
中島颯太
あなた、こんなときは飛ばしに行こや!北人!行ってくるわ!!
吉野北人
吉野北人
はあ!?ちょ……
北人くんの声も虚しく、私は颯太くんに引っ張られていった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ちょ、颯太くん!?
中島颯太
中島颯太
ええから!ぶっ放しに行こうや!スカッとするからさ!あんなやつにあんな態度取られてウザイやろ!
ウザイっていうか……まあいいか。



私は颯太くんにバイクに乗せられて、ヘルメットを被せられた。
中島颯太
中島颯太
しっかりつかまれよ!
あー……それってやっぱり……。
中島颯太
中島颯太
落ちるって。つかまれよ
私はまた、恐る恐る腰に手を回した。
中島颯太
中島颯太
樹の運転とはちゃうからな!
そう言うとバイクがすごい速さで走り出した。



ビュンビュン風を切っていく。



悲鳴をあげる暇もない。



でもたしかにスカッとする。
白濱(なまえ)
白濱あなた
気持ちいい〜!!
私がそう言うと、颯太くんは「やろ?」と言ってもっとスピードをあげた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ぎゃー!!これ以上はダメ!!
中島颯太
中島颯太
大丈夫、大丈夫
いや、絶対大丈夫じゃない!!



気絶しそうになる寸前でバイクが止まった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
よかった……生きてる……
中島颯太
中島颯太
当たり前やろ!
白濱(なまえ)
白濱あなた
ありがと、颯太くん!スカッとした!
中島颯太
中島颯太
ああ!またいつでも乗せたるで!
私たちは笑いあって、いつもの部屋に戻った。
川村壱馬
川村壱馬
どこ行ってた?
部屋に戻ると壱馬くんがこっちを見て言った。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ちょっと気分転換
川村壱馬
川村壱馬
……あっそ
壱馬くんはいつもより少し低い声でそう言って、ふいっと顔を背けた。
西条美紅
西条美紅
壱馬〜どうしたの〜?
私を睨みながら言う美紅ちゃん。



……怖……。
川村壱馬
川村壱馬
……べつに
西条美紅
西条美紅
えー?なんか機嫌悪い……
川村壱馬
川村壱馬
……お前がまとわりつくからだろうが。ちょっとは俺から離れろ
西条美紅
西条美紅
壱馬怖い。あなたちゃんのせい?
え……なんで私のせい?
中島颯太
中島颯太
お前ええ加減にせえよ
とうとう颯太くんがキレて、いつもより低い声を出す。
中島颯太
中島颯太
壱馬に言えば?お前の気持ち。で、なんも悪くないあなたに嫉妬すんな、アホ
あ、アホって……。
西条美紅
西条美紅
ひっどーい
中島颯太
中島颯太
そのしゃべり方うっざーい
声真似をした颯太くんに、思わず笑いそうになって唇を噛みながら耐える私たち。



樹くんまで下を向いて笑いを堪えてる。



美紅ちゃんはそんな私をギロっと睨む。



私は慌てて咳払いをして、真顔に戻った。
西条美紅
西条美紅
もういいっ、みんな私に意地悪するんだから!
美紅ちゃんはそう言うと北人くんを見る。
西条美紅
西条美紅
北人、帰るから送ってって!
吉野北人
吉野北人
はいはい……
北人くんはよっこらしょー、なんて言いながら椅子から立ち上がり、先に部屋を出ていった美紅ちゃんを追って行った。
中島颯太
中島颯太
大変やなあ、あいつも
颯太言葉にみんなが無言でうなずく。



ほんと、大変そう。



少しだけ気の毒に思ってしまう。



そう思っていると、颯太くんがコントローラーを投げ出した。
中島颯太
中島颯太
ってかあいつが意地悪したんやろーが。今さらながら腹たってきたわ
白濱(なまえ)
白濱あなた
さっきバイクで発散したのに?
中島颯太
中島颯太
足りん!今日俺が送って行ってもいいか?
私はいいけど……。
川村壱馬
川村壱馬
……いや、俺が送る
え?と思って振り返ると、壱馬くんが颯太くんをじっと見ていた。
中島颯太
中島颯太
あー……そっか、お前の方がストレスたまってるよな
颯太くんは、何かを考えるように少し間をあけてからそう言って、からりと笑う。
中島颯太
中島颯太
あなた、気をつけや?壱馬の運転、俺よりやばいから
白濱(なまえ)
白濱あなた
え!?
あれよりすごいの!?
川村壱馬
川村壱馬
……んなことねえよ。行くぞ
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、うん……
私はそう言って、颯太くんと樹くんに手を振って部屋を出る。
川村壱馬
川村壱馬
……颯太と、仲いいんだな
白濱(なまえ)
白濱あなた
え?そ、そうかな?
特別親しいとか思ってなかったけど、ゲームとか、たしかに趣味は合うよね。
白濱(なまえ)
白濱あなた
一緒にゲームするからかも
川村壱馬
川村壱馬
……そ
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うん
階段をおりて、バイクが置いてあるところまでお互い無言で歩いていく。



なんだか、ぎこちないな……。



いつもなら会話がなくてもなんてことないのに、今はついつい美紅ちゃんのことが頭をよぎってしまう。



もしかして壱馬くん、ほんとは美紅ちゃんのこと送りたかったのかな?



さっきのは照れ隠し?



だとしたら悪いことしちゃった。



ふと、足を止める。



壱馬くんって、美紅ちゃんのことが好きなのかな?



じゃあ、ふたりは両思い?
川村壱馬
川村壱馬
あなた?
川村壱馬
川村壱馬
どうした、忘れ物か?
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、ううんっ、ごめん
慌ててそう言って、壱馬くんの元に急ぐ。



壱馬くんは鍵を出して、ヘルメットの準備をしてくれてる。



ええと、どうしよう。



今まで手を貸してもらってたから、ひとりでは乗れないんだけど……。
川村壱馬
川村壱馬
どうかしたのか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、あの、ひとりで乗れなくて……
川村壱馬
川村壱馬
ああ、そうか。悪い
壱馬くんはそう言って私にヘルメットを渡し、スっと手を出す。



え、ちょっと待って、つまり……。



私が戸惑っていると、壱馬くんは私をさっと抱き上げた。



かっと顔が火照って行くのを感じる。



樹くんや颯太くんに乗せてもらった時は、こんなこと無かったのに……!



体重とか体型が気になって仕方ないよ!



真っ赤になっていると、ストン、と後部座席に座らせてくれる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、ありがとう
川村壱馬
川村壱馬
ん。これもな
そう言って渡されたヘルメットをかぶりながら、いまだに触れられた部分が熱くなっているのを感じる。



な、なんだろう?



考えているうちに壱馬くんが慣れた様子でバイクにまたがる。
川村壱馬
川村壱馬
……捕まって
白濱(なまえ)
白濱あなた
……うん
ゆっくりと壱馬くんの腰に手を回すと、今度は胸がドキドキしてくる。
川村壱馬
川村壱馬
じゃあ行くぞ
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん
何とか返事を返したけど……。



……ドクンッ……ドクンッ……。



こんなに心臓の音を立てるのは、壱馬くんの運転がどれくらい速いのかがわからなくてこわいからかな?



それとも……。



__突然、風が私の体を包んだ。



バイクが走り出したと気づいたのはその直後。



ビュンビュン風を切っていき、心臓がひゅっと縮こまるみたいな感覚……!
川村壱馬
川村壱馬
寒くないか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
だ、大丈夫!
大丈夫だけど、怖すぎる!



ぎゅっと無我夢中で壱馬くんにしがみつき、もうなにがなんだかわからない!!



けど……。



壱馬くんの広い背中を見て、ふと思う。



どうしてだろう?



怖くて仕方ないのに、家に着いてほしくないなんて思ってる。



いつまでもこのまま、壱馬くんの運転するバイクに乗っていたい。



ずっと、この心地よい胸の高鳴りを感じていたい……。



私は心臓がなり続けるのを感じながら、壱馬くんの腰に回している腕にギュッと力を込めた。

プリ小説オーディオドラマ