第52話

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2021/01/28 08:37
それから数日経って、相変わらず竜龍のたまり場で楽しい日々を送っている。



でも時々ふと、もうすぐこの場所にいられなくなることを考えてしまって、なんだか寂しい気持ちになってしまう。



今日はみんな用事があるらしく、今、この幹部の部屋にいるのは颯太くんと私だけで、颯太くんが新しく買ったバトルゲームで対戦中。
中島颯太
中島颯太
あなた、最近元気ないな
颯太くんにそう言われて、次の瞬間、私のキャラクターが倒れた。



小さくため息をついて、口を開く。
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん……。あの、もうすぐ壱馬くんの誕生日でしょ?
中島颯太
中島颯太
あー、プレゼント決まらないー!的なやつか。ったく、惚気んなよな〜
白濱(なまえ)
白濱あなた
そ、そんなんじゃないよ!
うんざりしたような顔でコントローラーを操作する颯太くんに慌ててそう言う。
中島颯太
中島颯太
じゃあなんやねん
白濱(なまえ)
白濱あなた
えっと、その……
言いかけてからふと思う。



もうすぐ竜龍での日々が終わることが悲しい、なんて、私が言っていいのかな?



みんな、心のよりどころである竜龍から旅立とうとしてるって言うのに。



そもそも颯太くんは、私が言わなくても本当は分かってるんじゃないの?
白濱(なまえ)
白濱あなた
……颯太くんは、不安とか感じてない?
中島颯太
中島颯太
不安?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん。竜龍を卒業することに対する不安
私がそう言うと、颯太くんは手を止めた。



あ、もしかしてまずいこと言っちゃったかな……。
中島颯太
中島颯太
そっか、壱馬の誕生日に俺ら卒業するんやもんな
ポツリと呟くようにそう言った颯太くんを見つめていると、彼は少しの間考えてから口を開いた。
中島颯太
中島颯太
……不安は、あるな
え?
中島颯太
中島颯太
ってか、不安しかないよ。だって今まで毎日ここに来てたんやで?信頼できる仲間もいるし、完全に安全地帯やろ
あ、安全地帯……。



たしかにそうかも。



ここではみんなが仲間で、みんなで助け合って、お互いに高めあってるもんね。



敵なんかいないし、みんなが仲良くてすごく居心地がいい。
中島颯太
中島颯太
けどまあ、いつまでもここにすがってるわけにもいかへんやん?中学とか高校だって、いくら楽しくでも卒業するし。この場所もそれと変わらんよ
颯太くんはそう言ってニッと笑う。
中島颯太
中島颯太
それに、竜龍を卒業したって、みんなが仲間やってことに変わりはないやろ?
その言葉にハッとさせられる、



あ……そっか。



私はきっと竜龍を卒業してみんなと疎遠になるのが怖いんだ。



このたまり場という場所での繋がりをなくしたら、もう合わなくなるんじゃないか。



もう笑いあったりしなくなるんじゃないかって。



でも、そんなことあるはずないんだよね。



ここで築いた絆は固くて、そう簡単に無くなるものじゃない。



恐れることなんて、何もないんだ。
白濱(なまえ)
白濱あなた
……ありがと、颯太くん
そう言って微笑みながら颯太くん見ると、颯太くんは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。
中島颯太
中島颯太
べつに、特別なことは何も言ってへんよ
白濱(なまえ)
白濱あなた
そう?珍しくいいこと言ってたと思うよ?
中島颯太
中島颯太
珍しいってなんや、いつもやろ!
そう言った颯太くんに、ふふっと笑いが溢れる。



するとそこで入口の扉が開き、幹部の4人が入ってきた。
吉野北人
吉野北人
え、もしかしてこれ修羅場っちゃうやつ?
北人くんが、私と颯太くんを見てそう言って、壱馬くんが北人くんの頭を軽く小突く。
川村壱馬
川村壱馬
いちいち修羅場になんかならねぇよ
吉野北人
吉野北人
えー?でも前に僕とあなたちゃんがふたりで話してたらすっごい睨んでたでしょ。ってか、今も眉間にシワよってるし
え、ほんと?



壱馬くんの顔を見ると、そっぽを向いた彼に「見るな」なんて言われてしまった。
川村壱馬
川村壱馬
あ、それ新しいやつか
壱馬くんがテレビゲームの画面を見てそう言って、颯太くんが頷く。
中島颯太
中島颯太
そー。あなたのヤツめっちゃ弱いねんで
白濱(なまえ)
白濱あなた
そ、そんなことない!
私だって何回かプレイしたら上手になるはずだよ!
川村壱馬
川村壱馬
へー、なら敵討ちとするか
くしゃっと私の髪をなでて、微笑みながらそう言った壱馬くんに、北人くんと樹くんと颯太くんはため息をついた。
吉野北人
吉野北人
なんか、そういうの良くないよね
藤原樹
藤原樹
……良くない
中島颯太
中島颯太
やなー
ん?『良くない』って、なんのことだろう?



首を傾げていると、壱馬くんがコントローラーを手に取った。
川村壱馬
川村壱馬
ほら、始めんぞ
白濱(なまえ)
白濱あなた
はいはーい
そうして始まったゲームは壱馬くんが圧勝して、幹部部屋には賑やかな声が響き渡る。



未来のことを怖がるより、今を精一杯楽しもう。



今しか味わえない気持ちが、きっとあるはずだから。



私は笑い声を上げながら、みんなの楽しそうな表情を目に焼き付けた。

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