第23話

22話
9,925
2022/11/05 15:38
……やっぱりお前か
あなた
え?


顔をあげた先には、バレー部のキャプテン、澤村先輩がいた。
澤村大地
なにしてんだ?コソコソして
あなた
い、いやー...
あなた
田中に届けもの頼まれたんですけど体育館に入れなくて

や、やばい。どうしよう。

澤村先輩怒ってないかな…色んな意味で怖い。


すーっと血の気が引いて言っているのが自分でもよくわかる。
澤村大地
あー、じゃあ俺が届けておくよ
あなた
いいんですか!?

え、めっちゃありがたい。

すごくお願いしたい。
よしお願いしよう。
あなた
じゃあお願いします
澤村大地
はーい
澤村大地
それだけでいい?
あなた
はい、ありがとうございます!

すごい優しい……。
怖いとか思ってごめんなさい。
澤村大地
じゃ
あなた
ありがとうございます

澤村先輩は紙を受け取り、体育館へと戻った。





その瞬間だった。

大地さんは田中の方ではなく、まっさきに東峰先輩の元へ向かっていった。
何を話しているのかは聞こえないが、少なくともこっちを指さしてるのはわかる。



うん、大地さん??


少し様子を伺っていると、東峰先輩の様子が急に変わったのが目に見えてわかった。

待って、なんかこっち来てない?
え、どうしよう。





いや、うん。
澤村先輩だもん。きっと大丈夫だよね。
僕のこと話したりとかしてないよね。
きっとそうだ。

東峰先輩がこっち来てるのもきっと気のせい……


東峰旭
あなた……!
あなた
じゃなかった…


大地さん、嫌がらせなのか…?


何をどう話せと。
東峰旭
あー、少し話せる…かな?
あなた
部活抜けてきていいんですか?
東峰旭
大地がいいってさ
あなた
……


流石にこれは逃げられないなと悟ってしまった。


めっちゃ逃げたい。
すごく逃げたい。







でも、けじめをつけるチャンスなのかもしれない。



僕は、またコートに立ちたい。
また思いっきり打ちたい。

また、東峰先輩と一緒にバレーがやりたい。


そのためには、言わなくちゃ。
あなた
……



…何を?
何を言えばいいかわからず、開きかけた口を閉じた。
東峰旭
ひとつ話していいかな?
東峰旭
あ、聞きたくなかったら聞き流してもらっていいんだけど...
あなた
…なんですか?
東峰旭
あなたは、別に俺を目指さなくてもいいんだよ


え……?
東峰旭
あなたは俺なんかよりずっとすごい
東峰旭
正直俺なんかよりあなたの方がエースに合ってる
東峰旭
サーブもトスもスパイクだって、どれをやらせても俺よりすごい
東峰旭
逆に俺が憧れるくらいに...!


先輩は一体何を言っているんだろう...。
どう考えても先輩の方がすごいのに。
東峰旭
あなたは、この部活に必要なんだよ
東峰旭
まあ嫌っていうなら、俺に止める権利はないんだけどさ


そう言って東峰先輩は頼りなさげな笑みを浮かべた。


先輩は、やっぱり僕よりもすごい。
あなた
なんかとか言わないで下さい
東峰旭
え?
あなた
先輩はすごいんです
あなた
エースは東峰先輩しかいないんです

先程とは裏腹に、次々と言葉が出てくる。
あなた
僕の憧れた先輩を、俺なんかなんて言わないでほしいです
東峰旭
あなた...
東峰旭
…わかった
東峰旭
じゃああなたのために「なんか」をつけるのはやめるよ

多分、今僕が言うべきはこれじゃなかった。
それだけはすごくわかる。
あなた
...僕はずっと先輩に憧れてました
あなた
先輩みたいになりたいって
東峰旭
うん
あなた
でも、僕じゃ先輩みたいにはなれないって気づいて跳べなく...
あなた
いや、跳ばなくなりました
東峰旭
うん
あなた
でも、この間ある人に言われたんです
あなた
跳べないなら、飛べばいいって
あなた
あとバカって言われました笑

うん、今なら大丈夫な気がする。
あなた
それで気づいたんです
あなた
自分は視野が狭かったんだなーって
東峰旭
うん
あなた
その後打ってみたら、すごく気持ちよくて
あなた
またバレーやりたいって思いました
東峰旭
あなた
今度は、先輩を目指すんじゃなく、自分のやり方を探してみようと思います
東峰旭
それって...

東峰先輩の顔が少しずつ明るくなるのがわかる。

最後の一言、ようやく言える。
あなた
僕も、一緒に全国目指していいですか?
あなた
まだ間に合いますかね
もしかしたら、今のはだいぶ弱々しい声だったかもしれない。

自分でも情けない声を出していた自覚はある。


でもそんなことより、吹っ切れた気持ちが大きかった。

プリ小説オーディオドラマ