【あなたside】
ティーワゴンを押しながら部屋に入り、ソファでじっと携帯を見つめている美樹を見る。
あの剣幕のままだったら、いつか爆発しそうな勢いだったもんね……。
クスッと笑った美樹に、私も微笑み返してティーカップを渡す。
考えてみたら、高校の時は美紅ちゃんに嫉妬したり樹くんのことがあったりしたけれど、あとはこれといった不安はなかった気がする。
もちろん、壱馬くんってすごくかっこいいから、女の子たちがよってきたりして焦る時もあるけど、その度に不安を取り除いてくれたし……。
美樹がそう言ってカップを見つめるけど。
前だって、壱馬くんのお父様のすっごく美人な秘書さんが壱馬くんを迎えに来た時、つい袖引っ張っちゃったくらいで……。
自分で言ってから、かあっと顔が火照っていく。
わ、私今すごく恥ずかしいこと言っちゃった気がする!
思わずそう言ったけど、美樹は笑ったまま。
うう……。
遠い目をしてそう言った美樹の横顔がすごく綺麗で思わずハッとさせられる。
美樹の声のトーンが下がり、思わず肩をびくり。
こ、これは美樹がマックスで怒ってる時の声じゃ……。
や、やっぱり……!
こうなったらしばらくしないと落ち着かないもんね。
1回落ち着いたとおもったのになあ……。
さっきうちに来た時よりはマシ、かな?
す、すごい自信をお持ちで……
まあそこが美樹のいいところだけど。
その後も、とにかく怒りまくる美樹をどう諌めようか、あわあわしているよと。
__バーン!
ノックなしで部屋に飛び込んできた人物が。
そう、夏喜くん。
珍しくというか、見たことないほど焦った様子で肩で息をして、いつも綺麗にセットされている髪も少しみだれている。
美樹が冷たい声を出す。
こ、怖い、怖すぎる……!
わずかに美樹の顔が歪んで、必死に涙を堪えているように見える。
ついに涙をこぼした美樹に、私はどう立ち回ろうかおろおろするばかり。
ど、どうしよう、ティッシュとか渡した方がいいんだろうけど、今動いたらなんかダメな気がするし……。
若干パニックになって夏喜くんを見ると、
美樹の元に歩み寄り、そっと涙をすくい上げる。
そう言って夏喜くんの手を払う美樹に、夏喜くんが意を決したような顔をした。
そう言った夏喜くんに初めて目をうつした美樹が見たものは。
中心にダイヤモンドがキラキラと輝いている指輪。
じわり、と美樹の目にさっきとは違う涙が浮かんだ。
そう言うと夏喜くんは美樹の目を真っ直ぐ見て言った。
その言葉を聞いて、綺麗な涙が美樹の頬を濡らす。
美樹はもう一度そう言うと、夏喜くんの肩にそっと顔を埋めた。
夏喜くん、やっぱり浮気じゃなかったんだ。
美樹の言葉を聞いて、私はスっと扉に手をかけて部屋を出て行った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。