第25話

〈春〉元彼の偉大さ①
7,253
2020/05/21 03:09
帰宅途中



徹が家まで送ってくれると言うので、途中ハジメと別れて暗い夜道を2人、並んで歩く。

2人っきりだからと言っても話す内容は馬鹿な話。

徹の学校の事とか音駒の事とか話とか。

徹が仲のいいと言う花巻君や松川君の話をするので、自分もやっくんや海、芝山君の話をした。

馬鹿な話、友人の話、学校の話。

内容は違くても全て“バレー”に共通する話をしているのは確かだった。

自分たちのバレーバカが身に染みて分かる。


『そしたら芝山くんがね__


……あ、懐かしい。』

徹「ん?何が?」

『ほら、ここ。』


歩き始めて十分ぐらいたったところで、公園の前を通る。

徹と付き合っていた頃、放課後よく寄った公園だ。

ほんと懐かしいねーなんて言いながら自然と足は公園の中。

もちろん夜なので真っ暗だが、街灯の光と月の光でそんなに暗くはない。

公園にある唯一の遊具、ブランコに腰を下ろす。

ブランコ2つと小さな砂場だけという素朴な公園だが、思い出は沢山ある。


徹「ブランコ小っさ!」

「立ち漕ぎなんてしたらもう頭当たるね。」

徹「首曲げないと漕げない。」


徹もブランコに腰を下ろし、ゆっくりと揺れる。


「昔は立ち漕ぎ大好きだったのになぁ。
もう出来ないなんて、私達も成長しましたね〜。」

徹「いや、あなたは成長してないでしょ。
身長伸びてないじゃん!!」

「徹!
そこはそーだねーなんて言うところだよ!
空気読んでよバカ!!」

徹「そんなに怒るほどなの!?」


あの頃と話してる事など全然変わらない私達。

変わったのは関係だけ。


「やっぱり宮城は落ち着くなぁ。」

徹「なら戻ってきなよ。」

「それは無理だよ、学校は東京だもん。」

徹「じゃあ学校・家・親は関係なしにあなたの気持ちでは?」

「んー……。」


自分の気持ち。として考えてみると究極の選択だ。

宮城も好きだし、東京も好き。

だけど、今は……


「東京にいたい。」


根拠はないけど東京にいたい。


徹「彼氏ちゃんと喧嘩してるのに?」

「……やっぱり全部バレバレだったんだ。」

徹「好きだったのになーって言ったところで完璧に分かったよ。」

「……。」


私をじっと見つめて言う徹。

本当に徹だけには隠し事できない。

と思った瞬間だった。


徹「まぁ喧嘩の内容もあながち分かるけどね。」


何故か無性に悔しい。

喧嘩の原因はコイツだ。

徹が飛雄に嘘の情報を与えなければめんどくさい事にならなかったのだ。

こんな事にならなかったのだ。


徹「で、どんな感じて喧嘩したの?」


興味津々に聞いてくるので仕方なく教えることにした。




____________

________




徹「彼氏ちゃん可哀想すぎない!?」

「もう、みんなそう言う。」

徹「そりゃあそうだよ!!
自分の知らないところで元彼とコソコソしていたら嫌だよ!」

「お前が言うな。」


夜風が頬を撫でる。

冷たすぎず、生ぬるくもなく丁度いい。


及「もし俺があなたの彼氏の立場だったらちょー嫌だ。」

「……だから謝るって。」

徹「どうして?」

「どうして?って……。そんなの自分が及川のバカの事を隠さなければこんな事にならなかったんだから……隠し事してごめんって言うよ。」

徹「及川のバカの事って酷くない!?」


はぁ……。と深いため息をつく徹。

私、間違ったこと言った?


徹「あなたって本当バカ。」

「お前だけに言われたくない。」


「ちょっと、さっきから辛辣すぎない!?」とかなんとか言っている徹を横にチラッとスマホを見た。

時刻は21:57。

もうすぐで22時を回る。


徹「言っとくけどあなたは、なんにも分かってないと思うよ。彼氏ちゃんの気持ち。」

「え?」

徹「よく考えてみなよ、あなたが隠し事しただけで普通別れるぐらいの喧嘩になる?」

「内容によるよ。」

徹「まー、そうだけどさ。
でもそれだけであなたを泣かすほど怒る理由にはならないでしょ。」

「そんなの徹には分からないじゃん。」

徹「いや、分かる。」


急に徹の声が低くなった。


徹「あなたの事が好きだからもっと知りたいと思うんだよ。彼氏ってものは。」

「!」


そう言えば、私は黒尾に自分の事を話した事なんてあまりない。

私の誕生日や血液型、これが好きこれが嫌い、など大体の事は知っていると思う。

だけど宮城にいた頃の話は……?


徹「どーせあなたの事だから元カレの事とかも話さなかった。いや、元カレどころか宮城にいた頃の話もあまりしてないんでしょ。」


今日喧嘩した時に、初めて元彼の話題に触れた。

今日喧嘩した時に、宮城にも仲のいい男友達がいる事を言った。


「自分の情報なんていらないだろ。なーんって思っているんだろうけど、彼氏からしたら欲しいんだよ。

“そのいらないと思っている情報が。”」

「!」


黒尾からはたくさん貰っている。

研磨との出会いとか、家族の事とか。

なのに私はただ聞くだけで何もあげてない。

バレーを辞めたことも、宮城のことも、家族のことも。

“必要ない”と思ってずっと捨てたままだ。


徹「あなたの信じてくれなかったと言う言い分も分かるよ。
だけど、あなたはあなたで信じてもらえるような事した?話した?」

「……いいや、してない。」

徹「だよね、だから彼氏ちゃんも不安だったんだよ。不安や焦りの状況で元彼である俺の事知って……。尚更焦ってあなたにきつく当たったところかな。」


ものすごく悔しい事に徹の言っている事は正論なんだ。

徹の1つ1つの言葉が身に染みてくる。

今なら、自分の気持ちをはっきり黒尾に伝えられる。

ちゃんと謝れる。


「徹……。」

徹「ん?」

「……なんで分かるのキモイ。」

徹「ドン引きした目で見ないでよ!!
及川さんかっこよかったじゃん!!」


あーだこーだ言っている徹をほったらかして、ブランコから下りる。


徹「ま、2人ともコミニュケーション不足ってことだね。」

「ちゃんとコミニュケーション取ってるのになぁ」

徹「もっと取らないと。
自分の事どんどん話しなよ。
あなたの彼氏ちゃんだったらどんなあなたでもきっと受け止めてくれる。」


その言葉がものすごく嬉しかった。

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