壱馬くんに会うついでにうちへ遊びに来た北人くんに坂下さんの話をしてため息をつく。
そう言ってにこっと笑う北人くん。
相変わらず鼻血が出そうなくらいかわいいな……。
北人くんは大学で心理学を学んだ後、カウンセラーとして働いている。
聞いた時はピッタリって思ったな。
すごく話しやすいし、今だってこうして気軽に相談できるし。
最近忙しいみたいで、今日これから会うのも1週間ぶりくらい。
執念?
北人くんにそう頷いて、紅茶を口に運んだ。
久しぶりの味に心がほわっとする。
竜龍のたまり場のことがフッと頭に浮かんでくるもん。
ほんと、懐かしいな……。
ん?……どういう意味だろう?
……?
よくわからないけど、どういうことかな?
のんびりそんな話をしていると、
飛び上がって返事をすると、美樹が突進してくる。
美樹は絶賛した後な北人くんから視線を移して私を見る。
すごい剣幕でそう言ったかと思えば、一息ついてソファに沈み込む美樹。
な、なんか珍しく落ち込んでるみたい……?
首を傾げた北人くんに美樹とふたりでうんうんと頷く。
美樹の目を見てそう聞くと、
思わず北人くんとハモる。
う、浮気って、夏喜くんが!?
北人くんも動転してるみたい……。
美樹の目にじわっと涙が浮かぶ。
思わず黙り込む。
な、なんという偶然……。
たしかに、美樹って高価なもの貰うのは嫌いだもんね。
夏喜くんもそれを知ってるはずだし、プレゼントはしないはず。
ってことはほんとに浮気だったり?
いやいや、でも夏喜くんだよ?
あの夏喜くんが浮気なんてするわけない。
うーん、でも……。
どうなんだろう?
何気なく北人くんを見ると、なにか思案してる顔。
え?北人くん、なにかわかってるのかな?
な、なんで私!?
北人くんがすっごく真面目な顔でそう言ったけど……。
やっぱり心のどこかにある副総長の自分が、総長の姫には嘘つけないって思うのかな?
美樹も威勢よく答えちゃってるし……。
なんだか結婚が決まってから坂下さんのこととか美樹のこととか、波乱万丈って感じだな。
そう思っていると、
__コンコン、ガチャ……。
扉が開いて入ってきたのは、
そう名前を呼んで、私に微笑みかける壱馬くんに私の頬がつい緩む。
扉を閉めながらそう言った壱馬くんに、美樹も声をかける。
夏喜、という名前に美樹が憤怒の情をあらわにする。
な、なんか背後に炎が見えそうな勢い。
手短に説明すると。
壱馬くんは美樹の剣幕に頷いたものの、北人くんを見てふたりでなにか目配せをする。
そっか、壱馬くんにとっては幼なじみでもあるんだもんね。
迷わずそう提案すると、美樹はこくりと頷く。
壱馬くんが頷いて、北人くんがソファから立ち上がる。
私がそう言うと、北人くんはにっこり笑って壱馬くんと一緒に部屋を出ていった。
もう、美樹ったら。
顔が熱くなってるのを手であおぎながら、美樹がちょっとだけ笑ったことにホッとしていた。
【北人side】
長い廊下を歩きながらそう壱馬に話す。
まあ、そこがかわいい、なんて絶対言わないけど。
壱馬の婚約者となったあなたちゃんに今でも普通に接することができるのは、こういう言葉を全部飲み込んできたからなんだから。
その点、壱馬は完璧だな、なんてつい思ってしまう。
あなたちゃんはいつでも壱馬を心の底から信頼してるし、壱馬だってそれを裏切るようなまねは絶対にしない。
……そもそもあなたちゃんにぞっこんだから、浮気だとかなんだとかするわけないんだけど。
だからなんだろうな。
……僕じゃだめなんだ。
ハッとなってそう答える。
壱馬め……。
こっちが悲しさに浸ってる時に幸せオーラ漂わせちゃって。
1回僕の身になってほしいよね。
僕のおかげって……。
うわぁ、根に持ってるなぁ……。
それでも仲良いことに変わりはないんだけど。
高校の時にあったことなんか、今では思い出話か笑い話だし。
そう言った壱馬に、なぜか涙が出てきそうになって慌てて瞬きを繰り返す。
そう、お礼なんていらない。
僕が唯一あなたちゃんにできることを喜んで引き受けてるだけなんだから。
逆に寛大な壱馬にお礼言いたいくらいだよ。
……いまもこの気持ちを抱いてることを知ってるか知らないかはわからないけど。
壱馬はそれだけ言って足を進める。
ほんと、わかりにくいんだから。
僕たちはフッと笑いあって、総長と副総長だったあの時のように、肩を並べて屋敷を出た。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。