結局今日は何も話さずに帰りの会が終わった
侑もカバンに教科書を詰めて
話しかける様子もないから
教室を出ようとカバンを持ったその時
『待てや』
侑に腕を引っ張られて引き止められた
『まだ話しとらんやろ』
侑は真っ直ぐ目を見てそう言った
『侑、先行ってるね』
教室のドアから顔を覗かせる角名くんは
この雰囲気を察しているようで
その場を去っていった
教室は侑と私しかいなくなった
『その・・・』
『昨日はすまんかった』
目線をそらして
頭をかきながらそういう侑
『気ぃ引くために、必死になって周り見えなくなってん』
『せやからほんますまん』
侑は私の目の前で
勢いよく頭を下げてきた
『別にええよ、これからも普通に話してや』
侑と気まずくはなりたくはなかった
高校生だからよくある話じゃないか
学校で気まずくなるんは私が嫌や
『でも普通は無理やねん』
『・・・てかずっと前から普通やないな・・・』
『普通に話すは無理やねん』
『・・・あなたのことほんまに好きになってしもうたから』
頬を赤くして侑はそう言った
『プラネタリウムもあんなこと言ったけど実は全部本気やった』
『いつも馬鹿にしとるけど冗談やないで』
『ほんまに好きやねん』
侑は揺れる目で私の手を取ってこう言った
『治やなくて俺のことも見てや』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。