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第7話

いない、、。
33
2018/08/18 00:02
────「先輩、、!」

美術室の扉を開け、中へ入った私は、しばらく身動きがとれなかった。

いつも笑顔で迎えてくれるはずの先輩の姿が、無かったのだ。
相楽泉
相楽泉
(いつもなら、この時間にはもう来ているはず...)
私は職員室へとものすごいスピードで突っ走り、3年のHRの先生を訪ねてみた。

先生は、「片岡君なら、家の事情で休んでいるよ。」と言われた。

仕方なく、私は美術室へ戻る事にした。
先輩のいつも座っている机へ座り、窓の外のオレンジ色の空を眺めた。
相楽泉
相楽泉
先輩、、、昨日はそんなこと言ってなかったのに、、、急用だったのかな。
誰も居ない美術室をぶらぶらと歩いていると、『片岡蓮』と先輩の名前が記入された小さなノートを見つけた。

ペラペラとページをめくっていると、先輩の日記のようなものだと分かった。

興味本位で、私はつづられた文字に目を通していた。

美術部へ入部した時の事。

美術コンテストの事。

橋本玲奈のこ、、、
相楽泉
相楽泉
ん?
私は手を止めた。

去年の夏ぐらいから、どのページにも、橋本玲奈の名前があった。
『橋本玲奈が、美術部に入部してきた。彼女は僕より一年上の先輩だ。』

『先輩を名前呼びするのは、少し気が引けたが、彼女が呼べというのだ。しょうがない。』

『僕は玲奈を好きになっていたんだ。
彼女は、ぼくと出会ったその日から、まるで長い付き合いだったかのように、積極的過ぎるほど、話しかけてきてくれた。』

『蓮って玲奈が呼んでくれると、なんだか嬉しくなった。彼女の笑顔が大好きだ。』

私は、日記の上の文字が、にじんでいくのに気がついた。

頬をつたる滴。
相楽泉
相楽泉
(先輩も、恋してるんだね。)
 『玲奈に、後夜祭の花火を見ないかと誘った。彼女は笑顔で了解してくれた。プールサイドからの花火は、とっても綺麗だった。』
相楽泉
相楽泉
(図書室の絵、、。)
『玲奈と見た花火の絵は、図書室へと飾られた。美術コンテストでの優勝は、まだ遠い。』
私は、数ページを吹っ飛ばし、ふと目に止まったページに目を通した。
『転校生の相楽さん。美術部への勧誘には失敗したが、美術室へは、来てくれるようになった。受験勉強は後回しだ。部へ入ってくれなくても、芸術の素晴らしさを知って欲しい。』
相楽泉
相楽泉
先輩、、、そんなこと思ってたんだ。受験、大丈夫なのかな、、、
『相楽さんは、あの夕焼けの美しさを分かってくれた。玲奈が僕にあの夕焼けを見せてくれた時から、僕はあの感動を、誰かに分けてあげたいと思っていた。』

『玲奈は大丈夫だろうか。先日、彼女の大学の周辺で火災が起こったらしい。連絡がつかない。』

『明日、玲奈の東学大学を訪ねてみよう。』
相楽泉
相楽泉
(東学大学、、、)
私は日記を閉じた。

全てが一致した。

夕焼けを見ていた少し寂しそうな先輩。
きっと、玲奈さんの事を思い出したのだろう。

全ての謎が解けた時の名探偵のような気分だった。

先輩は、玲奈さんのことが心配で、東学大学へと行ったんだ。

だから、美術室へ来なかったんだ。

状況が飲み込めたところで、私は明日になれば先輩に会えると思っていた。

けれど、先輩は次の日も、そのまた次の日も来なかった。

誰も居ない美術室で、独り刻刻と時が経っていくのを感じた。

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