第65話

3,316
2021/02/10 07:17
ママ
あなた、顔色が優れないようだけど、どうかしたの?
夕飯の時、ママに心配そうな目を向けられてびくりとする。



さ、さすがだ。



そんな表情に出してないつもりだったんだけど……。



それでも、心配をかけたくなくてなんとか笑顔を見せる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
大丈夫だよ、ちょっと疲れちゃったの
そう言うとパパが私の顔を見て「うーん」と考え込む。
パパ
……マリッジブルーというやつか?
マリッジブルー!?
白濱(なまえ)
白濱あなた
ち、違うよ!それは全然大丈夫!
パパ
そうか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うんっ、なれない家事して疲れちゃっただけなの
ママとパパはまだ納得してないみたいだけど、もう一度笑顔を見せる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
心配かけてごめんなさい。でも本当に大丈夫だから。ごちそうさまでした
何気なく薬指を隠しながら席を立ち、自分の部屋に向かった。



けど、本当は不安と申し訳なさがぐるぐるしちゃってる。



パパとママにまで嘘ついちゃった……。



部屋に戻って、少し気分を落ち着かせようとお風呂に入ったり、



大好きな本を手に取っても、お風呂ではリラックスするどころじゃなくて、本だって内容が全然頭に入ってこない。



どこで外したかもう一度ゆっくり思い出してみよう。



でも、たしかにあの鏡台に置いたはず……。



落ちてないか床を見たけどなかったし、でももしかしたら見落としてるところがあるかもしれない。



明日もう一度探してみよう。



ううん、なんなら今から……。



悶々と考えていると、



コンコン。
白濱(なまえ)
白濱あなた
は、はいっ
ちらっと時計を見て驚く。



もう11時だったの!?



こんな夜に訪ねてくるって、もしかしてママかな?



そう思って扉を開けると。
白濱(なまえ)
白濱あなた
えっ……
そこにいたのは。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬くん……
仕事帰りなのか、スーツを着てネクタイを締めた壱馬くん。



……今1番会いたくて、1番会いたくなかった人。
川村壱馬
川村壱馬
悪い、寝てたか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、ううん。でもどうしたの?こんな夜更けに……
部屋に招いて、いつものように並んでソファに座りながらそう質問。



いつも来る前は連絡してくれたりするのに、私が気づかなかっただけかな?
川村壱馬
川村壱馬
……あなたのご両親に呼ばれてな
パパとママに?
川村壱馬
川村壱馬
あなたが元気ないって、マリッジブルーじゃないかとかいろいろ言われたけど……
白濱(なまえ)
白濱あなた
そ、そうじゃないよ!
パパったら!



私に言ったことそのまま言うなんて。



そもそも私、全否定したのに!
川村壱馬
川村壱馬
……そうか、ならよかった
白濱(なまえ)
白濱あなた
う、うん
私を優しく見つめるその目を見て、スっと左の薬指を隠す。



壱馬くんに申し訳なくて、あんな大切なものを無くしてしまった自分が情けなくて……。
川村壱馬
川村壱馬
……なにかあったのか?
白濱(なまえ)
白濱あなた
え……?
そう聞かれてパッと顔を上げる。
川村壱馬
川村壱馬
たしかに顔色悪いな……
白濱(なまえ)
白濱あなた
そ、そんなことないよ。ごめんね、疲れてるのに呼び出しなんて……
仕事終わりで来たみたいだし、突然呼ばれて迷惑だよね。
川村壱馬
川村壱馬
俺は平気。お前がなにか抱えてるって思ったら、その方が心配だからな
ああ、優しいな……。



けど今は、その優しさが私の胸を痛ませる。



こんなに私を心配してくれる壱馬くんに、自分の不注意のせいで婚約指輪をなくしたなんて絶対に言えない。
白濱(なまえ)
白濱あなた
っ……本当に、なんにもないの
声が震えてるのがわかったけど、なんとか笑顔を作って壱馬くんを見る。
川村壱馬
川村壱馬
あなた……
白濱(なまえ)
白濱あなた
ちょっと疲れただけなの。パパとママったら大袈裟だよね。ほんとにごめん
こんな夜更けに呼び出されて、いい迷惑だよ。



なんとか笑いかけると、壱馬くんは私を見て、少しの間を取ってから口を開いた。
川村壱馬
川村壱馬
……あなた。俺たち、1ヶ月後には夫婦だろ?
白濱(なまえ)
白濱あなた
え……?
突然どうしたんだろう?
川村壱馬
川村壱馬
夫婦ってのはお互いの幸せも、悩みも不安も全部分かち合うものだと思ってる
白濱(なまえ)
白濱あなた
っ……
川村壱馬
川村壱馬
だからもし今なにか抱えてるなら、俺はできる限りそれを取り除けるようにしたいし、お前を守りたい
静かな声が、私の胸にトンっと響いて。



その優しさや、温かさに全てを委ねたくなる。
川村壱馬
川村壱馬
……あなた
壱馬くんを見上げとき、その姿がぼやけて目頭が熱くなった。
川村壱馬
川村壱馬
……なにがあった?
そう言われた途端、堰を切ったように涙が溢れ出してしまった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
っ……ごめんなさいっ……ごめんなさい……
何に謝ってるのかわからないほど、私の口から何回も謝る言葉が出てきて。



そのたびに壱馬くんは「大丈夫だ」と言うように背中をなでてくれる。



そんな壱馬くんに、本当にいろんな気持ちが湧き上がってきて。



疲れてる中で呼び出されても駆けつけてくれるところに。



なにも言わない私の不安を取り除こうとしてくれるところに。



……すべてを受け止めてくれようとする寛容な心に。



壱馬くんの全部に感謝と愛しさが溢れ出て、どうしようもなく切ない気持ちになる。



それに比べて私は、指輪はなくしてしまうし、壱馬くんに心配をかけてしまうしで、本当に……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ごめんっ……
何度もそう言って、壱馬くんの胸に顔を埋めた。

プリ小説オーディオドラマ