第62話

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2021/02/07 07:10
【あなたside】



白濱(なまえ)
白濱あなた
落ち着いた?
ティーワゴンを押しながら部屋に入り、ソファでじっと携帯を見つめている美樹を見る。
佐藤美樹
佐藤美樹
……うん、ちょっと落ち着いたと思う
白濱(なまえ)
白濱あなた
そっか、よかった
あの剣幕のままだったら、いつか爆発しそうな勢いだったもんね……。
佐藤美樹
佐藤美樹
今最高に幸せなあなたに、こんな相談持ちかけちゃってごめんね
白濱(なまえ)
白濱あなた
いいよ、そんなの。ちょっとくらい心配事でもないと空に飛んでいきそうだもん
佐藤美樹
佐藤美樹
あ〜あ、惚気られた
クスッと笑った美樹に、私も微笑み返してティーカップを渡す。
佐藤美樹
佐藤美樹
あなたはまったく不安になんかならなさそうだよね
白濱(なまえ)
白濱あなた
うーん、今はそうかも……
考えてみたら、高校の時は美紅ちゃんに嫉妬したり樹くんのことがあったりしたけれど、あとはこれといった不安はなかった気がする。



もちろん、壱馬くんってすごくかっこいいから、女の子たちがよってきたりして焦る時もあるけど、その度に不安を取り除いてくれたし……。
佐藤美樹
佐藤美樹
思うんだ、心配とか不安になっちゃってるっていうのは信頼がないからじゃないかって
美樹がそう言ってカップを見つめるけど。
白濱(なまえ)
白濱あなた
そんなことないよ、誰だって不安になるし、時には疑うよ
佐藤美樹
佐藤美樹
……そう?
白濱(なまえ)
白濱あなた
もちろんだよ!私だって壱馬くんと話す女の子に嫉妬するし、ちょっと不安になるもん
前だって、壱馬くんのお父様のすっごく美人な秘書さんが壱馬くんを迎えに来た時、つい袖引っ張っちゃったくらいで……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
好きだから、不安になるんだよ
自分で言ってから、かあっと顔が火照っていく。



わ、私今すごく恥ずかしいこと言っちゃった気がする!
佐藤美樹
佐藤美樹
ふふっ、真っ赤になっちゃって
白濱(なまえ)
白濱あなた
な、なってないよ!
思わずそう言ったけど、美樹は笑ったまま。



うう……。
佐藤美樹
佐藤美樹
……でも、そっか。そうだよね。やっぱり好きなんだよね……
遠い目をしてそう言った美樹の横顔がすごく綺麗で思わずハッとさせられる。
佐藤美樹
佐藤美樹
……けど
美樹の声のトーンが下がり、思わず肩をびくり。



こ、これは美樹がマックスで怒ってる時の声じゃ……。
佐藤美樹
佐藤美樹
かわいさ余って憎さ百倍!絶対許さない!
や、やっぱり……!



こうなったらしばらくしないと落ち着かないもんね。



1回落ち着いたとおもったのになあ……。
佐藤美樹
佐藤美樹
もうムカムカしてきた!今すぐ直談判したい!
さっきうちに来た時よりはマシ、かな?
佐藤美樹
佐藤美樹
ほんっと、浮気だとしたらどんな相手なのよ、私以上の人ってどんな人なの!?
す、すごい自信をお持ちで……



まあそこが美樹のいいところだけど。



その後も、とにかく怒りまくる美樹をどう諌めようか、あわあわしているよと。



__バーン!
堀夏喜
堀夏喜
美樹!
ノックなしで部屋に飛び込んできた人物が。
白濱(なまえ)
白濱あなた
な、夏喜くん?
そう、夏喜くん。



珍しくというか、見たことないほど焦った様子で肩で息をして、いつも綺麗にセットされている髪も少しみだれている。
佐藤美樹
佐藤美樹
……なんの用よ
美樹が冷たい声を出す。
佐藤美樹
佐藤美樹
私知ってるんだから。今日仕事じゃなかったんでしょ?
私とのデートすっぽかして、アクセサリーなんか見に行ったって聞いたわ
こ、怖い、怖すぎる……!
堀夏喜
堀夏喜
美樹、ごめん。嘘ついたのは謝るよ
佐藤美樹
佐藤美樹
……っ……嘘ついただけじゃないんでしょ
わずかに美樹の顔が歪んで、必死に涙を堪えているように見える。
佐藤美樹
佐藤美樹
浮気するくらいなら別れてよ。惨めな思いするなんて耐えられない。私が、どんな気持ちでっ……
ついに涙をこぼした美樹に、私はどう立ち回ろうかおろおろするばかり。



ど、どうしよう、ティッシュとか渡した方がいいんだろうけど、今動いたらなんかダメな気がするし……。



若干パニックになって夏喜くんを見ると、
堀夏喜
堀夏喜
……美樹
美樹の元に歩み寄り、そっと涙をすくい上げる。
堀夏喜
堀夏喜
……不安にさせてごめん
佐藤美樹
佐藤美樹
っ……もうなにも聞きたくない。
帰ってよ
そう言って夏喜くんの手を払う美樹に、夏喜くんが意を決したような顔をした。
堀夏喜
堀夏喜
美樹、俺は浮気なんかしてない
佐藤美樹
佐藤美樹
だったらなんで嘘ついたの。アクセサリーだって見に行く必要なかったでしょ?
堀夏喜
堀夏喜
……あったよ。美樹に、これ渡すために
そう言った夏喜くんに初めて目をうつした美樹が見たものは。
佐藤美樹
佐藤美樹
指……輪……?
中心にダイヤモンドがキラキラと輝いている指輪。
堀夏喜
堀夏喜
……美樹、俺は誰よりも美樹を愛してる。その笑顔を守るのも、涙を拭うのも、全部俺の役目だと思ってる
じわり、と美樹の目にさっきとは違う涙が浮かんだ。
堀夏喜
堀夏喜
不安にさせて、泣かせたあとでこんなこと言うのはなんだけど、その不安を拭うためにも言わせて欲しい
そう言うと夏喜くんは美樹の目を真っ直ぐ見て言った。
堀夏喜
堀夏喜
俺と、結婚してください
その言葉を聞いて、綺麗な涙が美樹の頬を濡らす。
佐藤美樹
佐藤美樹
っ……ばか
堀夏喜
堀夏喜
……うん、ごめん
佐藤美樹
佐藤美樹
ばかっ……
美樹はもう一度そう言うと、夏喜くんの肩にそっと顔を埋めた。
佐藤美樹
佐藤美樹
……愛してる
夏喜くん、やっぱり浮気じゃなかったんだ。



美樹の言葉を聞いて、私はスっと扉に手をかけて部屋を出て行った。

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