第50話

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2021/01/26 09:31
その後、パパは会社へ行き、部屋には私と壱馬くんのふたりになる。
川村壱馬
川村壱馬
あなた
数日ぶりに名前を呼ばれて、それだけで心臓が音を立てた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
な、なに……?
川村壱馬
川村壱馬
この前のこと、悪かった。イヤな気持ちにさせたな
壱馬くんが謝ることじゃない。



イヤな気持ちにさせたのは私の方なのに。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬くん、私、ワガママだったの。壱馬くんに慎と婚約しろって言われてるみたいに感じちゃって……それであんなこと……
そう言うと、壱馬くんは私の髪をそっとなでた。
川村壱馬
川村壱馬
……そんなわけないだろ。俺が、お前を誰かに渡すわけない
その言葉を聞いただけで、もう十分だと思える。



誤解なんかして、本当に申し訳ない。



壱馬くんは、こんなに私のことを思ってくれているのに。
川村壱馬
川村壱馬
あの時、俺の家のことを話そうと思ってた
家のことって……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
LDHグループの話?
川村壱馬
川村壱馬
そう。今の父親がLDHグループの社長なんだよ。俺は竜龍の人間だから、敵に噂が広まって父親に迷惑をかけないように、周りには隠してきたんだけどな
そうだったんだ……。
川村壱馬
川村壱馬
LDHグループと長谷川財閥は方向性が違う。だから、そのことも考えてほしかったんだ
そっか、長谷川財閥と縁を結んだ時の利益の話をしたのは、そういうことだったんだ。



決して慎と婚約しろって言ってたわけじゃなかった。



私が将来、後悔しないように……最初から壱馬くんは、私にそう伝えていてくれたんだ。



なのに、私は……。
川村壱馬
川村壱馬
……あなた
こぼれそうになる涙をなんとか抑えて、壱馬くんを見あげる。
川村壱馬
川村壱馬
いつか、お前を嫁として迎えたい。さっきあなたのお父さんにもそう話した
じわりと、一度引っ込んだものが溢れそうになった。



だってこんなの、うれしすぎるっ……。
川村壱馬
川村壱馬
俺はもう、お前を誰にも渡す気はない。お前の気持ちを教えてくれ
壱馬くんの言葉に、私は溢れ出した涙を拭って声を絞り出した。
白濱(なまえ)
白濱あなた
私は、壱馬くんが好き。大好き。もう壱馬くん以外の人と結婚するのは、考えられない……
私がそう言い終わらないうちに、唇が重なった。



お互いのすべてを、分かち合うように。



改めて想いを伝え合うように。



唇を離して、コツンと額をあてる。
川村壱馬
川村壱馬
……まあ、数年先のことになるだろうけど
白濱(なまえ)
白濱あなた
ふふっ……うん。楽しみに待とう?
私がそう言うと、壱馬くんは「そうだな」とつぶやいて、もう一度キスを落とした。

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