北人くんが謝ってきて、ハッと我に返る。
すると北人くんが笑いだした。
そう言ってまた笑う。
北人くんの可愛い笑顔を見て、少し心が和んだ。
ほんとに可愛いよね、北人くんって。
でもケンカはすごく強い。
ギャップが激しいんだよね……。
北人の目線をおっていくと、さっき寝ていた人。
そういえば……忘れてた。
北人くんが叩き起してる。
北人くんがソファから引きずり下ろしてる……。
『樹』と呼ばれた彼はやっとのことで体を起こし、こっちに来ると、私を見て固まった。
それを見た北人くんが苦笑いで言う。
するとスっと視線を逸らした彼。
相当な女嫌いなんだね……。
北人くんの紹介に「へえ……」と言って樹くんを見る。
幹部って偉い人なのかな?
きっとそうなんだろうな。
え!?総長って一番偉い人でしょ?
すごい!!だからみんな頭下げてたのね!
へぇ……。
いや、すごく走らされたけど……。
するとガチャ、とドアが開いて男の子が2人入ってきた。
多分颯太くんと夏喜くん。
びっくりしたように私を見る男の子。
えーと、颯太くんと夏喜くん、どっちがどっちだろう……?
あれ、この人も私のこと知ってるんだ……。
北人くんの言葉にすっとんきょうな声が出る。
だ、だって私は北人くんのことしか知らないのに……。
樹くんが気だるそうにそう言ってあくびをひとつ。
じ、自慢げにって……。
颯太くん、夏喜くんのどちらかがそう言ったけど……。
兄バカだなぁ、お兄ちゃん……。
けど、だから壱馬さんにも名前呼ばれたんだ。
やっと納得できた。
北人くんの紹介に向き直る。
颯太くんはなんかチャラい感じ。
髪は金髪に近い茶色。
関西弁で……正直ちょっと怖い!
対して夏喜くんは落ち着いた感じ。
髪は茶色っぽい黒でナチュラル。
颯太くんはそう言うと私の手を取ってぶんぶん振り回して大きく握手。
そんな動作に少し戸惑ってしまう。
な、なんというか、距離が近い。
颯太くん……なんというか、見た目通りチャラい……。
ちょっと苦手かも……。
颯太くんから開放されると、次は夏喜くんが私に向き直った。
夏喜くんはすごく感じがいい。
爽やかなタイプだな。
北人くんがそう言ってなんだか難しい話になったので、イスに座りなおして部屋をぐるりと見回す。
壱馬さんが話しかけてくれた。
壱馬さんはそう言って微笑んだ。
ドキッと心臓が高鳴る。
なんだろう、もっとこの微笑みを見ていたいって思う。
さっき私の手を引いていた時に見せた、大人で冷静な表情とは違う、優しい微笑み。
こんな笑い方をするんだなって、やっと高校生の壱馬さんを見ることができた気がして、それがなんだかくすぐったい。
心臓がドクンと鳴る。
確かに、そうかもしれない……。
私も白濱家の長女として、いつでも礼儀正しくしとかなきゃいけないし……。
壱馬さんの優しい笑顔に、ドキンドキンと心臓が音を立てる。
なんだか、胸が締め付けられるみたいにきゅーっとなる。
ぼーっとしていると、不意に樹くんに呼ばれた。
というか名前……覚えてないんだね……。
な、なにそれ?
変わった人だな……でも嫌いじゃないかも。
そう言って素直に北人くんに携帯を出す。
一応って、何かあるのかな?
そうして携帯をしまうと夏喜くんにじっと見られた。
お兄ちゃんに似てる……か。
そうだったら嬉しいよ……。
にしても夏喜くんの言い方、不自然さがないって言うか。
ほんとに口説くつもりじゃないんだなってわかる。
颯太くんなんか口説く気満々だったし……。
私なんか口説いたって仕方ないのにね。
お兄ちゃんがうらやましかったしね……。
ほんとに。
お兄ちゃんが女の人だったら絶対モテモテだよ。
美人だったら自分で美人って思うでしょ?
だって美人なんだから。
それってイヤミとかじゃなく、仕方ないと思うんだよね、かわいいんだもん。
でも私はそう思わないし。
だから美人じゃないよ。
そうそう、べつにこの顔で不自由してないもんね。
北人くんが遠い目をする。
……私も思い出すよ。
お兄ちゃんの笑顔とか、お兄ちゃんの不機嫌な顔とか、私の頭を優しくなでる手とか……。
颯太くんのお誘いでテレビゲームをすることになった。
なんか……チャラ男っぽいけど、結構空気読んで明るくしてくれたりするんだね。
颯太くんの言葉に「うんっ」と笑顔で頷き返す。
……ここが、お兄ちゃんの大好きだった場所。
お兄ちゃんのことを思い出して少し悲しい気分になったけど、ここにいるメンバーはすぐにその悲しさをぬぐい去って、笑顔にしてくれる。
ふと窓の外を見ると、雲ひとつない青空の中を、どこまでも自由に飛んでいく一羽の鳥が見えた。
今日この場所に初めて来て、お兄ちゃんがこの場所を大切にしていた気持ちがわかるような気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。