第8話

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2020/12/15 09:51
吉野北人
吉野北人
……じゃあ無事撒けたって報告が来たら、すぐ帰してあげなきゃな……。あなたちゃん、まだ怖いでしょ?ごめん
北人くんが謝ってきて、ハッと我に返る。
白濱(なまえ)
白濱あなた
こ、怖くないよ!北人くんは全然怖くないし……。壱馬さんだって前に助けてくれたし、ほんとに怖くないの。そりゃ下にいる髪の色が変な人たちは怖いけど……
すると北人くんが笑いだした。
吉野北人
吉野北人
ははっ、たしかに変だよね!僕達派手な髪色じゃなくて良かった!あなたちゃんに髪の色が変って言われなくてすむし!
そう言ってまた笑う。



北人くんの可愛い笑顔を見て、少し心が和んだ。



ほんとに可愛いよね、北人くんって。



でもケンカはすごく強い。



ギャップが激しいんだよね……。
吉野北人
吉野北人
って、樹!ずっと寝てたの!?
北人の目線をおっていくと、さっき寝ていた人。



そういえば……忘れてた。
吉野北人
吉野北人
樹ーーーーー!!!起きろぉー!!
北人くんが叩き起してる。
藤原樹
藤原樹
ん……北人……?おはよ……
吉野北人
吉野北人
おはよじゃないっ!さっさと起きる!!
藤原樹
藤原樹
眠い……
北人くんがソファから引きずり下ろしてる……。



『樹』と呼ばれた彼はやっとのことで体を起こし、こっちに来ると、私を見て固まった。



それを見た北人くんが苦笑いで言う。
吉野北人
吉野北人
あなたちゃんごめん。樹、女が苦手なんだ
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、ごめんなさい。私のことはいないと思って
するとスっと視線を逸らした彼。



相当な女嫌いなんだね……。
吉野北人
吉野北人
こいつね、藤原樹。竜龍の幹部のひとりだよ
北人くんの紹介に「へえ……」と言って樹くんを見る。



幹部って偉い人なのかな?



きっとそうなんだろうな。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あの……北人くん達も幹部なの?
吉野北人
吉野北人
うん。僕は副総長で、壱馬は総長なんだ
え!?総長って一番偉い人でしょ?



すごい!!だからみんな頭下げてたのね!
吉野北人
吉野北人
あとの幹部は、樹の他に2人いるんだ〜。また後で来ると思うよ。颯太と夏喜って言うんだ〜
へぇ……。
吉野北人
吉野北人
そういえばあなたちゃん、家は大丈夫?
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、うん。今日は誰もいないの
吉野北人
吉野北人
そっか……。よかった。あ、疲れてない?少し休んだら?どうせ壱馬にすごい走らされたんでしょ?
川村壱馬
川村壱馬
そんなに走ってねぇよ
いや、すごく走らされたけど……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
ううん。ありがとう、大丈夫
吉野北人
吉野北人
そう?疲れたなら遠慮なく言ってね
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん。ありがとう
するとガチャ、とドアが開いて男の子が2人入ってきた。



多分颯太くんと夏喜くん。
中島颯太
中島颯太
ただいま〜……って、え!?
びっくりしたように私を見る男の子。



えーと、颯太くんと夏喜くん、どっちがどっちだろう……?
堀夏喜
堀夏喜
え、なんで……
あれ、この人も私のこと知ってるんだ……。
吉野北人
吉野北人
あなたちゃん、言い忘れてたけど、ここにいる全員があなたちゃんのこと知ってるよ
白濱(なまえ)
白濱あなた
え!?
北人くんの言葉にすっとんきょうな声が出る。



だ、だって私は北人くんのことしか知らないのに……。
藤原樹
藤原樹
……亜嵐さんが自慢げに話してた
樹くんが気だるそうにそう言ってあくびをひとつ。



じ、自慢げにって……。
中島颯太
中島颯太
そーそー、かわいいかわいいってうるさいのなんの。まぁ納得したけどな!
颯太くん、夏喜くんのどちらかがそう言ったけど……。



兄バカだなぁ、お兄ちゃん……。



けど、だから壱馬さんにも名前呼ばれたんだ。



やっと納得できた。
吉野北人
吉野北人
あ、そういえばこっちが颯太でこっちが夏喜ね
北人くんの紹介に向き直る。



颯太くんはなんかチャラい感じ。



髪は金髪に近い茶色。



関西弁で……正直ちょっと怖い!



対して夏喜くんは落ち着いた感じ。



髪は茶色っぽい黒でナチュラル。
白濱(なまえ)
白濱あなた
改めて、白濱あなたです。よろしくね
中島颯太
中島颯太
おれは中島颯太、よろしくな!
颯太くんはそう言うと私の手を取ってぶんぶん振り回して大きく握手。



そんな動作に少し戸惑ってしまう。



な、なんというか、距離が近い。
白濱(なまえ)
白濱あなた
よ、よろしく……
中島颯太
中島颯太
ってか、ほんまにかわいいな
白濱(なまえ)
白濱あなた
え!?そ、そんなことは……
颯太くん……なんというか、見た目通りチャラい……。



ちょっと苦手かも……。



颯太くんから開放されると、次は夏喜くんが私に向き直った。
堀夏喜
堀夏喜
おれは堀夏喜。よろしくな
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、よろしく!
夏喜くんはすごく感じがいい。



爽やかなタイプだな。
吉野北人
吉野北人
はい、自己紹介はそこまで。それでふたりともどう?なにか情報得た?
北人くんがそう言ってなんだか難しい話になったので、イスに座りなおして部屋をぐるりと見回す。
川村壱馬
川村壱馬
……あなた、本当に怖くないか?
壱馬さんが話しかけてくれた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、みんなすごくいい人っぽいし……。北人くんは前から知ってるし、なんだか落ち着くよ
川村壱馬
川村壱馬
そっか。よかった
壱馬さんはそう言って微笑んだ。



ドキッと心臓が高鳴る。



なんだろう、もっとこの微笑みを見ていたいって思う。



さっき私の手を引いていた時に見せた、大人で冷静な表情とは違う、優しい微笑み。



こんな笑い方をするんだなって、やっと高校生の壱馬さんを見ることができた気がして、それがなんだかくすぐったい。
川村壱馬
川村壱馬
……亜嵐さんも、ここは落ち着くって言ってたんだ。いつも勉強とか礼儀作法ばっかりで疲れたって……お前もそうなんじゃないか?
心臓がドクンと鳴る。



確かに、そうかもしれない……。



私も白濱家の長女として、いつでも礼儀正しくしとかなきゃいけないし……。
川村壱馬
川村壱馬
良かったら息抜きにいつでも来いよ。……迎えに行ってやるからさ
壱馬さんの優しい笑顔に、ドキンドキンと心臓が音を立てる。



なんだか、胸が締め付けられるみたいにきゅーっとなる。
藤原樹
藤原樹
……亜嵐さんの妹
ぼーっとしていると、不意に樹くんに呼ばれた。



というか名前……覚えてないんだね……。
白濱(なまえ)
白濱あなた
は、はい
藤原樹
藤原樹
……やっぱなんでもない
な、なにそれ?
白濱(なまえ)
白濱あなた
そ、そうですか……
変わった人だな……でも嫌いじゃないかも。
吉野北人
吉野北人
あ、あなたちゃん!携帯持ってる?
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん、持ってるよ
吉野北人
吉野北人
貸して?一応僕の連絡先入れとくから
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、ありがとう……
そう言って素直に北人くんに携帯を出す。



一応って、何かあるのかな?
吉野北人
吉野北人
はい、いざってなったら連絡してね?飛んでいくから
白濱(なまえ)
白濱あなた
あ、ありがとう……
そうして携帯をしまうと夏喜くんにじっと見られた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
あの……なにか?
堀夏喜
堀夏喜
いや……。ほんとかわいいなって。いや、べつにからかうとか口説くとかじゃなくて、亜嵐さんにも顔立ちがよく似てるな……って思ってさ
お兄ちゃんに似てる……か。



そうだったら嬉しいよ……。



にしても夏喜くんの言い方、不自然さがないって言うか。



ほんとに口説くつもりじゃないんだなってわかる。



颯太くんなんか口説く気満々だったし……。



私なんか口説いたって仕方ないのにね。
白濱(なまえ)
白濱あなた
そんなふうに言ってくれてありがとう。でもあんまり似てないと思うな。ほら、お兄ちゃんってすごくイケメンだったじゃない?お兄ちゃんに似てたら、私すごくかわいい顔に生まれてるはずだよ……
お兄ちゃんがうらやましかったしね……。



ほんとに。



お兄ちゃんが女の人だったら絶対モテモテだよ。
吉野北人
吉野北人
いや、あなたちゃんすごく似てるよ。亜嵐さんの女の人バージョンって感じ
白濱(なまえ)
白濱あなた
絶対ありえないよ……。お世辞はいいよ?もう自覚してるから……
美人だったら自分で美人って思うでしょ?



だって美人なんだから。



それってイヤミとかじゃなく、仕方ないと思うんだよね、かわいいんだもん。



でも私はそう思わないし。



だから美人じゃないよ。
吉野北人
吉野北人
あー……無自覚ってやつだね。ほんとにいるんだねー、自分がかわいいことに無自覚な人って
白濱(なまえ)
白濱あなた
もういいよ……お世辞聞いてたら余計辛くなる
吉野北人
吉野北人
こっちこそもういいや……笑
そうそう、べつにこの顔で不自由してないもんね。
吉野北人
吉野北人
でも……亜嵐さん、思い出すなぁ……
北人くんが遠い目をする。



……私も思い出すよ。



お兄ちゃんの笑顔とか、お兄ちゃんの不機嫌な顔とか、私の頭を優しくなでる手とか……。
中島颯太
中島颯太
はいはい!しんみりすんな!なぁ、あんたさーお嬢様なんやろ?初めてかもしれんけど、ゲームとかしてみる?
白濱(なまえ)
白濱あなた
わ、私もゲームくらいはするよ
中島颯太
中島颯太
え?そう?じゃ、やろーや!
白濱(なまえ)
白濱あなた
うん。いいよ
颯太くんのお誘いでテレビゲームをすることになった。



なんか……チャラ男っぽいけど、結構空気読んで明るくしてくれたりするんだね。
中島颯太
中島颯太
なぁ、壱馬もやろーぜ!前負けたから今度は勝ってやる!
川村壱馬
川村壱馬
望むところ。絶対負かしてやる
中島颯太
中島颯太
よっしゃ!やろー!
颯太くんの言葉に「うんっ」と笑顔で頷き返す。



……ここが、お兄ちゃんの大好きだった場所。



お兄ちゃんのことを思い出して少し悲しい気分になったけど、ここにいるメンバーはすぐにその悲しさをぬぐい去って、笑顔にしてくれる。



ふと窓の外を見ると、雲ひとつない青空の中を、どこまでも自由に飛んでいく一羽の鳥が見えた。



今日この場所に初めて来て、お兄ちゃんがこの場所を大切にしていた気持ちがわかるような気がした。

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