顔をあげた先には、バレー部のキャプテン、澤村先輩がいた。
や、やばい。どうしよう。
澤村先輩怒ってないかな…色んな意味で怖い。
すーっと血の気が引いて言っているのが自分でもよくわかる。
え、めっちゃありがたい。
すごくお願いしたい。
よしお願いしよう。
すごい優しい……。
怖いとか思ってごめんなさい。
澤村先輩は紙を受け取り、体育館へと戻った。
その瞬間だった。
大地さんは田中の方ではなく、まっさきに東峰先輩の元へ向かっていった。
何を話しているのかは聞こえないが、少なくともこっちを指さしてるのはわかる。
うん、大地さん??
少し様子を伺っていると、東峰先輩の様子が急に変わったのが目に見えてわかった。
待って、なんかこっち来てない?
え、どうしよう。
いや、うん。
澤村先輩だもん。きっと大丈夫だよね。
僕のこと話したりとかしてないよね。
きっとそうだ。
東峰先輩がこっち来てるのもきっと気のせい……
大地さん、嫌がらせなのか…?
何をどう話せと。
流石にこれは逃げられないなと悟ってしまった。
めっちゃ逃げたい。
すごく逃げたい。
でも、けじめをつけるチャンスなのかもしれない。
僕は、またコートに立ちたい。
また思いっきり打ちたい。
また、東峰先輩と一緒にバレーがやりたい。
そのためには、言わなくちゃ。
…何を?
何を言えばいいかわからず、開きかけた口を閉じた。
え……?
先輩は一体何を言っているんだろう...。
どう考えても先輩の方がすごいのに。
そう言って東峰先輩は頼りなさげな笑みを浮かべた。
先輩は、やっぱり僕よりもすごい。
先程とは裏腹に、次々と言葉が出てくる。
多分、今僕が言うべきはこれじゃなかった。
それだけはすごくわかる。
うん、今なら大丈夫な気がする。
東峰先輩の顔が少しずつ明るくなるのがわかる。
最後の一言、ようやく言える。
もしかしたら、今のはだいぶ弱々しい声だったかもしれない。
自分でも情けない声を出していた自覚はある。
でもそんなことより、吹っ切れた気持ちが大きかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。