それから金曜日は私のとって、すごく待ち遠しい日になって……。
今日はやっと、その金曜日。
北人くんに『古書店に行きたい』とメールを打つと、すぐに返事が帰ってきて『僕が行く』とのこと。
おとなしく校門で待ってると、前と同じ黒い車がキッと止まった。
そう言って、北人くんがにっこり微笑む。
私も車を降りて、古書店に入る。
伯父さんと話をしていたら、北人くんが不思議そうな顔をしているのに気づいた。
すると、大きな目を見開く北人くん。
そう聞いてみると、ははっと笑う伯父さん。
思い切り叫んでしまった私。
だ、だって、伯父さんが総長!?
パパのお兄ちゃんが総長で、私のお兄ちゃんも総長!?
どんな家系よ……。
ショックを受けながらも、気になっていた本が目に入り、数冊を手に取る。
へぇ……パパも……。
いえいえ暴走族の家系ですよ……。
そんなツッコミを心の中で入れていると、伯父さんは微笑みながら私に本を渡した。
私たちはそう言って店をあとにした。
北人くんはそう言って車に乗り込む。
私も続いて乗り込み、たまり場へと向かった。
北人くんの言葉を聞いて、車をおりる私。
ううっ、やっぱりちょっと怖い……。
すると、ざわざわしていたのがピタッと止んだ。
「「「「失礼しやした!」」」」
と言って、いっせいに頭を下げるみんな。
北人くんの後ろを着いていく私。
みんなの視線が痛い……。
北人くんの言葉にみんな私から視線を逸らす。
北人くん、なんだかすごい威圧感。
副総長って感じしてきた!
階段をのぼってドアを開けると、やはり豪華な部屋。
真っ先に声をかけてきたのは颯太くん。
私は微笑んで颯太くんの隣に座った。
樹くんの言葉によってすぐに静かになった颯太くん。
私は思わずクスッと笑って、
そう言ってコントローラーを手に取った。
対戦すること30分。
油断したっ!
ゲームの特訓って、ある意味すごい。
私は一発でアウト。
こうなったら……。
北人くんはクスクス笑ってる。
部屋を見回すと、夏喜くんはパソコンとにらめっこしてて、樹くんは読書。
ふたりとも、自由だなあ……。
颯太くんはがっくりとうなだれ、壱馬くんは笑っている。
____ドキッ……。
まただ……。
これって、もしかしてギャップってやつなのかな?
総長なんていう肩書きを持っていて、困った時は助けてくれるのに、ゲームに勝って素直に喜ぶなんて。
少しだけ子供みたいな一面に、なんだかキュンとさせられる。
それに壱馬くんの笑顔を見てると、もっと見ていたいって思うんだよね……。
颯太くんの言葉を聞いて、夏喜くんが時計に目をやる。
また下でケンカの練習かな?
バタンと扉が閉まった。
そっか、ときどき忘れそうになるけど、みんな暴走族の一員なんだもんね。
ケンカだってかなり強いんだろうなぁ……。
壱馬くんがそう言うと、樹くんが本から顔を上げる。
そ、そうなんだ……。
しゃべりながらふと時計を見ると、いつの間にか4時半になってた。
北人くんはそう返事をして部屋を出ていき、私も帰りの用意をする。
そして準備が整った頃、扉が開き、北人くんが困ったような表情を浮かべて入ってきた。
ば、バイク……ちょっと怖いけど乗ってみたいかも。
北人くんがそう言って樹くんを見る。
え……。いいのかな?
女嫌いなのに……。
樹くんは私をじーっと見てから口を開く。
いいんだ!?
北人くんは嬉しそうにニコッと笑った。
樹くんはそう言ってスタスタと行ってしまう。
早口でそう言うと部屋を出て、樹くんに追いつくために早足で歩いた。
バイクが置いてあるところに着くと、樹くんはチャリっと鍵を取り出した。
そう聞いてきた樹くんに私が首をふると、ため息をつき、私を抱き上げて後部座席に乗せてくれた。
手はちょっとふるえていたけど……。
私がそう言うと、樹くんはチラッと視線を送ってバイクに乗った。
エンジン音がすごい中、樹くんが私の方を振り返ってひとこと。
え、ええと、バイクに乗ったら普通どこにつかまるのかな?
私が戸惑っていると、樹くんはまたため息をついて「仕方ないよな……」と呟き、続けてこう言った。
それって腰に手を回せってこと?
大丈夫なのかな?
そう思いながら、恐る恐る樹くんの腰に手を回す。
樹くんは一瞬ビクッとしたけど、エンジン音を響かせてバイクを発進させた。
__す、すごい!
風を切っていく感じ。
ちょっと怖いけど……同時に快感。
樹くんは安全運転でそんなにスピードを出さないし、なんだか安心感がわく。
でもこんなとこ、家の誰かに見られたらたぶん、私の人生は終わるんだろうな。
こっぴどく叱られて、金土日のフリータイムはチャラ。
まあ、ヘルメットかぶってるし絶対に見つからないはずだけど!
それにしても樹くん、よく耐えてくれてるよね……。
女嫌いなのに私ったら腰に手を回してるんだし……絶対イヤだよね……。
しばらくして、私用の別宅の前に到着。
樹くんは『ふうん……』というふうに家を眺めてる。
私はヘルメットを取って樹くんに渡した。
私はそう言って樹くんに微笑みかけ、バイクを見送る。
すごいなあ……。
風のような速さで去っていく樹くんを見て、つい感心してしまう。
自分には一生縁がないと思ってたけど、乗ってみることができてよかったな。
なんだか、竜龍のみんなに会えてから初めての経験だとか、新しく知ったことがいっぱいある。
それに、一気に世界が色付いたというか……。
家に入りながら、つい微笑んでしまう。
来週も、楽しみだな……。
今まで以上に金曜日を心待ちにしている自分に、少しくすぐったいような、そんな気分になった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。