第11話

金曜日の放課後に
5,037
2020/12/18 09:56
それから金曜日は私のとって、すごく待ち遠しい日になって……。



今日はやっと、その金曜日。



北人くんに『古書店に行きたい』とメールを打つと、すぐに返事が帰ってきて『僕が行く』とのこと。



おとなしく校門で待ってると、前と同じ黒い車がキッと止まった。
吉野北人
吉野北人
あなたちゃんっ、1週間ぶり!乗って!
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、わがまま言ってごめんね?
吉野北人
吉野北人
いいからいいから
吉野北人
吉野北人
今日はみんなたまり場にいるよ。古書店の後、行く?
白濱(なまえ)
白濱あなた
行く!すごく行きたい!
吉野北人
吉野北人
うんっ!みんなも待ってるよ
そう言って、北人くんがにっこり微笑む。
吉野北人
吉野北人
あ、着いたよ。行こうか
私も車を降りて、古書店に入る。



伯父さん(竜也)
あなたちゃん!また来てくれたんだね。先週は寂しかったぞ〜?
白濱(なまえ)
白濱あなた
伯父さん!ごめんなさい、いろいろあって……
伯父さんと話をしていたら、北人くんが不思議そうな顔をしているのに気づいた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
北人くんっ、この人私の伯父さんなの!
すると、大きな目を見開く北人くん。
吉野北人
吉野北人
え!?竜也さんが!?すごっ!すごすぎ!
白濱(なまえ)
白濱あなた
ん?伯父さん、偉い人なの?
そう聞いてみると、ははっと笑う伯父さん。
伯父さん(竜也)
いやいや、まぁねぇ。これでも元総長だよ
白濱(なまえ)
白濱あなた
……えぇぇぇぇぇえええ!!
思い切り叫んでしまった私。



だ、だって、伯父さんが総長!?



パパのお兄ちゃんが総長で、私のお兄ちゃんも総長!?



どんな家系よ……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
すごい……うわぁ……伯父さんが……
ショックを受けながらも、気になっていた本が目に入り、数冊を手に取る。
白濱(なまえ)
白濱あなた
じゃあこれで……
伯父さん(竜也)
あなたちゃん、ほんとよく読むねぇ……。そういや、君のパパも昔から好きだったなぁ……
へぇ……パパも……。
伯父さん(竜也)
本好きな家系かな?
いえいえ暴走族の家系ですよ……。



そんなツッコミを心の中で入れていると、伯父さんは微笑みながら私に本を渡した。
白濱(なまえ)
白濱あなた
じゃあまた!
私たちはそう言って店をあとにした。
吉野北人
吉野北人
すごいね……あなたちゃんって、家系に総長がふたりいるってことでしょ?
白濱(なまえ)
白濱あなた
まぁ……そうなるのかな……。そんなことより、早く行こう!早くみんなに会いたいよ〜
吉野北人
吉野北人
まだ1回しか会ってないのに、そんなふうに言ってもらえてうれしいよ
北人くんはそう言って車に乗り込む。



私も続いて乗り込み、たまり場へと向かった。


吉野北人
吉野北人
着いたよ
北人くんの言葉を聞いて、車をおりる私。



ううっ、やっぱりちょっと怖い……。
吉野北人
吉野北人
怖いよね、ごめん。おーい!みんな!威嚇するな!彼女は……亜嵐さんの妹だ!!
すると、ざわざわしていたのがピタッと止んだ。




「「「「失礼しやした!」」」」




と言って、いっせいに頭を下げるみんな。
吉野北人
吉野北人
行こうか。みんなのことは無視していいよ。怖いでしょ?
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ……うん……
北人くんの後ろを着いていく私。



みんなの視線が痛い……。
吉野北人
吉野北人
見るなって!
北人くんの言葉にみんな私から視線を逸らす。



北人くん、なんだかすごい威圧感。



副総長って感じしてきた!



階段をのぼってドアを開けると、やはり豪華な部屋。
吉野北人
吉野北人
どうぞ
白濱(なまえ)
白濱あなた
ありがと
中島颯太
中島颯太
おーあなた!1週間ぶりやな!ゲームしよー!
真っ先に声をかけてきたのは颯太くん。
白濱(なまえ)
白濱あなた
うんっ!あ、みんなも1週間ぶりだね!突然お邪魔してごめんなさい
堀夏喜
堀夏喜
いいえ。いつでも大歓迎だよ
私は微笑んで颯太くんの隣に座った。
中島颯太
中島颯太
よっしゃー!やるぞぉー!壱馬、お前も参戦しろ!
川村壱馬
川村壱馬
わかったわかった。負けてもぎゃーぎゃー言うなよ
中島颯太
中島颯太
い、言わんわ!まず負けへん!
藤原樹
藤原樹
……颯太、うるさい
樹くんの言葉によってすぐに静かになった颯太くん。



私は思わずクスッと笑って、
白濱(なまえ)
白濱あなた
じゃあ始めよっか
そう言ってコントローラーを手に取った。



対戦すること30分。
白濱(なまえ)
白濱あなた
う……
油断したっ!
中島颯太
中島颯太
どーやぁー!!あなたに負けへんために特訓した成果や!!
白濱(なまえ)
白濱あなた
特訓なんてしたの!?
ゲームの特訓って、ある意味すごい。



私は一発でアウト。



こうなったら……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬くん!!頑張って!颯太くんなんかに負けちゃダメ!!
中島颯太
中島颯太
ちょ、『颯太くんなんか』ってなんや!
川村壱馬
川村壱馬
そうだな、負けてられねぇ……
吉野北人
吉野北人
壱馬!お前が本気出したらマジで無敵だっ!
北人くんはクスクス笑ってる。



部屋を見回すと、夏喜くんはパソコンとにらめっこしてて、樹くんは読書。



ふたりとも、自由だなあ……。
中島颯太
中島颯太
負けたぁーーー!!!
川村壱馬
川村壱馬
ざまあみろ
颯太くんはがっくりとうなだれ、壱馬くんは笑っている。



____ドキッ……。



まただ……。



これって、もしかしてギャップってやつなのかな?



総長なんていう肩書きを持っていて、困った時は助けてくれるのに、ゲームに勝って素直に喜ぶなんて。



少しだけ子供みたいな一面に、なんだかキュンとさせられる。



それに壱馬くんの笑顔を見てると、もっと見ていたいって思うんだよね……。
中島颯太
中島颯太
ヤバっ、夏喜!時間!
颯太くんの言葉を聞いて、夏喜くんが時計に目をやる。



また下でケンカの練習かな?
堀夏喜
堀夏喜
もうこんな時間か……。行こう。じゃあまたね、あなた。今度もっと話そう
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、うん!ぜひ!
中島颯太
中島颯太
あなた!今度までにゲーム鍛えとけ!
白濱(なまえ)
白濱あなた
はいはい。じゃあね!
バタンと扉が閉まった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
すごいね……
吉野北人
吉野北人
まあ、これでも暴走族だからね。俺たちは無駄な縄張り争いはしないけど、いざ仲間を守らなきゃいけなくなった時のために、ケンカに備えておかないといけないから
白濱(なまえ)
白濱あなた
へぇ……
そっか、ときどき忘れそうになるけど、みんな暴走族の一員なんだもんね。



ケンカだってかなり強いんだろうなぁ……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
幹部の中で1番ケンカが強いのって誰なの?
吉野北人
吉野北人
そりゃあやっぱり壱馬でしょ。なにしろ総長だし
川村壱馬
川村壱馬
そうか?お前も相当だろ
壱馬くんがそう言うと、樹くんが本から顔を上げる。
藤原樹
藤原樹
北人はギャップがやばい……
川村壱馬
川村壱馬
ああ、たしかに。突然鬼みたいになるもんな
そ、そうなんだ……。



しゃべりながらふと時計を見ると、いつの間にか4時半になってた。
川村壱馬
川村壱馬
そろそろあなたも帰さなきゃな。北人、車
吉野北人
吉野北人
はーい
北人くんはそう返事をして部屋を出ていき、私も帰りの用意をする。



そして準備が整った頃、扉が開き、北人くんが困ったような表情を浮かべて入ってきた。
川村壱馬
川村壱馬
どうした?
吉野北人
吉野北人
車、調子悪いらしい……。仕方ないからバイクでもいい?
ば、バイク……ちょっと怖いけど乗ってみたいかも。
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、いいよ。ごめんね
吉野北人
吉野北人
いや、全然いいけど……。樹、送ってあげてよ。僕たち用事あるし、運転雑だから
北人くんがそう言って樹くんを見る。



え……。いいのかな?



女嫌いなのに……。



樹くんは私をじーっと見てから口を開く。
藤原樹
藤原樹
……いいけど
いいんだ!?
吉野北人
吉野北人
よかった。じゃああなたちゃん家の住所メッセージ送るから頼んだ!あなたちゃん、また来週も来る?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん!来ると思うっ
吉野北人
吉野北人
そっか!
北人くんは嬉しそうにニコッと笑った。
藤原樹
藤原樹
……行こ
樹くんはそう言ってスタスタと行ってしまう。
白濱(なまえ)
白濱あなた
じゃ、じゃあまた来週!今日は楽しかった!ありがとう!
早口でそう言うと部屋を出て、樹くんに追いつくために早足で歩いた。



バイクが置いてあるところに着くと、樹くんはチャリっと鍵を取り出した。
藤原樹
藤原樹
……バイクの乗り方知ってる?
そう聞いてきた樹くんに私が首をふると、ため息をつき、私を抱き上げて後部座席に乗せてくれた。



手はちょっとふるえていたけど……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ありがとう
私がそう言うと、樹くんはチラッと視線を送ってバイクに乗った。



エンジン音がすごい中、樹くんが私の方を振り返ってひとこと。
藤原樹
藤原樹
……つかまらないと危ない
え、ええと、バイクに乗ったら普通どこにつかまるのかな?



私が戸惑っていると、樹くんはまたため息をついて「仕方ないよな……」と呟き、続けてこう言った。
藤原樹
藤原樹
……俺につかまって
それって腰に手を回せってこと?



大丈夫なのかな?



そう思いながら、恐る恐る樹くんの腰に手を回す。



樹くんは一瞬ビクッとしたけど、エンジン音を響かせてバイクを発進させた。



__す、すごい!



風を切っていく感じ。



ちょっと怖いけど……同時に快感。



樹くんは安全運転でそんなにスピードを出さないし、なんだか安心感がわく。



でもこんなとこ、家の誰かに見られたらたぶん、私の人生は終わるんだろうな。



こっぴどく叱られて、金土日のフリータイムはチャラ。



まあ、ヘルメットかぶってるし絶対に見つからないはずだけど!



それにしても樹くん、よく耐えてくれてるよね……。



女嫌いなのに私ったら腰に手を回してるんだし……絶対イヤだよね……。



しばらくして、私用の別宅の前に到着。



樹くんは『ふうん……』というふうに家を眺めてる。
藤原樹
藤原樹
……ほんとに普通の家だな
白濱(なまえ)
白濱あなた
そうしてって言ったからね……
私はヘルメットを取って樹くんに渡した。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ありがとう。すごい快感だったよ。ごめんね、女嫌いなのに
藤原樹
藤原樹
べつに……
白濱(なまえ)
白濱あなた
じゃあまた。ほんとにありがとう!
私はそう言って樹くんに微笑みかけ、バイクを見送る。



すごいなあ……。



風のような速さで去っていく樹くんを見て、つい感心してしまう。



自分には一生縁がないと思ってたけど、乗ってみることができてよかったな。



なんだか、竜龍のみんなに会えてから初めての経験だとか、新しく知ったことがいっぱいある。



それに、一気に世界が色付いたというか……。



家に入りながら、つい微笑んでしまう。



来週も、楽しみだな……。



今まで以上に金曜日を心待ちにしている自分に、少しくすぐったいような、そんな気分になった。

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