第21話

〈春〉喧嘩中③
7,683
2020/04/23 12:26



夜「……想像以上の喧嘩したんだな。」
「どういう意味よ、やっくん。」


私はペットボトルを空けてごくごくと居酒屋で飲んでいるサラリーマンのように飲む。

話したらなんだか気が楽になった。


夜「個人的には馬鹿とか阿呆とか言って終わりかと思えば、もう別れた感じじゃねーか。」

「……まだ別れたわけじゃないし。」


正式に別れた訳では無いが、きっと別れるのだろう。

黒尾もあんな様子だし。

もう復縁する雰囲気ではない。


山「でも話を聞いている限り黒尾さん可哀想っすよね。」

「あ!山本!!お前はアイツの味方か!!」

山「え!味方とかあるんすか!?」

夜「確かに黒尾も可哀想だよな。」

「……何2人とも。」


今回の件はちゃんと言わなかった私が90%悪い。

だが、黒尾も私のことを信じてくれなかった。

なのに黒尾を味方するのか。

私が全部悪いってか。

コノヤロー……。


夜「あなたが嘘ついてないとはいえ結構ダメージ受けるよな。」

山「黒尾さん、あなたさんの事めっちゃ好きだから尚更っすよ。」

夜「しかも、相手は元カレ。」

山「勝ち目ないっすね。」

「……もうこいつら嫌だ。」


私の気持ちを分かってくれない。

不貞腐れてガバガバとお菓子を食べる。

どうせ全部私が悪いんですよーだ。


夜「烏養、さっさと謝れよ。」

「……謝るけどさ……。」

夜「さっさと謝らねーと取り返しつかない事になるぞ。」

「……分かってるよ。」


分かってるけどさ。


「みーんな黒尾の味方するから謝る気ゼロ。」

夜「はぁ?バカか。」



研「……おれ、クロが悪いと思うけど。」


ボソッと研磨がゲームをしながら言った。

みんなが研磨を見る。


山「お前……聞いてたのかよ。」

研「うん。」

「ずっとゲームに集中しているかと思ってた。」

研「馬鹿みたいな大きな声で言っていたら嫌でも聞こえる……。」

「なんかごめんなさい。」


って、謝っている場合ではない。

黒尾の幼馴染み代表でもある研磨が私の味方をしてくれている。


「どうして私の味方するの?」

研「味方してない。」

夜「研磨がなんで黒尾を敵に回すんだよ?」

研「……回してない。」

「ねー、どうして?」

研「ただ、付き合って半年ぐらい経っているでしょ?」

「うん、半年は経ったよ。」

研「そのぐらい一緒にいる彼女を信じてあげないクロもクロだと思うけど。」

「「「……。」」」


研磨の言葉に納得したのかどうか分からないがみんな黙る。


「け、研磨ぁ……」


今私が一番欲しい言葉を言ってくれて、あまりの嬉しさにぐしゃぐしゃーっと研磨の頭を撫でる。

そんな中だも研磨はゲームから目線を外さず辞めて。の一言。


「お前ら分かったか!」

研「でもあなたは謝りなよ。」

「……。」


深くため息をついてから頬を杖を着く。


「なんて謝ればいいのかなぁ……。」

夜「なんてって……。
普通にごめんって謝ればいいだろ。」

「それが出来ないんですー。」


とにかく私が謝ればいいという事は分かった。

だが、どうやって謝る?

別に嘘はついていないから、嘘ついてごめんなさいでは無いし……。

「ただいまー。」

と、聞きなれた声がした。


「あ、お兄ちゃんおかえり。」

「お前まだいたのかよ……。
って、え!?音駒!?」

「「お、お邪魔してまーす。」」


驚くお兄ちゃんに、驚くやっくん達。

お互いに挨拶はしているが驚きを隠せてはいない。

お兄ちゃんこと、烏養繋心はお母さんのお店で働いている。

坂ノ下商店の店主だ。


繋「まー、ゆっくりしていけよ。」


俺シャワー浴びてくるわ。と私に言って家に繋がる廊下を歩いていった。


夜「おい、お前の兄ちゃん烏野のコーチかよ。」

「うん。」

山「兄妹でバレーしていたんすか!?」

「まぁおじいちゃんもだけどね。」

夜「よく見ると似てるな。」

「嬉しくないけどどーも。」


ふと時計を見る。

時刻は5時半を指していた。


「あ、そろそろ準備しよ。」

夜「俺達もそろそろ戻らねーとな。」


これから私は徹とハジメと夕飯を食べに行く。

やっくん達は今から東京に帰るため、バスターミナルまでここから電車を使って行く。


「私着替えてくるから、ちょっとまってて。」

夜「おう。」


駅まで一緒に行く予定なので、私は急いでトランクケースに入れていた私服を取りだし奥の部屋で着替える。

さすがに音駒ジャージでは行けないので、唯一持ってきた私服だ。

徹とハジメとは駅で待ち合わせしている。

きっと予定の時間より早くつくのでメイクは駅のトイレでしよう。

とりあえず着替えて、お金とスマホ持てばいいか。

黒のパンツにワイシャツを着てベージュのニットを着る。

肌色のショルダーバッグに、金のイヤリング。

メイクとは言えないが、リップを塗っておく。

全身鏡で自分の姿を確認し、店へと戻る。


山「あ、姐さん!すっげー可愛いっす!」

夜「私服のお前を見ると美人だよな。」

「山本ありがとう、やっくん失礼ね。」


正直、黒尾との喧嘩の事で頭はいっぱいモヤモヤしているが、今からは久しぶりの友達との夕飯を楽しむことに集中する事にした。

プリ小説オーディオドラマ