夏なのに薄暗くて涼しい神社。
まるで僕を歓迎するかのようにざわざわと風が木を揺らした。
確かまず右手に柄杓を持って左手を清める。
その次に左手で柄杓を持って右手を清める…だっけ。
最後に綺麗な水で柄杓を洗って、終わりかな。
なんて思いながら僕は石畳を頼りにして奥に進む。
ただひたすら興味本位で。
ぽつっと呟いた言葉が静かに響きわたる。
周りを見てもあるのは神社の本殿と……
噂のお墓が沢山ある所。
そんな強がり言ったって内心心臓がバクバクと飛び跳ねている。
ちょっと入ってみようかな。
なんて考えが一瞬脳裏によぎった。
僕は水面を揺らしながら本殿の方に歩いて行く。
大きな鈴に結び付けられた縄。
僕はお賽銭を入れて紐を揺らした。
静かな神社にガランガランと鈴の音が響き渡る。
あんまり神社とかの礼儀がわかっていないけれど多分これであってるよな?
間違ってたらなんかバチが当たりそうな気がする。
そう願ったらスっと顔をあげて墓地の方に歩き出す。
ビビってちゃダメだよな。
墓地の入口の鉄格子に手をかける。
普通なら鍵がかかっているはずなのに少し力を入れただけでギギギィと鉄格子が開いた。
僕は周りを見ながら墓地に足を進める。
どの墓石を見ても何にも書かれていない。
まるで四角い石が置いてある場所みたいだ。
ふと僕は違和感に気づく。
そう思って地面を見てみると僕にとって予想外な事が起こっていた。
いつも地面に張り付いているようにあった水が無い。
僕はちょっと怖くなってさっきの鉄格子の所に戻る。
さっきまでいた本殿の所にはいつも通り水が張り付いている。
でも下を見れば水に包まれていないむき出しの地面。
鉄格子がまるでガラスのように地面ある水を跳ね返しているみたいだ。
そんなことあるわけ……
そう思いながらぼーっと鉄格子の先を見つめていた。
ふわりと白色の揚羽蝶が僕に向かって飛んでくる。
その瞬間、僕の目の前で有り得ないことが起こったんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!