【樹side】
いつからだろう。
あなたを意識するようになったのは……。
女嫌いの俺は、初めはあなたを毛嫌いしてた。
ほかの女と一緒で、きゃーきゃー騒ぎながら無理やり俺に触ってきたりして、女嫌い直そうとするんだろうな、って思ったから。
でもそんなことなくて。
それどころか俺を気遣ってくれた。
バイクに乗せた時も、すごい遠慮がちに手ぇ回してたし……。
そんなあなたに惚れたんだ、女嫌いの俺が。
でも……壱馬と付き合うことになって。
そのことを聞かされた時、心臓が止まるかと思った。
それほど……ショックだったんだ。
それほど……好きなんだ。
初めてできた好きな人……。
その初恋の人……あなたは今、少し顔を赤くして壱馬と笑顔で話してる。
その笑顔を……俺に向けてほしくて。
でもそんなの絶対に無理で……。
だから言ったんだ、好きだって。
俺の想いを伝えた時、あなたは案の定、困ったような顔をして俺を見た。
その時ドアが開いて壱馬と北人が帰ってきて。
あなたは立ち上がり、俺から離れて壱馬のところに行く。
それがすごく悔しくて……。
俺はいつものポーカーフェイスで本を手にとった。
でも……あなたと壱馬のことが頭から離れなかった。
【あなたside】
どうしよう……樹くんの告白が頭から離れない……。
べつに、樹くんが気になるとかじゃなくて……。
私が好きなのは壱馬くんだけど、それでも今は、心が乱されたままだよ……。
壱馬くんが私を覗き込むように見る。
そう言って誤魔化してなにげなく樹くんを見ると、いつものように本を読んでいる。
壱馬くんはそう言って私の腕をつかんで引っ張っていく。
戸惑っている様子の北人くんが、壱馬くんに聞くけど。
壱馬くんはそれだけ言い、私を連れて総長部屋に入った。
バタンと少し乱暴にドアを閉める。
なんか……怒ってる?
……え?
ぎくっ……。
壱馬くんはそう言って私を見る。
その強いまなざしに、思わず顔を背ける。
壱馬くんは低い声でそう言って、私を壁に押しつけた。
いわゆる壁ドンってやつだ……。
それでも今はときめくどころか、びくりと肩を揺らした。
強い口調のままそう言う。
鋭い目の中にはいつものように優しさがなくて、私の腕を掴む手も、あとが着きそうなくらい力が込められている。
ただでさえ樹くんの告白で動揺していた心が、壱馬くんの冷たい瞳に射すくめられてきゅっと縮こまるような、そんな感じがして……。
私は壱馬くんの視線から逃れるように、ぎゅっと目をつむった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!