第42話

過去
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2021/01/18 08:27
【壱馬side】




助けてくれ……。



誰か……助けてくれ……。



叫んでも叫んでも、暗闇の中にこだまするだけ。



誰か……誰か……!
白濱(なまえ)
白濱あなた
……馬くん……壱馬くん!
ハッと目覚めた。



あなたが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
白濱(なまえ)
白濱あなた
すごいうなされてたよ?大丈夫……?
川村壱馬
川村壱馬
ああ……大丈夫だ
そう言って起き上がる。



そうだ、樹手のゴタゴタが片付いた後、あなたと部屋で過ごしているうちに安心して寝てしまったんだ……。



それで……またあの夢を見てしまった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬くん、なにか悩みがあるなら言ってね……?
川村壱馬
川村壱馬
……ああ、ありがとう
俺の言葉にあなたは静かに微笑む。



その笑顔になんだかホッとした。



大丈夫……俺にはあなたがいる。



俺を受け止めてくれたあなたを……絶対に離さない。



そんな思いを胸に、あなたを抱きしめた。
白濱(なまえ)
白濱あなた
か、壱馬くん?
あなたは突然の行動にびっくりした声を出したけど、俺はますます強く抱きしめた。



そんな俺に何かを感じ取ったのか、あなたも抱き締め返してくれる。



大丈夫だ……俺にはあなたも……竜龍っていう居場所もある。



もう……あんな思いはしたくない。



俺はあなたを抱きしめる腕に力を入れた。














【あなたside】




突然のことにちょっと戸惑ったけど、壱馬くんに抱きしめられて、なんだか壱馬くんの心の中にある孤独に触れたような気がした。



たぶん……簡単には取り除けない、寂しさや苦しさ。



もしかして、昔のこと思い出したのかな?



虐待を受けてたって言ってたよね。



壱馬くんの不安を少しでも和らげたくて、私も抱きしめ返した。



と、その時。



___ガチャ。
堀夏喜
堀夏喜
……っと、ごめん
入ってきたのは夏喜くんだったけど……。



___パタン。



私と壱馬くんが抱き合ってるのを見て、すぐに扉を閉められてしまった。



___シーン……。



こ、こういう時ってどうすればいいんだろう?



かなり気まずいんだけど……。



慌てて出ていったけど、何か用事かな?
白濱(なまえ)
白濱あなた
夏喜くん、何か用事があるんじゃ?
私が声をかけると、しぶしぶ体を離した壱馬くん。
川村壱馬
川村壱馬
夏喜、入っていいから
堀夏喜
堀夏喜
どうも
壱馬くんの言葉を聞いて部屋に入ってきた夏喜くんは、次の集会についての確認をし始めた。



そして話が終わると、夏喜くんは壱馬くんを心配そうに見た。
堀夏喜
堀夏喜
……壱馬、大丈夫か?また思い出したか?
さすが幼なじみ。



壱馬くんに何かあったのをすぐ見抜いてしまった。
川村壱馬
川村壱馬
なんでだよ
堀夏喜
堀夏喜
壱馬は不安なときとか昔のこと思い出したとき、親指の爪いじる
お、恐るべき観察力。



幼なじみ見くびったらダメだな……。



それにしても、やっぱり昔のことを思い出してうなされてたんだ……。
川村壱馬
川村壱馬
……夢見た
堀夏喜
堀夏喜
……そっか。疲れてるのも原因だろうな。ゆっくり休んでおけよ
夏喜くんは壱馬くんにそう言って部屋を出ていった。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬くん……
不安に思って、壱馬くんを見上げる。



なにか辛い過去があったのなら、教えて欲しい。



無理にとは言わないけど、もし私にできることがあるのなら、なんだってしたい。



そんな思いを込めて壱馬くんを見上げると、髪をクシャッとされた。
川村壱馬
川村壱馬
心配かけて悪いな
白濱(なまえ)
白濱あなた
そんなの全然いいよ。何に悩んでるのか分からない方が不安だから……
私がそう言うと、壱馬くんは「そうか……」とつぶやいた。
川村壱馬
川村壱馬
前に、虐待受けてたって言っただろ?
ぽつりぽつりと話し出した壱馬くんに、ゆっくりと頷く。
川村壱馬
川村壱馬
時々その夢を見る。孤独だった時の夢を……








【壱馬side】



川村壱馬
川村壱馬
俺さ、両親に捨てられたんだ
白濱(なまえ)
白濱あなた
え……?
あなたは驚いた顔をしてる。



そう、俺は捨てられた子ども。



小さい頃から虐待を受けてた。



会社を経営している父親は仕事のストレスで酒を飲んでは暴れて、俺や母親にも暴力をふるった。



そんな毎日の中で、母親はとうとう俺を置いて家を出て行った。



すると、暴力はますますヒートアップして……。



でも、俺は子どもだし、父親に養ってもらうしかなかったから、そんな生活が中学になるまで続いた。



中学になると父親が再婚し、新しい母親が出来た。



行きつけだった店の女将だという。



父親が暴れるのは家で酒を飲んだ時だけで、普段は普通のビジネスマンとして振舞っていたはずだから、再婚相手が見つかったんだろう。



でも、その人もどうせ俺を捨てるって思ってた。



俺はその頃、既に暴走族に入ってたから。



だけど、その人はすごく優しくて。



父親は美人なその再婚相手にメロメロ。



だから暴力はなくなった。



俺は初めて両親から愛された。



新しい母親のおかげで幸せが訪れた。



でも……その幸せは長くは続かなかった。



今度は、父親が俺たちを捨てて別の女とどこかに行ってしまった。



母親は泣いて……。



泣いたけど、俺を突き放さなかった。



別に施設に入れたりしてもよかったのに、そうはせずに自分が引き取った。



その後その母親も再婚して、俺に父親ができた。



また暴力を振るわれると思ってたけど、その人は暴力の代わりに優しい笑みをくれて『もう大丈夫だ』と言ってくれた。



それに、両親は竜龍の総長になった俺を責めたりはせずに黙って見守ってくれた。



……そんな矢先だったんだ、亜嵐さんが亡くなったのは。



俺が自暴自棄にならなかったのは、亜嵐さんの存在が大きかったと思う。



亜嵐さんがいたおかげで、俺の心は救われた。



父親に殴られて、家から逃げ出して街中をさまよっていたところを、亜嵐さんが見つけてくれた。



『強くなりたいか?』



いかにも育ちが良さそうな上品な物腰に、どこかいたずらっ子のような笑みを浮かべてそう言った亜嵐さんに、思わず手を伸ばしていた。



それから竜龍に連れてこられて、亜嵐さんからいろんなことを学んだ。



一生この人について行こうって、心の底から思えたんだ。



なのに……亜嵐さんは、豹速の卑劣な行為によって命を落としてしまった。



やっと幸福を掴んだと思ったら、今度は大切な人を亡くしてしまったんだ。



俺がもっと強ければ。俺が亜嵐さんを庇っていれば。



多分、竜龍のみんながそう思ったはずだ。



その中でも、亜嵐さんと最後まで戦っていた俺と北人は、その気持ちを人一倍強く持っていたと思う。



だからふたりで、無敵の地位を築き上げた。



上に立つものが強ければ、組織全体が自然と強くなる。



そうして今の竜龍ができあがった。



今、幹部のみんながいて、仲間がいて、俺は幸せな毎日を送ってる。



でも、ときどきふと、亜嵐さんがいた時のことを思い出す。



亜嵐さんが亡くなったあの時のことを。



無力な自分を責めた、あの瞬間を。









【あなたside】




壱馬くんの話に、私は涙を流した。



同情なんかじゃない。



ただただ……胸を打たれた。



心の中で誓う。



私は絶対に壱馬くんから離れない。



絶対、裏切ったりしない。



壱馬くんは私の涙を指で救いとって優しくキスをした。
白濱(なまえ)
白濱あなた
壱馬くん……私は…絶対に離れないからね……?
そう言うと壱馬くんは優しく微笑んで



もう一度キスをし落とした。

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