それから数日経って、相変わらず竜龍のたまり場で楽しい日々を送っている。
でも時々ふと、もうすぐこの場所にいられなくなることを考えてしまって、なんだか寂しい気持ちになってしまう。
今日はみんな用事があるらしく、今、この幹部の部屋にいるのは颯太くんと私だけで、颯太くんが新しく買ったバトルゲームで対戦中。
颯太くんにそう言われて、次の瞬間、私のキャラクターが倒れた。
小さくため息をついて、口を開く。
うんざりしたような顔でコントローラーを操作する颯太くんに慌ててそう言う。
言いかけてからふと思う。
もうすぐ竜龍での日々が終わることが悲しい、なんて、私が言っていいのかな?
みんな、心のよりどころである竜龍から旅立とうとしてるって言うのに。
そもそも颯太くんは、私が言わなくても本当は分かってるんじゃないの?
私がそう言うと、颯太くんは手を止めた。
あ、もしかしてまずいこと言っちゃったかな……。
ポツリと呟くようにそう言った颯太くんを見つめていると、彼は少しの間考えてから口を開いた。
え?
あ、安全地帯……。
たしかにそうかも。
ここではみんなが仲間で、みんなで助け合って、お互いに高めあってるもんね。
敵なんかいないし、みんなが仲良くてすごく居心地がいい。
颯太くんはそう言ってニッと笑う。
その言葉にハッとさせられる、
あ……そっか。
私はきっと竜龍を卒業してみんなと疎遠になるのが怖いんだ。
このたまり場という場所での繋がりをなくしたら、もう合わなくなるんじゃないか。
もう笑いあったりしなくなるんじゃないかって。
でも、そんなことあるはずないんだよね。
ここで築いた絆は固くて、そう簡単に無くなるものじゃない。
恐れることなんて、何もないんだ。
そう言って微笑みながら颯太くん見ると、颯太くんは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。
そう言った颯太くんに、ふふっと笑いが溢れる。
するとそこで入口の扉が開き、幹部の4人が入ってきた。
北人くんが、私と颯太くんを見てそう言って、壱馬くんが北人くんの頭を軽く小突く。
え、ほんと?
壱馬くんの顔を見ると、そっぽを向いた彼に「見るな」なんて言われてしまった。
壱馬くんがテレビゲームの画面を見てそう言って、颯太くんが頷く。
私だって何回かプレイしたら上手になるはずだよ!
くしゃっと私の髪をなでて、微笑みながらそう言った壱馬くんに、北人くんと樹くんと颯太くんはため息をついた。
ん?『良くない』って、なんのことだろう?
首を傾げていると、壱馬くんがコントローラーを手に取った。
そうして始まったゲームは壱馬くんが圧勝して、幹部部屋には賑やかな声が響き渡る。
未来のことを怖がるより、今を精一杯楽しもう。
今しか味わえない気持ちが、きっとあるはずだから。
私は笑い声を上げながら、みんなの楽しそうな表情を目に焼き付けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。