第28話

〈春〉キミがいないと。②
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2020/07/18 14:02


部活終わって、急いで着替えて校門に着いたのは19時過ぎ。

日が延びたから19時というのにまだ辺りは明るい。

俺はただ1人、スマホを片手にあなたが来るのを待つ。

これから1時間後には俺達の関係は決まっているんだ。

自分から呼び出したというのにこれからあなたと会い、2人っきりになるのが正直辛い。

前にもあなたと居て辛いと1度だけ思ったことがある。

それは付き合う前。

俺があなたに片思いしていた時だ。

転校生としてやってきたあなたを好きになるのはそう時間はかからなかった。

何度も告白しようと思った。

だが、あなたに彼氏がいるかいないかもわからない状態で告白する勇気なんてない。

彼氏がいると言われた時のショックはもちろん。

俺たちは同じクラスで同じ部活。

顔を合わせない日なんてほとんどない。

そんな中、告白して振られたら……。

お互い気まずくなるだけだと分かっていたからだ。

だから2人っきりで帰っている時の空間がとても辛かった。

今ここで彼氏は?なんて聞けたらどんなに楽だろう。

俺はあなたの事好き。

だけど、あなたは?

その気持ちが無限にループしていた____




ただの思い出。



『黒尾!』


効き慣れている声に名前を呼ばれハッと顔を上げる。

目の前には少し息切れ気味なあなたの姿。

走ってきたのだろう。

髪が少し乱れている。


『ごめんね、待たせちゃって。』

黒「全然待ってないから大丈夫。」

『そっか。じゃぁ行こ。』


目的地なんて決めてない。

学校に背を向けただゆっくり薄暗い夜の道を2人で歩く。


『ほんとコーチは鬼だ…。
みんなの練習姿を見たかったのに。』

黒「そういえば今日、山本がいいスパイク決めてたな。」

『ええ!?見たかったんだけど!!』

黒「やっくんが動画撮ってたわ。」

『よし、今すぐもらおう。』


と言ってもポケットからスマホを取り出すあなた。

さすがバレー馬鹿だ。


黒「ってのは嘘デース。」

『なっ!!??』

黒「見事に騙されてるあなたサーン。」

『ひどい!
相変わらず黒いね。』

黒「そりゃーどーも。」

『褒めてない。』


喧嘩しているの?お二人さん。

と、思われてもおかしくないほど普通に喋れている。

さっきまでの不安はいったい何だったのだろうか。

喋っている俺自身、正直驚いている。


『…。』
「…。」


だが、一度会話が途切れると居た堪れない雰囲気になるのはやはり喧嘩しているからだ。

…そろそろ言わないと。

バス停のベンチに座る。

時間が遅いからかバス停には俺たちだけだった。

俺たちを灯すのは一つの街灯だけ。

深呼吸をして覚悟を決める。

よし…。

「『あなた / 黒尾 』」

「『…。』」


タイミング最悪。


『あ、あ!!く、黒尾からどうぞ!』

黒「い、いやあなたから!」

『黒尾から!』

黒「あなたから。」

『…黒尾から!』

黒「あなたから。」


と言い続けること5分。


『…分かった。せーので言おう。』

黒「…分かった。お前ちゃんと言えよ。」

『黒尾もね。』

黒「いくぞ。」

『…うん。』

黒「せーのっ…」




_____ごめん。









________
_____
-



俺もあなたもお互い伝えたいことは同じだった。

この際だからってお互い今思っている事、全て伝えた。

と言ってもお互いひたすら謝罪の言葉を述べただけだが…。
      
あなたから元カレの話を聞いた。

この前と違って今日は元カレの話とはいえ落ち着いて聴くことができた。

自然と焦りや不安はない。

あなたの本音を聞いたから…か?

話の流れでトーク画面も見せてもらった。


黒「…いい迷惑だな。」

『うん。迷惑。』


烏野のセッターに恨みでも持ってんだろうか。

と感じされられる内容。

どうみても…かまってあげている内容ではない。

決してあなたの意思であんな事になった訳ではないと知ったので一先ず安心したが。

このあなたの元カレ…。

及川徹。


黒「…面白い元彼だな。」

『…悪い奴じゃないんだよ。』

黒「まぁあなたの元カレをしていた奴だからそうだろな。」


ふとトーク欄の及川徹のアイコンを見て思い出す。

この顔…。

自分のスマホを取り出しインスタを開いた。

誰だって思ったが…。


『え、なんで徹のインスタ知ってるの?』


彼女の元彼かよ。

【とーる。】

と書かれているプロフィール画面に、沢山の投稿。

フォロワーさん5000人以上。

友人が多い方の俺でも500ぐらい。

俺の10倍かよ…。


黒「昼ぐらいにフォローされてたんだよな。誰かと思えば…。」

『私のところから見つけ出したんだろうね。』

黒「自撮りばかり…だな。」


東京行きました!
遊園地行きました!

場所の写真をあげているのではなく、全て自分の顔。

バックの観光名所はほぼ写っていないのと同時。


『…本当、悪い奴じゃないからね。
フォロバしてあげてね。』


あなたに言われなかったら絶対フォロバなんてしない。

仕方なくフォロバした。

コトンと突然、肩に重さを感じる。

横目で見るとあなたが顔を真っ赤にしながら寄っかかってきた。


『……やっぱり黒尾がいなきゃ嫌。』


珍しく素直なあなた。


『て、鉄朗…。』

「!?」

『…好きだよ。』


…柄にもなく甘えて。

そして突然名前呼び…?

ざけんな。




黒「それはこっちのセリフだ。」

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