第61話

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2021/02/06 08:12
吉野北人
吉野北人
え、その人なんか変人だね
白濱(なまえ)
白濱あなた
だよね……
壱馬くんに会うついでにうちへ遊びに来た北人くんに坂下さんの話をしてため息をつく。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ごめんね、こんな話聞かせちゃって……
吉野北人
吉野北人
ううん、それは全然構わないよ。あなたちゃんのためだし!
そう言ってにこっと笑う北人くん。



相変わらず鼻血が出そうなくらいかわいいな……。



北人くんは大学で心理学を学んだ後、カウンセラーとして働いている。



聞いた時はピッタリって思ったな。



すごく話しやすいし、今だってこうして気軽に相談できるし。
吉野北人
吉野北人
この話、壱馬には言った?
白濱(なまえ)
白濱あなた
ううん、まだ言えてないの
最近忙しいみたいで、今日これから会うのも1週間ぶりくらい。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ただの変な人で片付くかもしれないし……
吉野北人
吉野北人
そうかなぁ……僕は執念みたいなもの感じるけど
執念?
吉野北人
吉野北人
まあ、なんにもないなら、それに超したことないんだけどね。警戒はしておいた方がいいと思うよ
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、そうだよね
北人くんにそう頷いて、紅茶を口に運んだ。



久しぶりの味に心がほわっとする。
白濱(なまえ)
白濱あなた
やっぱり北人くんの紅茶って美味しいね
吉野北人
吉野北人
ええ?執事さんがいれたほうが美味しいでしょ
白濱(なまえ)
白濱あなた
そんなことないよ。なんか、高校時代を思い出すし
竜龍のたまり場のことがフッと頭に浮かんでくるもん。



ほんと、懐かしいな……。
吉野北人
吉野北人
樹とか颯太ともときどき会ったりするの?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、壱馬くんが会ってるからそのついでみたいな感じで会うよ
吉野北人
吉野北人
そうなんだ。……まあふたりは壱馬の方がついでだと思ってるだろうけど
ん?……どういう意味だろう?
吉野北人
吉野北人
ふたりが結婚するって聞いた時は素直に祝福してたけど、本当のところどうかなんてわかんないもんね
……?



よくわからないけど、どういうことかな?
白濱(なまえ)
白濱あなた
結婚といえば、美樹達もそろそろかもしれないよね
吉野北人
吉野北人
たしかに。あのふたりも長いからなぁ
のんびりそんな話をしていると、
佐藤美樹
佐藤美樹
あなたー!!!
白濱(なまえ)
白濱あなた
えっ!?
飛び上がって返事をすると、美樹が突進してくる。
吉野北人
吉野北人
佐藤さん!?
佐藤美樹
佐藤美樹
吉野くん!久しぶりだね、相変わらずかわいいまま!
美樹は絶賛した後な北人くんから視線を移して私を見る。
佐藤美樹
佐藤美樹
もう最悪なの、もうほんと、最低最悪!
すごい剣幕でそう言ったかと思えば、一息ついてソファに沈み込む美樹。



な、なんか珍しく落ち込んでるみたい……?
白濱(なまえ)
白濱あなた
どうしたの?あ、カウンセラーの北人くんもいることだし、話してみて?
佐藤美樹
佐藤美樹
そっか、吉野くんカウンセラーになったんだ。似合うね
吉野北人
吉野北人
そう?
首を傾げた北人くんに美樹とふたりでうんうんと頷く。
白濱(なまえ)
白濱あなた
それで、なにがあったの?
美樹の目を見てそう聞くと、
佐藤美樹
佐藤美樹
……夏喜が浮気した
白濱(なまえ)
白濱あなた
え!?
吉野北人
吉野北人
え!?
思わず北人くんとハモる。



う、浮気って、夏喜くんが!?
吉野北人
吉野北人
え、えっと、状況説明してみてくれる?
北人くんも動転してるみたい……。
佐藤美樹
佐藤美樹
……昨日ね、久しぶりにデートできないかなって思って明日空いてるかって聞いたの。そしたら仕事って答えたんだけど……
美樹の目にじわっと涙が浮かぶ。
佐藤美樹
佐藤美樹
今日偶然夏喜の同僚の人に会ったら、今日デートじゃなかったんですね、って言われて、なんでですか?って聞いたらアクセサリーショップ見に行くって言ってたって……
思わず黙り込む。



な、なんという偶然……。
佐藤美樹
佐藤美樹
絶対ほかの女の子と行ってるんだよ。自分から行くなんてありえないし、私アクセサリーが欲しいって言ったことないし……
たしかに、美樹って高価なもの貰うのは嫌いだもんね。



夏喜くんもそれを知ってるはずだし、プレゼントはしないはず。



ってことはほんとに浮気だったり?



いやいや、でも夏喜くんだよ?



あの夏喜くんが浮気なんてするわけない。



うーん、でも……。
佐藤美樹
佐藤美樹
もうヤダ、夏喜なんて知らない
白濱(なまえ)
白濱あなた
うーん……
どうなんだろう?



何気なく北人くんを見ると、なにか思案してる顔。
吉野北人
吉野北人
僕、1回夏喜と話してみるよ。多分僕の予想どおりだと思うけど
え?北人くん、なにかわかってるのかな?
佐藤美樹
佐藤美樹
吉野くん、仲良しだからって夏喜の肩持つようなことはしないでね、あなたに誓って!
な、なんで私!?
吉野北人
吉野北人
あなたちゃんには嘘つけないもんね。わかった、誓います!
北人くんがすっごく真面目な顔でそう言ったけど……。



やっぱり心のどこかにある副総長の自分が、総長の姫には嘘つけないって思うのかな?
佐藤美樹
佐藤美樹
よろしくお願いします!
美樹も威勢よく答えちゃってるし……。



なんだか結婚が決まってから坂下さんのこととか美樹のこととか、波乱万丈って感じだな。



そう思っていると、



__コンコン、ガチャ……。



扉が開いて入ってきたのは、
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、壱馬くんっ
川村壱馬
川村壱馬
あなた
そう名前を呼んで、私に微笑みかける壱馬くんに私の頬がつい緩む。
吉野北人
吉野北人
壱馬、おつかれ〜
川村壱馬
川村壱馬
ああ、待たせて悪かったな
扉を閉めながらそう言った壱馬くんに、美樹も声をかける。
佐藤美樹
佐藤美樹
川村くん、お邪魔してます
川村壱馬
川村壱馬
佐藤か。珍しいな、夏喜は一緒じゃないのか?
夏喜、という名前に美樹が憤怒の情をあらわにする。



な、なんか背後に炎が見えそうな勢い。
白濱(なまえ)
白濱あなた
か、壱馬くん、実はカクカクシカジカで……
手短に説明すると。
川村壱馬
川村壱馬
夏喜が浮気?
佐藤美樹
佐藤美樹
そう!川村くんも夏喜の肩持つようなことしないでね!
壱馬くんは美樹の剣幕に頷いたものの、北人くんを見てふたりでなにか目配せをする。
川村壱馬
川村壱馬
……まあ、一度落ち着いて考えてみたらどうだ?夏喜が浮気とか、幼なじみとしてもかんがえにくいからな……
そっか、壱馬くんにとっては幼なじみでもあるんだもんね。
佐藤美樹
佐藤美樹
……まあ私も、心のどこかではそう思ってるの。一度頭冷やすね
白濱(なまえ)
白濱あなた
それがいいよ、今日はうちに泊まって?
迷わずそう提案すると、美樹はこくりと頷く。
佐藤美樹
佐藤美樹
そうさせてもらうね。川村くん、今日はあなた借ります
川村壱馬
川村壱馬
ああ
壱馬くんが頷いて、北人くんがソファから立ち上がる。
吉野北人
吉野北人
じゃあふたりとも、長居しちゃってごめんね?
白濱(なまえ)
白濱あなた
こちらこそ!いろいろ聞いてくれてありがとう
私がそう言うと、北人くんはにっこり笑って壱馬くんと一緒に部屋を出ていった。
佐藤美樹
佐藤美樹
っていうかごめん、結婚間近でイチャイチャしたいところを……
白濱(なまえ)
白濱あなた
い、イチャイチャって……
もう、美樹ったら。



顔が熱くなってるのを手であおぎながら、美樹がちょっとだけ笑ったことにホッとしていた。











【北人side】

吉野北人
吉野北人
分かってるだろうけど、多分浮気じゃないんだよね
長い廊下を歩きながらそう壱馬に話す。
川村壱馬
川村壱馬
まあ、俺もだいたい想像はついてる
吉野北人
吉野北人
だよね。あのふたりやっぱり鈍感すぎるよ
まあ、そこがかわいい、なんて絶対言わないけど。



壱馬の婚約者となったあなたちゃんに今でも普通に接することができるのは、こういう言葉を全部飲み込んできたからなんだから。
川村壱馬
川村壱馬
まあでも、不安にさせた部分は夏喜にも非があるんじゃないのか
吉野北人
吉野北人
そうだね。1番させちゃいけないことだって思うし
その点、壱馬は完璧だな、なんてつい思ってしまう。



あなたちゃんはいつでも壱馬を心の底から信頼してるし、壱馬だってそれを裏切るようなまねは絶対にしない。



……そもそもあなたちゃんにぞっこんだから、浮気だとかなんだとかするわけないんだけど。



だからなんだろうな。



……僕じゃだめなんだ。
川村壱馬
川村壱馬
北人、お前結婚式には来れるんだろ?
吉野北人
吉野北人
えっ、ああ、行くよ
ハッとなってそう答える。
吉野北人
吉野北人
来月だったよね
川村壱馬
川村壱馬
ああ
壱馬め……。



こっちが悲しさに浸ってる時に幸せオーラ漂わせちゃって。



1回僕の身になってほしいよね。
川村壱馬
川村壱馬
こうなれたのはお前のおかげでもあると思ってる。ありがとな
吉野北人
吉野北人
え?
僕のおかげって……。
川村壱馬
川村壱馬
今だから言うけど、あなたに対するお前の気持ち知ってたんだよ。なのに潔く引いてくれただろ。……樹とは違ってな
うわぁ、根に持ってるなぁ……。



それでも仲良いことに変わりはないんだけど。



高校の時にあったことなんか、今では思い出話か笑い話だし。
川村壱馬
川村壱馬
それどころかあなたのサポートまでしてくれてるし。ほんと、ありがとな
そう言った壱馬に、なぜか涙が出てきそうになって慌てて瞬きを繰り返す。
吉野北人
吉野北人
別に、お礼なんていらないよ
そう、お礼なんていらない。



僕が唯一あなたちゃんにできることを喜んで引き受けてるだけなんだから。



逆に寛大な壱馬にお礼言いたいくらいだよ。



……いまもこの気持ちを抱いてることを知ってるか知らないかはわからないけど。
吉野北人
吉野北人
……こちらこそ、ありがとう
川村壱馬
川村壱馬
……ん
壱馬はそれだけ言って足を進める。



ほんと、わかりにくいんだから。
吉野北人
吉野北人
じゃ、夏喜に話聞きに行きますか!
川村壱馬
川村壱馬
だな
僕たちはフッと笑いあって、総長と副総長だったあの時のように、肩を並べて屋敷を出た。

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