なんだか親しそうに話す壱馬くんと美紅ちゃんを見ていられなくて、ふたりに背を向ける形でゲームを始めたけど、やっぱり耳まではふさげず……。
さっきからふたりの会話が聞こえてくる。
壱馬くんは私の隣に座って、コントローラーを取った。
美紅ちゃんは私と壱馬くんの間に割り込み、彼にピタッとくっついた。
またもやズキッと痛む胸をおさえて、コントローラーを美紅ちゃんにわたす。
……。
結局操作は壱馬くんが教えてるけど、美紅ちゃんは壱馬くんをポーっと見たままで、多分聞いてないと思う。
私はなんだかここにいたくなくて、コントローラーを置くと別のソファに移動した。
ふう……と息を吐き出す。
なんでこんなにモヤモヤするのかな?
美紅ちゃんが壱馬くんを好きってわかったから?
でもそれと私がこんな気持ちになるのって、なんの繋がりもない気がする……。
眉を下げて私を見る北人くんに「気にしないで」と言って小さく微笑む。
壱馬くんのことには容赦ない、か……。
でも、それほど好きってことだよね。
……壱馬くんはどうなんだろう?
美紅ちゃんのこと……好きなのかな?
ふたりを見て、心臓がドクンとイヤな音を立てる。
そんな私を見て北人くんが口を開いた。
好き……?
私が、壱馬くんを……?
こう言うのが精一杯だった。
わからない……好きなのかな?
たしかに一緒にいると少しドキドキしたり、ずっと喋っていたいとか、笑顔を見ていたいって思う。
もっと知りたい、もっと、もっとって……。
颯太くんがこっちに来てハッと我に返る。
ははは……颯太くん、言うね……。
まあ……ちょっと傷ついたけど……。
北人くんの声も虚しく、私は颯太くんに引っ張られていった。
ウザイっていうか……まあいいか。
私は颯太くんにバイクに乗せられて、ヘルメットを被せられた。
あー……それってやっぱり……。
私はまた、恐る恐る腰に手を回した。
そう言うとバイクがすごい速さで走り出した。
ビュンビュン風を切っていく。
悲鳴をあげる暇もない。
でもたしかにスカッとする。
私がそう言うと、颯太くんは「やろ?」と言ってもっとスピードをあげた。
いや、絶対大丈夫じゃない!!
気絶しそうになる寸前でバイクが止まった。
私たちは笑いあって、いつもの部屋に戻った。
部屋に戻ると壱馬くんがこっちを見て言った。
壱馬くんはいつもより少し低い声でそう言って、ふいっと顔を背けた。
私を睨みながら言う美紅ちゃん。
……怖……。
え……なんで私のせい?
とうとう颯太くんがキレて、いつもより低い声を出す。
あ、アホって……。
声真似をした颯太くんに、思わず笑いそうになって唇を噛みながら耐える私たち。
樹くんまで下を向いて笑いを堪えてる。
美紅ちゃんはそんな私をギロっと睨む。
私は慌てて咳払いをして、真顔に戻った。
美紅ちゃんはそう言うと北人くんを見る。
北人くんはよっこらしょー、なんて言いながら椅子から立ち上がり、先に部屋を出ていった美紅ちゃんを追って行った。
颯太言葉にみんなが無言でうなずく。
ほんと、大変そう。
少しだけ気の毒に思ってしまう。
そう思っていると、颯太くんがコントローラーを投げ出した。
私はいいけど……。
え?と思って振り返ると、壱馬くんが颯太くんをじっと見ていた。
颯太くんは、何かを考えるように少し間をあけてからそう言って、からりと笑う。
あれよりすごいの!?
私はそう言って、颯太くんと樹くんに手を振って部屋を出る。
特別親しいとか思ってなかったけど、ゲームとか、たしかに趣味は合うよね。
階段をおりて、バイクが置いてあるところまでお互い無言で歩いていく。
なんだか、ぎこちないな……。
いつもなら会話がなくてもなんてことないのに、今はついつい美紅ちゃんのことが頭をよぎってしまう。
もしかして壱馬くん、ほんとは美紅ちゃんのこと送りたかったのかな?
さっきのは照れ隠し?
だとしたら悪いことしちゃった。
ふと、足を止める。
壱馬くんって、美紅ちゃんのことが好きなのかな?
じゃあ、ふたりは両思い?
慌ててそう言って、壱馬くんの元に急ぐ。
壱馬くんは鍵を出して、ヘルメットの準備をしてくれてる。
ええと、どうしよう。
今まで手を貸してもらってたから、ひとりでは乗れないんだけど……。
壱馬くんはそう言って私にヘルメットを渡し、スっと手を出す。
え、ちょっと待って、つまり……。
私が戸惑っていると、壱馬くんは私をさっと抱き上げた。
かっと顔が火照って行くのを感じる。
樹くんや颯太くんに乗せてもらった時は、こんなこと無かったのに……!
体重とか体型が気になって仕方ないよ!
真っ赤になっていると、ストン、と後部座席に座らせてくれる。
そう言って渡されたヘルメットをかぶりながら、いまだに触れられた部分が熱くなっているのを感じる。
な、なんだろう?
考えているうちに壱馬くんが慣れた様子でバイクにまたがる。
ゆっくりと壱馬くんの腰に手を回すと、今度は胸がドキドキしてくる。
何とか返事を返したけど……。
……ドクンッ……ドクンッ……。
こんなに心臓の音を立てるのは、壱馬くんの運転がどれくらい速いのかがわからなくてこわいからかな?
それとも……。
__突然、風が私の体を包んだ。
バイクが走り出したと気づいたのはその直後。
ビュンビュン風を切っていき、心臓がひゅっと縮こまるみたいな感覚……!
大丈夫だけど、怖すぎる!
ぎゅっと無我夢中で壱馬くんにしがみつき、もうなにがなんだかわからない!!
けど……。
壱馬くんの広い背中を見て、ふと思う。
どうしてだろう?
怖くて仕方ないのに、家に着いてほしくないなんて思ってる。
いつまでもこのまま、壱馬くんの運転するバイクに乗っていたい。
ずっと、この心地よい胸の高鳴りを感じていたい……。
私は心臓がなり続けるのを感じながら、壱馬くんの腰に回している腕にギュッと力を込めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。