蝶が鉄格子に止まった瞬間。
パチンっと音がして蝶がガラスのようにパラパラと崩れた。
そんな事ある訳ないだろ……
僕は目の前で起こったことが理解出来なくて何度も目を擦った。
周りを見るといつの間にか僕の周りに黒い揚羽蝶が集まってきていた。
ガラスみたいに割れていった揚羽蝶とは違って毒々しい色を放っている。
ある一羽の揚羽蝶が墓地の奥の方に飛んでいく。
それにつられて他の蝶と共に僕もついて行く。
墓地の端っこらへんだろうか。
急にひらひらと飛んでいた1羽の蝶がある墓石に止まった。
墓石に僕は目を向ける。
そしてその瞬間僕は固まった。
「 涼風 舞」
墓石にくっきりと彫られているその名前。
”名前が彫られている墓を見つけてはいけない。”
その言葉が脳裏によぎった。
すると誰かが僕の肩をぽんっと叩いた。
そして僕にこう聞いたんだ。
全身が金縛りにあったかのように固まる。
声も出せない。
振り向くことなんてもっと無理で。
10秒ぐらい時が止まったような気がした。
止まっていた時が動き出したと共に僕の体も自由になる。
僕は情けない叫び声をあげて尻もちをついた。
そして僕は噂の巫女さんの姿を捉える。
巫女装束を身にまとった僕と同い年くらいの女の子。
でも、その子は体が宙に浮いていた。
何となく噂とは違うな?
と思って僕は逃げずに女の子に話しかけた。
女の子は僕の顔をまじまじと見つめる。
そして、ちょっと困ったような顔をして言ったんだ。
にっこりとしているのにちょっと寂しげな顔で。
……思っていた感じの子じゃないな。
名前って大事だよな。
だって名前ってその人が生きている証拠となるものなんだから。
鈴風 舞。
その名前は巫女装束を身にまとった彼女にぴったりの名前だと思った。
だけどその瞬間君はありえない事を口にしたんだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。