第56話

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2021/02/01 08:14
その日の放課後。
五十嵐亮太
佐藤、いるかな?
教室がザワっとして、いっせいにみんなが私を見る。



聞き覚えのある声にゆっくりと入口を見ると。
佐藤美樹
佐藤美樹
先輩……
五十嵐亮太
今ちょっといい?
みんなの視線を感じながらゆっくりと頷くと、あなたが少し心配そうな目を送る。
佐藤美樹
佐藤美樹
じゃあ、バイバイ
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん……
そう言ったあなたに微笑んで、貼り付けたような笑みを浮かべた先輩について行った。



中庭に到着して、先輩が足を止める。
五十嵐亮太
あのさ、佐藤とは仲がいい方だと思ってるし、すごくいい子だと思ってる。それに気が合うと思うんだ。だから、付き合わないかな?
そう言って私を見る先輩。



『そろそろ告白かな?』なんて言ってたもんね。
佐藤美樹
佐藤美樹
先輩、昨日私、先輩がご友人と話してるのを偶然聞いてしまったんですけど
思い切ってそう言うと、先輩の顔がみるみる青ざめていく。



ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ。
佐藤美樹
佐藤美樹
私、先輩に憧れてました。かっこいいと思ってました。でもあれは全部、私を落とすためだったんですね
言いながら、またもや涙が溢れそうになったけどグッとこらえる。
五十嵐亮太
い、いや、昨日のはさ、みんなでふざけてたんだよ
……はい?
佐藤美樹
佐藤美樹
ふざけてたって……
五十嵐亮太
やっぱり照れくさいじゃん?好きな女の子のこと友達に話すとかさ
そう言って頭の後ろをわざとらしくかく先輩。



何言ってんの、この人。



こんなことで、私の事騙せるとか思ってるわけ?



たしかに昨日までは完全に騙されてたけど、私だってそこまでバカじゃない。
五十嵐亮太
ね、佐藤。俺ほんとに君のこと好きだよ
……嘘ばっかり。
佐藤美樹
佐藤美樹
先輩とは付き合えません
はっきりそう言って先輩を見る。



あんなこと言われた今、正直顔を合わせるのだっていやなくらいだよ。



そう思っていると、
五十嵐亮太
……めんどくせぇな、簡単に落ちるかと思ったのによ
「はあ……」と大きくため息までついて、そんなことを言った先輩。
五十嵐亮太
なんでそっちから断るかな?ねえ?
そこに、いつも優しくしてくれた先輩の面影はなくて。



悔しさに、悲しさに負けないようにぎゅっと唇を噛む。
五十嵐亮太
俺だって本当は白濱を狙いたかったし。かわいーし、素直そーだし?なのにあの子、パーティーこねぇし、川村と付き合うし、しょうがなくお前にしたのにさ
なにっ、それ……。



怒りでカッとなったあまり、目頭まで熱くなる。



泣きたくない。こんなしょうもないことで。



こんな人のために泣くなんてもったいない。



泣いてやるもんか。



必死で唇を噛んでいると。
堀夏喜
堀夏喜
……佐藤
澄んだ声。



その声に、なにか引き寄せられるようにそっちを向くと。
佐藤美樹
佐藤美樹
堀、くん……?
そこに立っていたのは堀くんだった。
堀夏喜
堀夏喜
先輩、彼女と話があるんですけど、いいですか?
五十嵐亮太
え?い、いいけど……
戸惑ったようにそう言った先輩に、堀くんは微笑む。
堀夏喜
堀夏喜
ありがとうございます。じゃあ行こうか、佐藤
佐藤美樹
佐藤美樹
えっ、ちょっ……!
有無を言わさずに私の手を引く堀くんに、なぜか一瞬胸がドキンっと音を立てた。



なに……?今の感じは……。
堀夏喜
堀夏喜
あ、そうだ先輩
堀くんがふと足を止めて振り返る。
堀夏喜
堀夏喜
あなたのこと狙ってたとか何とか言ってましたけど、全部壱馬に伝えときますね
五十嵐亮太
はあ!?
堀くんの言葉に、さすがに焦り出す先輩。



なにしろ川村くんって学校一の人気者だし。



もし睨まれたら女子はおろか、男子にも見向きもされなくなりそうだもんね……。
五十嵐亮太
ま、待てよ、なんで俺が川村に目ぇつけられないといけねぇんだよ!
堀夏喜
堀夏喜
……は?
低い声に思わず私までびくりとする。
堀夏喜
堀夏喜
それくらい当たり前でしょう。ひとりの女の子をたぶらかして、心を傷つけたんだから
そう言って先輩を睨む堀くん。
堀夏喜
堀夏喜
お望みなら俺が社会的に抹殺して差し上げますけど。ああ、俺がそんなことしなくても佐藤の家がしてくれそうですね
五十嵐亮太
っ……調子乗りやがって、許さねえからな!
先輩はそう言うと、呼び止める間もなく去っていった。

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