いじめ問題から少し経ち、今ではすっかりいつも通りの日常。
結局あの子たちは先生たちにこってりと絞られたあと、反省文を書かされたり、スクールカウンセリングを受けたりと、学校側もそれなりの対応策をとってくれているらしい。
そんな日々の中、私は今日もたまり場に向かう。
けど……。
壱馬くんはイヤそうな顔をして声の主、美紅ちゃんを見る。
壱馬くんが美紅ちゃんと話すたびに胸がチクッと痛む。
パパから、壱馬くん同伴の迎えがあればたまり場に行っていいという許可が出て、最近は金曜日以外の日もたまり場に行っている。
そして、なぜか美紅ちゃんも。
美紅ちゃんがいるのはべつにいいんだけど、美紅ちゃんの私に対する刺すような視線が痛い。
そう言って声をかけてくれたのは樹くん。
そう言って差し出したのは、すごくレアな外国の本!!
ファンタジーもので、文章もさながら表紙もすっごく綺麗で、ずっと読みたかったんだよね!
私は樹くんに微笑みかけた。
途端に顔を赤くして背ける樹くん。
ほんと、クールだなあ。
あ〜、あのファンタジーね!
__私は、こっちをじっと見ている壱馬くんには気づかなかった。
【壱馬side】
イライラする。その理由は……
樹に微笑みかけてるアイツ。
樹のやつ、何顔赤くしてんだ。
樹くん、樹くん、樹くん。
綺麗な高い声で呼ばれるのはその名前ばかり。
あいつが他のやつの名前を呼んでるのが……なんか、すげぇイヤだ。
そう言ってすりよってくる、北人の幼なじみの美紅。
面倒だな……。
ただでさえイラついてるってのに……。
俺はフッと顔をそらした。
これ以上見ていたくない。
あと、こいつとも一緒にいたくない。
ベタベタベタベタ……。
彼女かなにかと勘違いしてるんじゃないのか。
こういうのが1番面倒なタイプだ。
俺は美紅から離れて颯太に声をかける。
あなた……颯太がそう呼ぶのにも反応してしまう。
べつに俺もそう呼ぶし、他のやつらだって初めからそう呼んでたのに。
なぜか最近は、そんな小さなところが気になって仕方がない。
あなたはそう言うと、笑顔で俺の横に座った。
それだけでバクバク心臓がなって落ち着かない。
すると案の定……。
俺とあなたの間に割ってはいるように座った美紅。
彼女ヅラに加えてお嬢様ヅラまでしやがって。
いったいなんなんだ?
こいつのあなたに対する敵意というか、完全無視は。
せっかくあなたが親切に教えようとしてるってのに。
そう言って俺にもたれかかってくる。
はぁ……いい加減にして欲しい。
颯太がそう言ったけど、あなたは何も答えずに立ち上がって部屋を出ていった。
そう言って美紅を睨むと、素知らぬ顔をされる。
美紅の言葉に颯太がコントローラーを置いた。
そう言って美紅を見る颯太の目はいつもとは違う鋭い目をしていた。
颯太と美紅が言い合い、樹まで参戦し始めた時、俺は1人立ち上がった。
颯太のどこか探るような視線には気付かないふりをして、俺はあなたを追って外に出た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。